介護医療院への転換阻むのは? 進まぬ議論、先行き見えず―医療ニュースの背景が分かる


医療介護CBnews記者 兼松昭夫

医療と介護両方のニーズを持つ高齢者の新しい受け皿となる「介護医療院」にどのような機能を整備すべきか、2018年度の介護報酬改定をにらみ、ようやく議論が始まりました。介護医療院は、新たな介護保険施設として2018年4月に創設されることになっていて、厚生労働省では、それから6年後に設置期限が切れる「介護療養病床」のほか、医療保険の療養病床のうち、看護職員の配置が20対1に届かず療養病棟入院基本料2を算定する「医療療養病床2」などからの転換を優先させる方針です。

ただ、介護医療院にどのような人員体制が必要なのかや、医療療養病床2への診療報酬をいつまで存続させるかなど肝心の詳しい内容が決まるのは創設ぎりぎりになりそうで、これらの病床を持つ病院にとっては先を見通せない状況が続きます。

なぜ廃止?「理解できる説明ない」

介護医療院の創設は2017年5月の改正介護保険法の成立に伴うもので、厚労省では、要介護認定を受けた高齢者の長期療養・生活施設と位置付けています。身体合併症がある認知症の高齢者や、重篤な身体疾患を持つ高齢者を中心に受け入れる「介護医療院I」(療養機能強化型病床並み)と、容体が比較的安定した高齢者を受け入れる「介護医療院II」(介護老人保健施設並み)を創設するほか、国は、居住スペースの入居者に併設の医療機関が医療サービスを提供する「医療外付け型」の法的な位置付けも明確にする方針です。

社会保障審議会 介護給付費分科会の資料から抜粋
社会保障審議会 介護給付費分科会の資料から抜粋

療養病床再編のきっかけは、2006年度の診療報酬・介護報酬の同時改定をにらみ、中央社会保険医療協議会(中医協)が前年度に行った実態調査でした。介護療養病床と医療療養病床がある病院に、入院患者の状態やどのような医療を提供したかなどを質問すると、患者の状態に大差がなく、医療の必要性の低い患者がそろって混在していることが分かったのです。これを受けて国は2006年、介護療養病床と医療療養病床2の老健施設などへの転換を促し、これらの病床を2011年度末に廃止する方針を打ち出しました。

患者の状態に即した機能分担を図る観点からの対応ですが、介護保険制度のスタートに伴い介護療養病床が創設されてからわずか6年後の“廃止宣言”に、医療や介護の現場では「国のはしご外し」という批判が高まりました。

それもあってか、療養病床の転換は国の思惑通りに進まず、転換や設置の期限は2回にわたり延長された経緯があります。介護療養病床の設置期限は、現時点では2023年度末とされ、国は、介護医療院や老健施設などへの転換をそれまでに促したい考えです。

しかし2015年度の介護報酬改定では、高頻度の医療処置や看取り・ターミナルケアなどの機能を持つ介護療養病床への評価として「介護療養機能強化型」が創設されたばかり。それだけに現場では、国の施策に翻弄されてきたという不信感がにじみます。

介護医療院の大枠を固めた社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」では、介護療養病床の廃止を最初に打ち出した2006年以降、ほぼ10年間にわたる国の対応を受け、「(介護療養病床を)なぜ廃止するのか、理解できる説明がいまだにない」などと強く批判する声もありました。

正式な基準は年度末か

厚労省によると、介護療養病床は約5.9万床(2016年3月末現在)、医療療養病床2は約6.7万床(同年10月現在の速報値、医療課調べ)あり、今後はこれらの転換をどう促すかが課題です。

同省が2017年8月10日付で都道府県などに出した事務連絡では、介護療養病床と医療療養病床2などからの転換に伴う定員増は介護保険施設の「必要入所定員総数」に含めず、地域ごとのいわゆる「総量規制」の対象外としました。これに対し、一般病床などからの転換や介護医療院の新設は規制する方針です。こうすることで療養病床からの転換を当面、優先させ、同省では、転換支援策を引き続き検討することにしています。

ただ、介護医療院にどのような機能を担わせ、そのためにどのような人員体制や施設が必要なのかなど肝心の部分が固まっていません。厚労省では、これらを2018年度の介護報酬改定に向けて社保審・介護給付費分科会で具体化することにしていて、8月4日に話し合いがやっと始まりました。

同省がこの日挙げた論点は、介護医療院の機能や基準のほか、介護療養病床と老健施設の中間的な存在として創設されたといわれる「介護療養型老人保健施設」(転換型老健)のあり方など。社保審の特別部会の取りまとめでは、介護医療院の基準が正式に決まるのは2017年度末になる見込みだとしています。

医療療養病床2、存続いつまで?

問題は医療療養病床2の取り扱いです。こちらは中医協で決めることとされ、介護療養病床に合わせて診療報酬の評価を6年間延長させるかどうかを含め、これから話し合います。

中医協の議論では、何年かの準備期間を経て廃止することでは一致していますが、日本医師会などの診療側が「準備期間6年」を主張しているのに対し、医療保険者などの支払側は具体的な期間に触れていません。

中医協の「入院医療等の調査・評価分科会」では、介護医療院の詳しい機能などが決まらないと医療療養病床2のことは話し合えないという声もあり、社保審・介護給付費分科会待ちの様相です。このため介護や医療の現場では、早期の転換を決断しにくい状況です。

とはいえ、これらがたとえ固まっても、「はしごをいつか外される」という国への不信感が転換の「かせ」になりかねません。

提供:医療介護CBnews

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