在宅医をどう採用する?在宅医療クリニックの医師アプローチ術

団塊の世代が75歳以上になる2025年に向け、大きな期待が寄せられるのが在宅医療です。多死社会へと向かう中、在宅医療などには新たに30万人以上の患者対応が求められています。在宅療養支援診療所(以下、在支診)の届出数が伸びて在宅医療の拠点は増える一方、多くの医師にとって在宅医療は未知の世界。負担が重いイメージも手伝って、なり手は限定的な状況が続いています。在宅医療クリニックが医師を確保するには、一体どうしたらいいのでしょうか。
今回は、エムスリーキャリアで医師と在宅医療クリニックのマッチングに携わる毛塚陽佑氏に、在宅医の採用戦略について聞きました。

在宅希望の医師は4%?

―現状、在宅医を希望する医師はどの程度いるのでしょうか。

弊社では多数の医師から転職のご相談をいただいていますが、そのうち面談時に在宅医療を希望される方は4%ほどしかいません。日々、たくさんの医師と接するなかで、在宅医療が激務だという先入観をお持ちの方、キャリアの選択肢になることに気付いていない方の多さを実感しています。

別の見方をすると、先入観を払拭さえすれば、在宅医療に興味を持ち始める医師も一定数いるということ。実際、当社を通じて在宅医療クリニックに転職する医師のほとんどは、コンサルタントとキャリアについて話し合ううちに「未経験だけど挑戦してみたい」と手を挙げる方ばかりです。在宅医療クリニックが医師を採用しようとした場合、知人づてで有望な方を採用しつつ、この「未経験者」を狙うべきではないでしょうか。

―4%でなく、母数の多い潜在層を狙うということですね。しかし、在宅医療を明確に希望しているわけでもない医師に、どのようにアピールしたら良いのでしょうか。

採用で主に使われるチャネルは「友人・知人紹介」「ホームページ」「人材紹介」ではないかと思います。開業してしばらくは、友人・知人づての採用で事足りるかもしれませんが、先ほどの「未経験者」にはなかなかリーチできません。法人規模も拡大してきてそろそろ限界が見え始めたとき、次の一手を模索するクリニックが多いようです。

ホームページは未経験医師でもイメージしやすく

―“次の一手”にはどんなものがあるでしょうか。

一つは、ホームページを通じた募集があるでしょう。既に自院ホームページで募集中のクリニックでも、見直す余地はあると思います。たとえば未経験者の目線で見ると、大抵のクリニックの募集ページは、在宅医療の具体的な流れや業務内容がなかなかイメージできません。そのため、訪問診療の1日のスケジュールを載せるだけでもイメージを喚起できるでしょう。さらに、自院の医師にインタビューして、在宅医療に対する想いを記事掲載するといった取り組みも効果的だと思います。応募する医師としては、在宅医療に共感できるポイントがあると、最初の一歩を踏み出しやすくなるはずです。

在宅未経験の医師にリーチするなら人材紹介も

―他に打てる手は何かありますでしょうか。

手前味噌で恐縮ですが、当社のような人材紹介会社を利用するのも“次の一手”になります。

当社であれば、在宅医の希望有無を問わず、さまざまな状況を抱えて転職を検討する医師から日々、ご相談を受けています。その中には「急性期で自身の専門性を活かせる症例が集まる病院」といった明確な希望をお持ちの医師もいますが、「家族との時間も増やしたいけれど、子どもたちのために一定の収入も確保しなければいけない」など曖昧な希望をお持ちの方もいます。こうした医師に対し、コンサルタントは「この先生がこれからのキャリアで何を叶えたいのだろうか」「先生の今までの知識や経験を踏まえると、こんな職場だと親和性が高いのではないか」などと検討を重ねて、転職先を提案しています。そうした結果、次のような転職サポート事例も生まれています。

【サポート事例】
 40代男性 高度急性期病院の外科専門医 → 在宅医

大学医局に所属していましたが体力面で懸念があり、退局後の勤務先を検討していたA先生。せっかくなので家族と過ごす時間も増やしたいとのことでしたが、子どもがいるため、収入はある程度維持する必要がありました。
A先生が当初想定していた転職先は、クリニックの外来、慢性期病院の病棟管理、自由診療。知人の多くは急性期病院にいるため、紹介会社を利用することに。先生の要望を吟味した担当コンサルタントが在宅医療クリニックを提案したところ、はじめは予想外のことに驚いたA先生でしたが、その理由に納得し、現在は訪問診療や往診に従事しています。

【在宅医療を提案した理由】
・悪性腫瘍の知識・経験が豊富なため、重症患者にも抵抗がない
・在宅患者の容態が急に変わっても、対応に慣れている
・病棟ほどオンコールが多くない在宅クリニックも多々あり、家族との時間を得やすい

この医師のようなキャリアで在宅医療を選ぶのは、一般的とは言えないかもしれません。ただ、在宅医療は混合病棟を地域で診ることに近いと言われており、病棟管理に強みを持つ医師にもおすすめできます。

在宅医が集まるクリニックとは

―採用に成功している医療機関の特徴はありますか。

ひとつは、常勤医師の体制が手厚いことです。在宅医療を希望する方のほとんどが未経験。不安を抱えながらの入職になるので、相談できる環境があるかどうか、一人に負担がかからないかどうかは判断軸のひとつになります。その意味では、指定要件が「在宅医療を担当する常勤医師が連携内で3人以上」である機能強化型在支診(連携型)は根強い選択肢となっています。

さらには、医師だけでなく、非常勤、コメディカルを含めて職員体制が充実している医療機関は採用に成功していることが多いです。クリニックによっては、オンコールの一次対応を看護師などに任せ、医師の対応が必要な場合にのみ常勤医へ連絡したり、全当直業務を非常勤医に委ね、常勤医が日勤帯に集中できる体制を整えたりしたところもあります。

また、未経験の場合はキャリアの再スタートにもなるので、診療しながら学べる環境であることも求められます。日本在宅医学会の研修施設など、わかりやすい指標があると良いかもしれません。在宅医療こそ、医師一人ひとりの存在感が大きいので、働きやすい環境づくりが大切です。

―体制構築を進めているにもかかわらず、採用が思うようにいかないという在宅クリニックもあります。何が原因なのでしょうか。

体制が整っているのに採用に苦戦している医療機関は、アピール不足で足踏みしているところがとても多いです。

採用でライバルとなる在支診の届出数は徐々に増えてきて、全国に14,000施設以上あります。さらには、在支診の指定を受けずに訪問診療や往診を実施している医療機関も多いです。そんなライバル多数の中、自らのクリニックをアピールするには、他の医療機関と差別化し、比較した上での魅力を伝える必要があります。

そもそも自院にどのような魅力があるのかわからない、アピールの方法がわからないという方は、人材紹介会社を活用するのもひとつの方法です。人材紹介会社なら、普段から多くの医療機関を比較しながら医師に提案しています。思わぬアピールポイントを見つけ出してくれるかもしれません。

実際に、わたしたちが協力させていただいた東京都のクリニックでは、半年間で常勤医師4名、非常勤医3名の採用見通しが立ってきました。院長先生へのヒアリングを通して魅力を引き出し、それを医師に伝えたからこそ実現できたのだと思います。

双方の立場に立って、ベストマッチングを考える2つのサービス

―在宅医療に関してエムスリーキャリアで提供しているサービスについても教えてください。

当社には、コンサルタントが在宅医をご紹介する「人材紹介サービス」と、医療機関の採用そのものを代行する「採用窓口アウトソーシングサービス」があり、医師の立場、医療機関の立場、それぞれから在宅医療のベストマッチングをサポートしています。

特に医師に対し、コンサルタントとして心掛けているのは、医師ご本人でもまだ気付いていない本当の希望があるのではないか、そしてそれを満たす活躍の場があるのではないかと、あらゆる可能性を考えることです。在宅医療の場合、どのような働き方ができるのか十分に理解されていない面もある上に、クリニックによって診療内容や体制がかなり異なります。私どもが正確な情報を先生方にお伝えすることで、在宅医療に魅力をもっていただける医師を増えたら、これに勝るものはないと考えています。そうすることで結果的には、医療機関にとってもベストな医師をご紹介できると信じています。

毛塚陽佑(けづか・ようすけ)
エムスリーキャリア株式会社 医師キャリア事業部 常勤紹介グループ
筑波大学第一学群自然学類を卒業後、大手アパレル会社に入社。
管理者を担いながら人材育成部門で課題改善を行い、教育業を経てエムスリーキャリア株式会社へ。
現在は、在宅医療を中心に、常勤医師の紹介コンサルタントを担当。
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