
病院に勤めていれば一度はDPC(診断群分類別包括評価)という言葉は聞いたことがあるはずです。DPCが病院経営にどのような影響を与えるか、今一度おさらいしておきましょう。
DPCとは
DPC制度を理解するうえで、まずはその基本的な仕組みと、従来の出来高払い方式との違いを正確に把握することが重要です。
DPC/PDPSの基本的な仕組み
DPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System)とは、診断群分類(DPC)に基づいて定められた1日あたりの定額報酬を支払う医療費の計算方式です。
患者の傷病名、手術や処置の有無などに応じて分類された約5,000の「診断群分類」ごとに、1日あたりの入院費が決められています。従来の出来高払い方式が、行った医療行為を一つひとつ積み上げて計算するのに対し、DPCでは包括範囲内の医療行為は定額で支払われる点が最大の特徴です。ただし、手術やリハビリテーションなど、専門性が高く費用のかかる一部の医療行為は、包括範囲に含まれず出来高払いで計算されます。
包括評価(DPC)と出来高払いの違い
DPC方式と出来高払い方式の最も大きな違いは、収益構造にあります。
- 出来高払い方式: 医療行為を増やせば増やすほど、病院の収益が増加する。
- DPC方式: 決められた診断群分類の中で、いかに効率的で質の高い医療を提供し、在院日数を短縮できるかが収益向上の鍵となる。
この違いにより、DPC導入病院では、不要な検査や投薬を減らし、医療の標準化を進めるインセンティブが働きます。
DPC導入が病院経営にもたらすメリット・デメリット
DPCの導入は、病院経営に多角的な影響を及ぼします。メリットを最大化し、デメリットを管理することが成功の鍵となります。
医療の標準化と在院日数の短縮
DPCでは、疾患ごとに標準的な治療プロセス(クリニカルパス)を導入し、医療の質を維持しながら無駄を省くことが推奨されます。これにより、医療の質のばらつきが減少し、結果として平均在院日数の短縮につながります。在院日数が短縮されれば、病床回転率が向上し、より多くの患者を受け入れることが可能になるため、病院全体の収益向上に貢献します。
経営データの可視化と分析
DPC病院は、厚生労働省へ提出するために詳細な診療データ(DPCデータ)を作成する必要があります。このデータは、自院の強みや弱み、疾患ごとの収益性、医師別の診療傾向などを客観的に分析するための貴重な経営資源となります。データに基づいた客観的な経営判断が可能になることは、DPC導入の大きなメリットです。
コーディング精度の重要性と事務作業の増大
DPC制度下では、診断群分類を決定する「DPCコーディング」の精度が、病院の収益に直接影響します。適切なコーディングが行われないと、本来得られるはずの診療報酬が受け取れなくなる可能性があります。そのため、医師や診療情報管理士による正確なコーディングが不可欠となり、事務部門の業務負荷が増大する傾向にあります。
重症患者の受け入れ抑制リスク
一部の重症な患者や合併症を持つ患者の場合、包括範囲内で治療を完結させることが難しく、病院側の持ち出し(コスト増)が発生するケースがあります。このため、収益性を優先するあまり、重症患者やリスクの高い患者の受け入れをためらうバイアスがかかる可能性が指摘されています。
DPC対象病院になるための要件と種類
DPC対象病院になるためには、厚生労働省が定める施設基準を満たす必要があります。また、病院の機能に応じて評価が異なる点も理解しておくべきです。
DPC対象病院の基準とは
DPC対象病院になるためには、「DPC制度への参加が適切である」と厚生労働省に認められなければなりません。主な基準として、診療録管理体制や適切なコーディングを行うための体制が整備されていることなどが挙げられます。毎年行われるDPC調査(旧DPC導入評価分科会)で、これらの基準を満たしているかが評価されます。
機能評価係数Ⅱの重要性
DPCの診療報酬は、基礎となる点数に、各病院の機能を評価する「機能評価係数Ⅱ」を乗じて算出されます。この係数は、以下の6つの指数から構成されています。
- 保険診療指数: 診療の密度や効率性
- 効率性指数: 在院日数の短縮努力
- 複雑性指数: 診療の難易度
- カバー率指数: 対応している疾患の幅広さ
- 救急医療指数: 救急医療への貢献度
- 地域医療指数: 地域医療への貢献度
これらの指数を高めることが、病院の診療報酬を最大化し、経営基盤を強化する上で重要です。