経営支援事業部 病院経営支援グループ ビジネスディレクター
医療機器メーカーで営業担当として従事する中で、経営事情を理由に「理想の医療」を提供できない医療機関が多数ある事実に直面。病院の経営課題の解決を志し、エムスリーキャリアに入社。経営支援事業部に所属し、全国で地域包括ケア病床の導入を支援中。
地域包括ケア病棟は、2014年度の診療報酬改定で新設されて以降、病棟の届出が増えていますが、今なお導入に二の足を踏む病院も少なくないようです。多くの職種が活躍する病院という組織において、病床転換という一大プロジェクトを成功させるのは容易なことではありません。本企画では、プロジェクトを成功させた病院の実例をご紹介します。
今回は事務編として、病床転換を行った北関東にあるA病院のM事務長にお話を伺いました。
院長を変えた言葉
M事務長(ケアミックス病院)
当院に病院事務として入職したのは、先代院長の時代でした。先代の時には救急車も積極的に受け入れ、院内の雰囲気も活気があったと思います。その後、現院長に世代が代わり、救急は縮小する方針になりました。おそらくその頃から病院の収入が少しずつ下がり始めたと思います。先代の事務長も何かしなくてはとお話になっていましたが、具体的な対策を進めるほどには至らず、院内の雰囲気も以前の活気があった状態から落ち着いていったと思います。
その後、事務長職を拝命し、この状態をどうにかしなくてはならないと加算取得に乗り出しました。認知症ケア加算など、算定を見込める項目はどんどん取るという方針でいきました。院内は当初こそ否定的な意見で満たされていたのですが、実際に算定できていくと、「自分たちでもできるんだ」と前向きになってくれました。その時に地域包括ケア病棟についても調べたところ、当院の患者層や病棟運用にマッチしていると感じ、私達でもできるかもしれないと考え始めました。
しかし、それまで取り組んできた加算算定などと比べてハードルは高い。運用ノウハウはないですし、普段の業務に追われる中で本当に進めることができるのかという実現可能性への疑問もあります。最終決定者である院長を納得させるためには、それらの懸念をクリアにする必要がありました。その際にお電話でエムスリーキャリアさんから「地域包括ケアにご興味ありませんか?」とお電話をいただき、お話を伺いました。
実際に他院で導入された際のエピソードや、施設基準の内容、当院が届出を出すには何をしなければいけないかというお話を院長と一緒に聞きました。院長がそのときからガラッと変わったことに、とても驚きましたね。それまで「不安だ」と言って全然動こうとしなかったのに、次の日からとても前向きになり、どうやって進めるかということを話し始めたんです。
院長が変わった決め手は、「転換できなかったとしても、今の状況(地域一般入院基本料)よりも悪くなることはない」という言葉だったと思います。それまでは失敗するリスクを考えていましたが、失敗しても今の状況に戻るだけと気付いたんですね。減り続ける入院収入に終止符を打てる、という希望が欲しかったのかもしれません。
事務の最大課題はデータ提出加算
クリアすべき施設基準は看護必要度、リハビリの単位数、在宅復帰率など様々でしたが、その中で事務部門にとって最大の課題はデータ提出加算でした。試行データ作成時には調査用の無料ソフトで作成を開始しました。レセコンから出すだけのファイル(EFファイル、様式4)は問題ありませんでしたが、様式1という患者様の入院時情報を入力する作業には非常に苦戦しました。
非DPC病院の当院にとって、加算で求められるDPCデータは、院内から集約して入力する作業が大きな負担になり当初は患者1名あたり30分も掛かっていました。今では1人5分程度で済んでいますが、それは院内で情報の集約体制を作ったり、入力作業を難しいからと言って1人に任せず複数名でできる体制を築いたりしたことが奏功しました。
届出にあたっては、診療実績も求められますが、看護必要度の該当患者様は一定数いらっしゃり、リハビリ室での単位集計も平均2単位を達成でき、特に危惧することはありませんでした。心配していたのが、在宅復帰率です。基準を満たせるか厳しいだろうと想定していました。ただ、地域連携室が周辺施設への訪問など、積極的に動いてくれた結果、基準を満たすことができました。地域包括ケア病棟は、院内各所の協力が不可欠なプロジェクトだとつくづく感じます。
肝心の届出は無事に受理され、1か月後には想定通りに入院収入が増加しました。
新規策にもスタッフが協力的に
2018年に入り、それまでの実績を踏まえて入院料を引き上げることができました。その頃には、院内スタッフの新しいことに対する抵抗感が減っていたと思います。
引き上げにあたり、当院ではそれまで実施してこなかった訪問リハビリを開始しました。院内のセラピストもそれまで経験したことがありませんでしたし、患者様もいません。書類やルール、体制を一から作り、訪問診療先の患者様に訪問リハビリの提供を開始しました。
今後セラピストの数が増えれば、訪問件数を増やしていきたいと考えています。
資金繰りで苦しむよりも、院内マネジメントの苦労を
当院は冒頭でお話したように、経営面で厳しい状況が続いていました。当時は、日常業務に追われて日々出てくる問題になんとか対処するのに精一杯で、何かを改善することなど無理だと考えていました。しかし、資金繰りで頭を悩ます時間を過ごすのであれば、時間をつくって目標を設定し、病院が少しでも良くなるように院内のマネジメントで頭を悩ませた方が良いと、今は考えています。
漠然とした不安に比べ、前を向き、課題と立ち向かったことは、これからの病院にとって貴重な経験になりました。
https://hpcase.jp/chiiki-seminar/
<編集:塚田大輔>
・赤字の公立病院を立て直す。“オール三国”で導入した地域包括ケア病床の成果―福井県坂井市立三国病院
・地域包括ケア病棟導入ドキュメント 東北地方の中小病院が挑んだ6カ月間―医療法人社団愛生会 昭和病院
・地域包括ケア病床、導入と運用のこれから~サブアキュート強化への処方箋~
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