日本初「足と糖尿病の総合病院」を実現。新事務長の職員との向き合い方 ―下北沢病院 加藤隆之事務長

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リウマチ治療に特化した病院から、2016年6月には「足と糖尿病の総合病院」という新コンセプトのもとでリニューアルオープンした医療法人社団青泉会 下北沢病院(東京都世田谷区、53床)。日本初となる「足と糖尿病の総合病院」として、ほぼゼロからの方向転換をバックオフィスから支えたのが事務長の加藤隆之氏です。とはいえ、従来培ってきたルールを変えるのはそう簡単ではありません。入職からの2年間を振り返り「人にまつわる悩みが8割だった」と語る加藤氏は、職員とどのように向き合ってきたのでしょうか。

「医療者が診療に集中できる環境を」、その一心を貫いたキャリア

―加藤さんは、これまでどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。

わたしのキャリアは医療機器メーカーの営業から始まりました。一生懸命働く医療者の役に立てるやりがいはひとしおだった一方で、経営難に悩む病院があることに課題意識を持っていました。そこで医療者がより診療に集中できる環境をつくりたいと思い、経営学修士(MBA)や中小企業診断士などを取得して、医療系コンサルティング会社に転職。その後、外側からではなく内側から病院経営をサポートしたい思いが強くなり、病院事務職に転向しました。

退職に採用が追いつかず、機能停止寸前に陥ったことも

―加藤さんはリニューアルの年となる2016年に入職されたそうですが、その後、事務長としてどのような仕事に注力されたのでしょうか。

当時はわたしを含め、理事長、院長といった役員層が総入れ替え。ほぼゼロからのリニューアルとなったので、事務周りのことはすべて行いました。

たとえば、指示命令系統をはじめとした組織体制の見直しや、新しい院内規定の作成、給与に直結する人事評価制度の導入、採用・広報活動などです。もちろん、施設の増改築や主要科目の変更があったので、施設基準の届出や医事課のレセプト体制を整えたりもしました。

―その仕事内容の中でも、一番困難だったことは。

「人」の入退職やコミュニケーションといった悩みが8割ほどでしょうか。

新病院になるということは、以前から働いているスタッフにとっては不本意なこともあったはずです。リウマチという内科系から、手術も行う外科系に舵をきったので、それを魅力に感じるか、負担に感じるかは人それぞれあったと思います。

実際は、方向性の違いから退職が続き、ある部門が機能停止寸前にまで陥ったことも。その時、採用の責任はすべて自分が請け負っていたので、とにかく自分が持てうる限りの人脈、知っている人材紹介会社などに声をかけて人員をつなぎました。当院のような小規模な病院は、一人退職するとかなり大きなインパクトがありますから、今でも当時のような状況にはならないよう心がけています。

―その後、採用ではどのような工夫をされてきたのでしょうか。

当院は23区内かつ駅から徒歩5分、足と糖尿病の総合病院という特色があるので比較的人が集まりやすい環境ではあります。ただ、最初の頃は少なからずミスマッチがあったのも事実です。

そこで、各部署の2次面接は、直属の上司以外の人が担当するというルールに作り直しました。そうなると、わたしが同席する場面が増えますから、面接の場では、現場の話だけではなく、病院の文化やルールを細かく伝えられるようになりました。さらには、不備を不満に思うのではなく改善提案できる人、初めてのことでも興味を持って取り組んでくれる人に来てほしいと思っているからこそ、「大病院と比べてルールが決まっていない」「広報の取材で20時まで残らなければいけない日もある」といった病院のネガティブな情報もあえて伝えるようにしました。

入職者の早期退職(ミスマッチ)は、入職前後に感じるギャップが大きな原因になると思っています。当院では、面接である程度の本音を伝えるという取り組みを始めてからミスマッチの減少につながりましたし、さまざまなことに納得して入ってくれる職員が増え、内定後の入職率自体も上がったと感じています。

―職員定着のために、何か心がけていることはありますか。

職員が100人以上にもなれば、職員の健康を守ることも大切な仕事。中でもメンタルヘルスは、医療者においても対策が欠かせません。最初は経営幹部が個別相談のようなかたちで対応していましたが、それでは経営幹部の身体と時間が持たないので、月1回来てくれる臨床心理士を探し、職員が個々人で相談できる体制を整えました。もし当日に相談がなくても、臨床心理士から管理職レベルの方に、直接パワハラやセクハラの講習を行ったりもして、忙しい合間をぬって研修に行かなくても良い体制を整えています。

病院の組織文化は、事務職がつくっている

―一連のお話を伺っていると、かなり忙しいように見えますが、加藤さんはどうやってご自身のモチベーションを保っているのでしょうか。

初めの思いに立ち返りますが、中小病院の事務長職は一般的に多くの業務にかかわっており、わたし自身も自分の仕事が現場で働く医療従事者をサポートできている実感があります。当院の医師たちは、新病院の理念に共感し、大学病院から移ってきた方々なので、実力はもちろんモチベーションもものすごく高い。全員がこの新病院を成功させたいと思う雰囲気が、自分を奮い立たせているような気もします。

そもそもコンサルタント時代の経験から、上から押しつけるような伝え方では、物事は良い方向に進まないことを痛感しています。だからこそ、職員と「何ができるのか?」「どうしたら変えられるのか?」など、ともに考えることを意識しています。時には職員の間に入って、お互いが直接言いづらいことを取り持ったりもしていますから、その時、病院事務職としての介在価値を感じている面があるのかもしれません。

―ご自身の介在価値を感じた、具体的な事例はありますか。

職種間のタスクシフトを通じた、外来の待ち時間改善です。

一時期、広報活動の成果もあって、患者さんの待ち時間が平均3時間以上になってしまったことがありました。その原因のひとつには、医師が医師以外でもできる業務を抱えていたことがありましたので、他職種へのタスクシフトを行いました。その間を事務職として取り持ったのです。

たとえば看護師に一部の業務を渡すとなった時、医師から直接言うのは簡単かもしれません。しかし、それだと看護師は「一方的に負担が増えた」と感じてしまいます。そこで看護主任とわたしの2人で、他院へ見学に行き、どのようなことが変えられそうかを一緒に検討しました。現場の責任者でもある看護主任にお願いした理由として、自院に持ち帰って改善活動を進めるタイミングでも、現場責任者が自ら考えたことであれば納得感が得られやすく、みんなでやろうという機運が自然と高まると思ったからです。

―事務職として、今後の展望を教えてください。

おこがましいかもしれませんが、病院事務職のステータスを上げたいと思っています。病院事務職は医師や看護師などの医療職と比べて転職しにくいこともあって、ひとつの病院に長く勤める方が多いと感じます。そう考えると、病院組織の文化は病院事務職がつくっていると言っても過言ではないかもしれません。その分、責任も大きいはずで、事務職のステータスがしっかりしていなければ「医療の質」と「経営の質」のバランスを保つことは難しいのではないでしょうか。

というのも、医療の質は医師や看護師、リハビリ職ら全員が向上を目指しているので自然と上がっていきますが、経営の質、経済面から話せる医療職は病院内では少数派です。そこは、経営の質を見ている事務職が存在感を発揮すべきだと考えています。これからもこの視点を忘れずに、病院における医療と経営のバランスを保つ存在でありたいと思います。

<取材・文:小野茉奈佳>

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