
療養担当規則(保険医療機関及び保険医療養担当規則)は、保険診療を行うすべての医療機関が遵守すべき根幹的なルールです。療養担当規則の全体像から、病院経営において特に注意すべき重要ポイント、そして違反した場合の罰則などを解説します。
療養担当規則とは
療養担当規則とは、正式名称を「保険医療機関及び保険医療養担当規則」といい、保険診療を行う上での細かなルールを定めた厚生労働省の省令です。すべての保険医療機関および保険医は、この規則に則って日々の診療を行わなければなりません。
療養担当規則はなぜ重要なのか
この規則は、保険診療の質の確保と、国民皆保険制度の信頼性を担保するために存在します。療養担当規則への違反が発覚した場合、個別指導や監査の対象となり、最悪の場合には保険医療機関の指定取消や保険医の登録取消といった厳しい行政処分につながる恐れがあります。
療養担当規則の5つのポイント
療養担当規則には多くの条文がありますが、ここでは特に病院経営において注意すべき5つのポイントを解説します。
① 無診察治療等の禁止(第10条)
保険医は、自ら診察することなく治療や投薬をしてはならないと定められています。オンライン診療の普及により緩和されていく可能性はありますが、原則として直接の対面診察が必須です。
② 個別指導と懇切丁寧な説明(第2条の2、第5条の2)
患者の療養について、懇切丁寧に指導を行う義務が定められています。また、治療内容や処方する薬剤について、患者に分かりやすい言葉で説明し、同意を得ることが求められます。特に、患者からの質問には真摯に答え、インフォームド・コンセントの精神を徹底することが重要です。
③ 不当な患者誘引の禁止(第2条の4)
金品の提供や食事の接待、送迎サービスの提供などによって、患者を自院に誘引する行為は禁止されています。これは、医療の質ではなく、経済的な利益によって患者が医療機関を選ぶことを防ぐための規定です。度が過ぎたマーケティング活動は、この患者誘引行為と見なされるリスクがあります。
④ 経済上の利益供与の禁止(第2条の4の2)
いわゆる「紹介料」の問題です。他の医療機関や事業者(介護施設など)に対して、患者を紹介する見返りとして金銭などの経済的利益を提供することは固く禁じられています。これは、患者の紹介が医学的な必要性ではなく、経済的なインセンティブによって行われることを防ぐための重要な規定です。
⑤ カルテ(診療録)の記載と管理(第8条、第9条)
診療録には、遅滞なく必要な事項を記載し、適切に管理する義務があります。カルテは診療の記録であると同時に、診療報酬請求の根拠となる重要な書類です。記載漏れや不備は、指導・監査の際に診療内容の正当性を証明できないことにつながり、不正請求を疑われる原因となります。
療養担当規則に違反した場合のリスク
療養担当規則に違反すると、以下のような行政処分を受ける可能性があります。
- 戒告又は注意:比較的軽微な違反の場合に行われます。
- 個別指導・監査:違反の疑いがある場合、厚生局による詳細な調査が行われます。
- 保険医療機関の指定取消・保険医の登録取消:悪質な違反や不正請求が認められた場合、保険診療を行う資格が一定期間(原則5年間)剥奪されます。これは、病院の閉院に直結する最も重い処分です。
これらのリスクを回避するためにも、日頃から療養担当規則を遵守した運営を徹底することが、病院経営の安定化に不可欠です。