救急救命士は、2021年の救急救命士法改正により院内の特定行為が認められました。これにより、医師からのタスクシフト先として救急救命士に注目が集まっています。実際、練馬光が丘病院では月70時間の医師負担の軽減に成功しました。今回は同院の救急救命士として活躍する、島田淳平さんにお話をうかがいました。
救急救命士法改正を機に、タスクシフトに本腰
ーー医師から救急救命士へのタスクシフトに取り組み始めた経緯を教えてください。
私が当院に入職した2021年は、まさに救急救命士法の改正が実施された年でした。そうは言っても、当院が法改正に合わせて戦略的に救急救命士を雇用したというわけではなく、偶然時期が近かったという印象です。
法改正前は、院内で救急救命士のできる業務領域が定義されておらず不明瞭でした。当院においても「看護師の補助」という名目でさまざまな業務にあたっていました。
そんな中、私が入職した3ヶ月後に法改正が実施されたのです。そこで、「改正を契機に業務を整理して、しっかり枠組みを決めたい」と思いました。そして、救急科の科長や当時の院長(現在は名誉院長)の後押しを受けながら、院内に救急救命士部会を設置したのです。
この改正は医師のタスクシフトを前提にしていることは明らかでした。ですので、当院の救急救命士部会でも「医師・看護師からのタスクシフトの推進」を大方針としました。
ーータスクシフトの具体的な内容を教えてください
医師からのタスクシフトとしては、「日中のホットライン応需」です。より詳しく述べると、「ホットラインの応需、転院交渉、処置準備」を行っています。救急救命士は、ER内および入院ベッドの状況・応需制限を把握しています。そのため、救急救命士から報告を受けた医師は、受け入れ可能かどうかを「疾患のみ」で判断すれば良いのです。
また、転院交渉・処置準備などを救命士が行うことで、医師の処置・診察の中断時間を短縮し、結果待ち時間や診察時間の短縮、救急患者受け入れ数の増加につながっています。
看護師からのタスクシフトとしては、主にトリアージ・再トリアージを行いました。看護師の負担を軽減し、看護師にしか行えない処置に集中できる環境を整えています。結果的に看護師の業務が進み、ER内ベッドの回転効率が上昇、救急患者受け入れ数の増加に寄与しています。
ーータスクシフトを進める中で苦労したことはありましたか?
タスクシフトについて、「従来のやり方で回っていたのに、あえて変える必要があるのか」「救急救命士に任せて大丈夫なのか」といった不安や心配の声はありました。ですので、どうしたら懸念を払拭できるかは常に考えていました。
たとえば、トリアージについては事前にJTASをしっかり勉強しました。自信をもって従来のクオリティを維持できる状態にしてから交渉に臨みました。ほかにも地域医療振興協会の救急救命士と連携して、他院の事例や実績を蓄積しました。こうした地道な準備を重ねて、その後実績を積み上げていったのです。最近は「救急救命士がいてくれて助かる」といった声が届くようになってきました。
タスクシフトにより医師負担を月70時間削減
ーータスクシフトの成果について教えてください
当院のホットラインの総応需件数は月1100~1200件あり、そのうち救急救命士が850~900件の対応をしています。概算で月当たり70時間の医師工数の削減につながりました。トリアージ・再トリアージは月約500件で、内150~200件を対応しています。こちらは、月10時間程度の看護師工数の削減に寄与しています。
また、タスクシフトだけの成果ではありませんが、病院全体で業務の効率化が進んだことで、2023年度の救急車の受け入れ台数は2022年よりも約1300件増加しました。
ーー今後の救急救命士部会の展望を教えてください
現在(2024年10月時点)、当院の救急救命士は5人まで増え、一定のマンパワーを発揮できるようになりました。やりたいことは多岐に渡りますが、そのうちのひとつが院内救急車の利用促進ですね。埼玉県との県境に近い当院では、埼玉県の病院への搬送も含めて柔軟な対応が可能です。
また、ゆくゆくはホットラインの応需について、受け入れ可否の判断まで救急救命士が担当できるような体制を整えていきたいです。法改正によって、救急救命士はその役割が広がりつつあります。その灯を大きくできるよう、自院と地域のためにできることを今後も追究していきます。