病床削減時代を生き抜くベッドコントロール術

著者:木村憲洋(高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授)

一般病床の様子が、これまでとは大きく変わりつつあります。今、医療機関で何が起こっているのか、データをもとに解説します。

少ないベッドでたくさんの患者を診る時代へ

図1一般病床の平均在院日数一般病床の平均在院日数の2年間の統計を、厚生労働省の病院報告からグラフにまとめました=図1=。
2014年度の改定以降、平均在院日数は多少の変動がありながらも短縮傾向にあり、2015年以降は16.5日を切るようにもなってきています。このまま行くと、平均在院日数が16日を切るのも時間の問題でしょう。

図2 一般病床の稼働率平均在院日数が短縮されれば、病床回転率が上がり、病床稼働にも大きな影響を及ぼすはずです。こちらもグラフを見てみると、病床稼働は2014年度改定前後とも70%強で推移していますが=図2=、一方で一般病床の届出数は減っています=図3=。

 

図3 一般病床数稼働率はそのままに一般病床届出数が減っているのですから、日本の1日あたりの入院患者数が着実に減っていることが分かります。

窮地に立つ地方のケアミックス病院

実際に診療報酬改定後、様々な病院から「病床の稼働数が減っている」という話はよく聞きます。顕著なのが「人口が減少傾向にある地方都市の200床以下の病院」。とりわけケアミックス病院は、厳しい状況にあるようです。

JU048_72Aこうした病院がなぜ厳しいか―。かつて本連載でも取り上げましたが、その理由として、90日以上入院している特定の状態の患者さんの除外規定が無くなったこと、短期滞在手術等基本料3が新設されたことが挙げられます(参考: 2014年度診療報酬改定で痛手の入院医療、カギは地域包括ケア病棟 )。

これまで、「90日以上の特定除外患者の扱い」制度や、「短期滞在手術入院基本料3」を、平均在院日数を下げるためのテクニックとして利用していた医療機関も存在していましたが、2014年の改定によって、こうした小手先のテクニックで一般病棟の基準を上げていくことが難しくなったのです。

最近ではさらに、7対1病棟の施設基準に在宅復帰率75%が新設された影響も現れ始めています。
これまで一般病棟から退院した患者さんは、自宅療養が難しい状態であれば、ケアミックス病院の一般病棟へ紹介されることも珍しくありませんでした。しかし、在宅復帰率75%という施設基準ができたことで、紹介元としては他の病院の一般病棟への退院を望まなくなったのです。

もし、今後の診療報酬改定で国がより一層、稼働を落とすような戦略を強めてきたらどうなるでしょうか。もし、入院基本料の平均在院日数を20%程度下げられるようなことがあったら、病床の稼働はさらに厳しいものになることが予想されます。

[adrotate group=”7″]

経営改善のカギは「ベッドコントロール」

「稼働病床数が減少傾向にある中で、いかに売上にドライブをかけていくか」―病院経営者は、この難問への答えを考えなければなりません。最近では、病棟の1日単価を上げられるよう、ベッドコントロールを工夫する医療機関が現れ始めています。

これからの時代、ベッドコントロールの目的は、「入院日数を引き延ばすこと」ではありません。入院を断っていた患者を受け入れることなどによって、「病床の1日単価を最大化」「入院患者数を増加」させることが大切になっていきます。

ポイントは、入院と言われたらすぐにベッドを確保すること、診療側から退院許可が出た時点で適切な退院のタイミングを探ること。そのために、看護部だけではなく地域医療連携室や事務部門がベッドコントロールに携わる医療機関が増えてきています。これらの部門が入院から退院まで一元的にベッドコントロールを行うことで、退院が難しい患者さんへの介入も早期に行うことができる、といったメリットがあるようです。

病棟ごとに、ベッドコントロールの目的は異なる

dc7ca2120ecde335cdddc1d3240406d0_sさまざまな病院の成功事例を分析してみると、より効果的にベッドコントロールを行う上には、2つのポイントがあることが分かります。1つ目のポイントは、「病棟の種類によって、ベッドコントロールの目的は異なるということ」です。

医療機関には、「入退院数」を最大化すべき病棟と、「稼働率」を最大化すべき病棟があります。
入退院数を最大化させるべき代表例が、一般病棟でしょう。手術や検査などの特掲診療料を多く獲得する必要があるため、病床の稼働数を上げるより、病棟への入院患者が増えることを主眼にベッドコントロールをした方が売上は上向きます。一方、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟では、入退院患者数より、病棟の稼働率を上げることを念頭に置かなければなりません。

このように病棟ごとに診療スタイルは異なるので、自院が何を目的にベッドコントロールを行うか、意識しておく必要があります。

病棟移動のタイミングに注意

図4 転棟のタイミングベッドコントロールをより効果的に行うためのもう1つのポイントは、「病棟の移動タイミングを良く考えること」です。

一般病棟と回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟では、患者さんを移動するタイミングで病床の1日単価に違いが出ます。1日単価が最大化されるタイミングを見極めて患者さんを移動させていくことで、売上を向上させることが可能です。

入院患者さんの1日単価は、図4のようになります。一般病棟の場合、入院当初は、医療資源の投入量が多いため、1日単価が高くなりますが、日数が長くなればなるほど病状も安定するので医療資源の投入量が減っていきます。そこで、一般病棟の単価が包括病棟の点数を下回ったタイミングで転棟することができれば、病床の1日単価を最大化させることができます。事務部門が診療側と連携を取りながら、転棟のタイミングを探っていくことによって、経営的には良い影響が出てくるでしょう。

木村憲洋(きむら・のりひろ)
武蔵工業大学工学部機械工学科卒。国立医療・病院管理研究所病院管理専攻科・研究科修了。神尾記念病院などを経て、高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授。
著書に『病院のしくみ』(日本実業出版社)、『医療費のしくみ』(同)など。

[adrotate group=”12″]

関連記事

コメント

HTMLタグはご利用いただけません。

スパム対策のため、日本語が含まれない場合は投稿されません。ご注意ください。

医師の働き方改革

病院経営事例集アンケート

病院・クリニックの事務職求人

病院経営事例集について

病院経営事例集は、実際の成功事例から医療経営・病院経営改善のノウハウを学ぶ、医療機関の経営層・医療従事者のための情報ポータルサイトです。