本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。
著者:松岡佳孝/病院マーケティングサミットJAPAN 医療マーケティングディレクター
済生会熊本病院 医療連携部 地域医療連携室長
目次
みなさんはじめまして。済生会熊本病院・地域医療連携室長の松岡です。
病院マーケティングサミットJAPANでは、医療マーケティングディレクターとして活動をしております。
私が担当する回では、済生会熊本病院で取り組む具体的事例を交えながら、マーケティング初心者の方・マーケティング担当者の人材育成にお悩みの方に参考にしていただけるような記事をお届けしていく予定です。
今回は自己紹介も兼ねて、私が大切にしている「医療マーケティング」への向き合い方についてお話しします。
病院もマーケティングが必要な時代に
医療業界では「商業的」と敬遠されがちなマーケティング。しかし最近は、徐々にその必要性・重要性が浸透してきているように思えます。その背景にあるのは、経営環境の変化です。
マクロ視点で「(2040年問題などの)人口動態の変化」「社会保障制度の持続性」を鑑みたとき、病院経営が今後ますます厳しくなることは明白です。いまから先々の状況を考え、頭を抱えておられる経営層の方々の声もしばしば耳にします。
また、「コロナ禍で新規患者が減ってしまった。特例措置が解除されたらどうなるのか……」など、喫緊の課題として収益への不安を抱えておられる方も多いでしょう。
私も自院の経営、そして医療業界・日本の将来に対する危機感を抱えながら日々過ごしている一病院スタッフです。
当院がある熊本県の場合、図1の通り人口が既に減少しています。首都圏などの一部地域では現在も人口が増加しているエリアがありますが、多くの地方都市でこのような人口減少が始まっています。
OECD諸国の中でも特に(人口あたりの)病床数が多い日本において、再編・統合の動きが加速しているのは周知の事実でしょう。それに加えてマーケット縮小を肌で感じる時代の到来。これまでのように「待っていれば患者さんは来てくれる」という世の中ではなくなるのもまた、避けられない事実です。
医療マーケティング、何から着手すればいい?
「マーケティングを推進したい」という病院は増えているようですが、しばしばいただく質問は、「何から着手すればいいか?」ということです。
そのように聞かれたら、私は必ず「まずは自院の医師との密なコミュニケーション&関係作り」をオススメしています。“期待していた回答ではない感”が伝わってくることもありますが(笑)、これを基盤としたディレクションこそが、その後の活動を展開する上で最も大切な事だと思っています。
日々、最新知識の習得・技能の修練を重ね、リスクを負いながら患者さんのために全身全霊で医療を提供している医師の想い・展望に対する理解がなければ、医療において良いマーケティング活動など展開できません。
デザインに力を入れた「広報活動」も、積極的な「訪問活動」も、あくまでコミュニケーション手段の一つなのです。
「院内外を繋ぐためにはどうするか!?」という想いと戦略次第で、どこの部署で・誰が・何をするかは変わってきます。マーケティングの基礎知識がなくとも、ロイヤルティが高く熱い想いのある人材が集まれば(1人でもいれば…)、どんな病院も1歩目を踏み出すことができるはずです。
医療マーケティングの目指すべき姿は?
医療マーケティングのあるべき状態や目指すべき姿を端的に示すと、
あるべき状態は
- 開始時:前述の通り「院内外を知っている」状態
- 推進時:「自院や連携先の医師が何を欲しているか」を考え、施策を講じ続けている状態
目指すべき姿は
- 患者さんや連携先、地域住民に信頼と愛着を持ってもらい、利用し続けてもらう
であると考えています。
相手が患者さんであれ、連携先のドクターであれ、同僚であれ、こちらへの興味・関心がない段階で、「私のことを好きになってください」といっても好きにはなってもらえません。ましてや「あなたのことは知りませんが、私のことは知ってください」といっても嫌われるだけです(笑)
- まずは自院の医師自身のこと、その医師が提供する医療を知る
- そして地域の医師自身のこと、その医師が「知ってほしい」ことを知る
そうすることで、自然と関係性を強化するためのアイディアが生まれ、ターゲットの解像度、施策の効果も上がってきます。
これまでの経験上、ただ単にチラシ配りや菓子折を渡すだけの挨拶訪問を頻回に行うより、たとえ数施設であったとしても、院内医師と同じ方向を向き、先方の連携・診療のポリシー・PRポイントをしっかりとヒアリングする方が、双方の信頼関係に繋がる価値の高い活動になるといえます。
「院内外を知る」という下準備を整え、「双方の欲求」を満たす施策を検討することができれば、「信頼と愛着」を得るゴールに向かって走り続けるのみ。もちろん、各フェーズにおいて定期的に情報をアップデートする必要はありますが。
院内ディスカッションにもマーケティング視点を
教科書的なお話をすると面白くなくなりますが、個人の所感だけでは信頼性に欠けるため、マーケティングの入口として院内ディスカッションで活用できる“STP分析”を紹介します。
そう難しく捉えず、アジェンダとして以下の内容を準備する程度で良いでしょう。
- S=自院が大切にすべき市場はどこか?(これからどのように変わるか?)
- T=どういう患者層に来て欲しいか?(そのような患者層は市場にどのくらいいるか?)
- P=どういう立ち位置で注力する?(高度急性期?急性期?回復期?慢性期?在宅?)
※STPとは、Segmentation・Targeting・Positioningの頭文字をとったもの。
SWOT・3C・PEST・PPMなど様々な分析方法はありますが、これらの『フレームワーク』を使う良さは、抜け漏れのない議論を行える点にあります。フレームワークの名前自体に苦手意識を持たず、“とりあえず自院の状況をあてはめてみるか”といったスタンスでやってみると、思いの外、客観的に自院の方向性を整理する事ができると思います。
あくまで最初は担当者の主観で整理する情報のため、“議論の材料の一つ“と思えば気が楽になるのではないでしょうか。
では誰と話すか。ここが重要です。
やはり院内の経営層や診療科責任者・治療のキーマンなど、できる限り個別に相談すると、それぞれの視座からのコメントをもらうことができ、やるべきことが見えてくるはずです。
特に地域医療構想において、2025年に向けて2次医療圏の中でどのような医療機能を展開するかという、「S:セグメント」を固定した「P:ポジショニング」の議論が進んでおりますので、それらを踏まえて「T:ターゲット」をどうするか?具体的に何をするか?とテーマを絞ると、より話が深まりやすいですね。
ただしSTP分析はあくまで目線あわせを行うためのもの。『分析・検討』に止まらず、『施策の実践』に繋ぐためには、他のフレームワーク(4Pなど)も活用するよいでしょう。
今後の連載では、「施策のつくりかた」をご紹介します。
済生会熊本病院では、地域の先生方の診療支援に繋がるように、また地域住民の方々が「医療が必要」という場面に直面した際に“賢明な選択”ができるように、広報物・セミナー企画を中心としたコミュニケーション戦略を実践しています。
以下のような独自企画の運営方法について、また各診療科との具体的なコミュニケーションなどについてお伝えできればと思います。ご紹介する事例を予告編としてお見せして、今回は終わりとさせていただきます。
《施策例》
①連携機関の医師向け企画(当院主催企画)
②連携機関の医師向け企画(医療関係企業との共催企画)
③患者・患者家族向け企画(第3セクターとの共催企画)
④連携医療機関向け広報誌(月刊)
⑤連携機関の医師向け広報誌(不定期)
>>コロナ禍も患者減なし!治療後も定期メインテナンスに通いたくなる仕組みとは?~山口歯科医院―病院マーケティング新時代(41)
【無料】病院経営事例集メールマガジンのご登録
病院長・事務長・採用担当者におすすめ
病院経営事例集メールマガジンでは、以下の情報をお届けします。
- 病院経営の参考になる情報
エムスリーグループのネットワークをいかし、医療機関とのコミュニケーションを通じて得た知見をお知らせします。 - セミナー情報
医師採用など、病院経営に役立つ知識が学べるセミナーを定期開催しています。
コメント