医師の働き方改革が病院の再編統合を加速させる 医療の三位一体改革―医療ニュースの背景がわかる

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定額負担の徴収義務「200床以上」に拡大論―18年度診療報酬改定の検証調査を読み解く―医療ニュースの背景がわかる
経済財政運営と改革の基本方針2019、いわゆる「骨太方針2019」が6月に閣議決定されました。社会保障関連では、高齢者数がピークに近づく2040年をにらんで取り組む「医療・介護制度改革」が盛り込まれました。少子化が進んで人材確保が困難になったとしても必要なサービスを提供できるよう、地域医療構想の実現と医師の偏在解消、医師など医療従事者の働き方改革を「三位一体」で推進するとしています。

厚生労働省は、医師の働き方改革の方向性も加味して、病院の再編統合を地域で議論するよう都道府県に要請する方針を示しました。自治体病院や公的病院にとっては特にドラスチックな内容です。

<CBニュース記者・兼松昭夫>

医療・介護制度改革と医療提供体制の効率化に注目

骨太方針は、国の経済・財政政策の方向性を示すものです。骨太方針2019では、政府の「新経済・財政再生計画」(財政健全化計画)に沿って、分野ごとの歳出改革を着実に実行する方向性を打ち出しました。社会保障分野では、「給付と負担の見直し」などの改革を着実に進め、団塊の世代が75歳以上になり始める2022年までに、制度の基盤を強化するとしています。それによって、国と地方の基礎的財政収支を2025年度に黒字化させるという政府目標の達成につなげようというのです。

目玉の一つである医療・介護制度改革は、2040年までを見据えた長期プランです。ビッグデータを活用する医療・福祉サービス改革プランの推進や、人材不足など新たな課題に対応するための医療提供体制の効率化などのメニューが盛り込まれました。

医療提供体制の効率化では、各都道府県の地域医療構想を実現させるための取り組みと、医師の偏在解消、医療従事者の働き方改革を「三位一体」で推進し、医療提供体制の総合的な改革を実施するとしています。医療資源の偏在が医療従事者の過重労働につながっているこれまでの非効率な体制を改善することで、質が高く安全で、効率的な医療をどこででも受けられる体制を2040年までにつくり上げるのが目標です。

働き方改革が病院再編を加速

地域医療構想とは、都市部を中心に本格的な高齢化が始まる2025年を見据え、各都道府県が「構想区域ごとにつくった、いわば地域の医療提供体制の将来像です。例えば、「急性期機能の病床が供給過剰なのに回復期の病床が足りない」などの入院医療の需給ギャップを地域ごとに解消し、限られた資源でニーズに見合った医療を提供できる効率的な体制の整備を目指します。それを実現させるため、医師会や医療保険者らの「地域医療構想調整会議」で医療機関ごとの役割分担を話し合っています。

一方、特定の地域や診療科への医師の偏在解消は、医療ニーズに対して医師がどれだけ充足しているか、新しく開発された「医師偏在指標」を使って地域ごとにチェックしながら、2036年の解消を目指します。

また、医療従事者のうち医師の働き方改革を巡っては、厚労省内の検討会が3月に枠組みを固めました。医師の時間外労働(残業)の上限は2024年4月以降、原則として「年960時間以内・月100時間未満」(休日労働を含む)に罰則付きで規制されます。それに向けて医療現場では、他職種へのタスク・シフティング(業務移管)などで医師の勤務時間を短縮させるほか、病院のトップ層や現場の意識改革を促します。

医師の過酷な勤務環境の改善は不可欠ですが、残業時間の上限を罰則付きで規制するという国の方針には、医療団体が強く反発してきました。医師の勤務時間を短縮しながら病院を運営し続けるには、より多くの医師を集める必要に迫られるからです。医師の偏在解消が進まない中、十分な医療体制を確保するのは簡単ではありません。規模縮小を迫られるか、最悪の場合、病院そのものの存続が危ぶまれる可能性もあります。そもそも医療現場には、医師の働き方改革が病院の再編統合を加速させかねないという懸念が以前からありました。

地域医療構想に沿った病床再編に医師の偏在解消、医療従事者の働き方改革の推進……。どれも病院の将来を左右してしまいそうな改革ですが、それらを「三位一体」で進めるとは、一体どういうことでしょうか。

3つの医療改革「ゴールは一緒」

2040年に向けて医療の三位一体改革に取り組むという方向性は、3月28日の政府内のワーキンググループで、骨太方針に盛り込む政策を話し合った際に厚労省が明確にしました。

この日、厚労省が公表した資料では、民間など他の病院と競合していたり、診療実績が乏しかったりする自治体病院や公的病院の役割を見直す際には、他の病院との再編統合も視野に地域で役割を協議するよう要請するとしています。

気になるのは、そうしたドラスチックな内容を「医師の働き方改革の方向性も加味」して議論するよう呼び掛ける方針を示したことです。

図表1 地域医療構想の実現に向けたさらなる取り組み ※2019年3月28日に開かれた政府会合の資料より抜粋

厚労省はまた、医療提供体制の改革の「視点」として、「病床機能」「外来医療機能」「従事者確保」「勤務環境改善」の4つを挙げ、「マンパワーの供給制約を前提に、個々の医療機関において各視点を統合し、提供する医療機能を再度検討・選択していく必要」があるとも書き込みました。少子化や働き方改革によってマンパワーの供給が先細りする中、自分たちがこれから先、どのような医療機能をカバーできるのかを再検討してほしい、といったところでしょうか。

この日の会合に先立ち厚労省は、手術件数など病院ごとの診療実績を2019年の半ばまでに分析する方針を示していました。再編統合が必要な自治体・公的病院を明らかにするためです。分析の結果、現在カバーしている機能の大半を他の病院が代わりに行えるなら、「再編統合を検討する必要性が特に高い病院」と見なされます。

これに対して会合では、医師の働き方改革で十分な機能を発揮できなくなる病院も、再編統合を含む議論の俎上に載せる方向性を明確にしました。

実は、この会合が開かれたのは、医師の働き方改革の骨格が固まったのと同じ日のことです。

厚労省に電話取材をすると、「勤務時間の(上限)規制が始まればその範囲で何ができるのか、(地域の医療機能を)集約化した方がよくないか(を議論してほしい)」、「地域医療構想(の実現)を進めることで働き方改革や偏在解消に資することになるかもしれないし、偏在(解消)に沿った取り組みが構想(の実現)に資するかもしれない。目指すところは一緒だ」とのことでした。

医師の働き方改革が病院の再編統合を加速させかねないという現場の懸念が、現実味を帯びてきました。

安倍首相が構想の着実な実行を指示

こうしたドラスチックな方向性を打ち出す背景には、地域医療構想に沿った病床再編が思うように進んでいないことへの政府内の焦りがあります。

地域医療構想を実現して入院医療の需給ギャップを解消させようと、国はこれまでさまざまなてこ入れをしてきました。骨太方針2017には、2025年に整備すべき機能ごとの病床数などを盛り込んだ「具体的対応方針」をつくるため、「2年間程度で集中的な検討を促進する」と書き込みました。

そこで焦点の1つになったのが、自治体・公的病院の役割を地域の中でどう位置付けるかです。国は、がんへの高度な医療や不採算の医療など民間では担えない役割をこれらの病院に重点化させたい考えです。それに向けて、具体的対応方針を2018年度中に作るよう働き掛けてきました。

その結果、自治体病院の95%、公的病院の98%が期限の2019年3月末までに方針を作りましたが、肝心の需給ギャップの解消が見込めません。根本匠厚労相(当時)は5月31日、高度急性期と急性期の機能を合わせた病床が2025年に全国ベースで18.8万床過剰になるのに対し、回復期機能は18.3万床が不足する見込みだと経済財政諮問会議の会合で報告しました(図表2)。

図表2 病床機能ごとの病床数の推移 ※経済財政諮問会議(2019年5月31日)の資料より抜粋

これは、医療法上の「一般病床」か「療養病床」を持つ病院と有床診療所が2018年度に各都道府県に報告した、病床機能の現状と将来の予定を集計した暫定値です(病床機能報告)。2015年の実績と2025年の予定(「2025年見込」)を比べても、高度急性期と急性期機能の病床はこの間にたった6%しか減りません。医療機関ごとの診療実績の分析に厚労省が踏み切ったのも、こうした遅れを踏まえてのことです。

安倍晋三首相はこの日の会合で、地域医療構想の進展を管理しながら確実に実行するよう、根本厚労相へ直々に指示しました。そして、その後に閣議決定された骨太方針2019の医療・介護制度改革に関する記載では、具体的対応方針の策定を民間病院にも改めて求め、一連のてこ入れでも病床機能の分化・連携が進まないなら、都道府県知事の権限強化を2020 年度に検討することとされました。国の本気度をうかがわせる動きです。

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