
PFM(Patient Flow Management)とは、患者の入退院プロセスを最適化し、病院経営を改善する手法です。本記事では、PFMの重要性から導入メリット、具体的な実践ステップについて解説します。
PFMとは?病院経営における重要性を解説
PFMとはPatient Flow Management(ペイシェント・フロー・マネジメント)の略称で、日本語では「患者フロー管理」と訳されます。患者さんの入院前から退院後までの一連の流れを包括的に管理し、最適化することで、医療の質と経営効率の向上を目指すマネジメント手法です。
PFM(Patient Flow Management)の基本的な考え方
PFMの根幹にあるのは、「患者さんの情報を一元管理し、院内の多職種が連携して最適な医療サービスを提供する」という考え方です。 具体的には、以下のような患者さんの流れ(フロー)全体を管理の対象とします。
- 入院前: 入院予約、事前の検査・説明
- 入院中: 治療計画、手術、リハビリ、病棟移動
- 退院時: 退院指導、退院調整
- 退院後: 在宅医療への連携、外来フォロー
これらのプロセスで発生する情報を院内でリアルタイムに共有し、ボトルネックとなっている部分を特定・改善することで、患者さんの流れをスムーズにします。
PFMが注目されている背景
PFMが注目される背景には、国の医療政策や社会構造の変化があります。
- DPC/PDPS(診断群分類別包括評価)の導入: DPC制度下では、平均在院日数の短縮が病院の収益向上に直結します。患者さんの流れを円滑にするPFMは、在院日数をコントロールする上で極めて重要です。
- 地域医療構想の推進: 高齢化の進展に伴い、急性期から回復期、慢性期、在宅医療へと、患者さんをスムーズに移行させる地域連携が不可欠です。PFMによる退院支援・調整機能の強化は、地域における自院の役割を果たす上でも欠かせません。
- 労働人口の減少: 医療従事者の確保が困難になる中、職員一人ひとりの生産性向上が急務です。PFMによって業務の無駄をなくし、多職種連携を促進することは、職員の負担軽減と働きがい向上にもつながります。
これらの背景から、PFMは単なる業務改善ツールではなく、変化に対応し、持続可能な病院経営を実現するための経営戦略そのものとして位置づけられています。
PFM導入が病院経営にもたらす3つのメリット
PFMを導入することで、病院経営に具体的にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。主な3つのメリットを解説します。
病床稼働率の向上と収益改善
PFMによって入退院のプロセスが効率化されると、ベッドコントロールが最適化され、病床稼働率の向上に直接的につながります。 例えば、退院予定の患者情報を早期に把握し、次に入院する患者さんの受け入れ準備を並行して進めることで、空床期間を最小限に抑えることができます。これは、DPC病院における収益性の高い急性期医療の提供体制を強化し、病院全体の収益改善に貢献します。
医療の質の向上と患者満足度の向上
患者さんの情報が院内でスムーズに共有されることで、医療の質の向上が期待できます。多職種が連携して一貫した治療方針のもとで患者さんに関わるため、治療の遅れや重複する検査などを防ぐことができます。 また、入院前から退院後まで切れ目のないサポートを提供できるため、患者さんは安心して療養に専念できます。結果として、患者満足度の向上にもつながります。
職員の業務負担軽減と連携強化
PFMは、職員の業務負担軽減にも効果を発揮します。 従来、電話やFAXなどアナログな手段で行われていた入退院調整や情報共有が、システム上で効率的に行えるようになります。これにより、看護師や医療ソーシャルワーカーなどが本来の専門業務に集中できる時間を確保できます。 また、共通の情報を基に多職種が議論し、協働する文化が醸成されるため、チーム医療の質が高まり、組織全体の連携が強化されます。
PFM導入を成功させるための具体的なステップ
PFMの導入を成功させるためには、段階的かつ計画的に進めることが重要です。ここでは、実践的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:現状分析と課題の可視化
まずは、自院の患者フローにおける現状を正確に把握し、課題を可視化することから始めます。 平均在院日数、病床稼働率、手術待機日数などのデータを分析し、どのプロセスに時間がかかっているのか、どこにボトルネックが存在するのかを特定します。「入院決定から実際の入院までの期間」「退院が決定してから退院するまでの時間」など、具体的な指標を設けて分析することが有効です。
ステップ2:院内体制の構築と目標設定
次に、PFMを推進するための院内体制を構築します。 医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、事務職員など、関連部署のメンバーで構成される専門の委員会やタスクフォースを設置することが一般的です。その上で、「平均在院日数を○日短縮する」「病床稼働率を○%向上させる」といった、ステップ1で可視化された課題に基づく具体的で測定可能な目標(KPI)を設定します。
ステップ3:ITシステムの活用とデータ分析
PFMを効率的に運用するためには、ITシステムの活用が不可欠です。 入退院支援システムやベッドコントロールシステムなどを導入し、患者情報をリアルタイムで一元管理・共有できる環境を整備します。システムを導入するだけでなく、継続的に改善していくことが、PFMを院内に定着させ、成果を最大化する鍵となります。
PFM導入における注意点と対策
PFMの導入は、時に院内の抵抗に遭うこともあります。特に、従来の業務フローの変更に対して、一部の職員から反発が生じる可能性があります。 この対策として最も重要なのは、経営層が強いリーダーシップを発揮することです。院長や理事長自らがPFM導入の目的と重要性を繰り返し院内に発信し、全職員の理解と協力を得ることが成功の前提となります。 また、一部の部署からスモールスタートで始め、成功事例を作ることで、他の部署への展開をスムーズにする方法も有効です。
PFMは病院経営の経営を支えるカギのひとつ
PFMは、患者さんの入退院の流れを最適化することで、病床稼働率の向上、医療の質の向上、職員の負担軽減を実現し、病院経営を根幹から支えるマネジメント手法です。 国の医療政策や社会の変化に対応し、今後さらに厳しくなる病院経営環境を乗り越えていくために、PFMの導入は強力な一手と言えるでしょう。 まずは自院の現状分析から始め、持続可能な病院経営の実現に向けた取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。