
アメーバ経営(京セラ式病院原価管理)について制度の概要から、導入によるメリットなどを解説します。
アメーバ経営(京セラ式病院原価管理手法)とは
京セラ式病院原価管理手法とは、京セラ創業者である稲盛和夫氏が考案した経営管理手法「アメーバ経営」を、病院経営に応用したものです。組織を小集団(アメーバ)に分け、それぞれの部門が独立採算で運営されるのが最大の特徴です。
全職員が経営者意識を持つ「部門別採算制度」が核
この手法の核となるのが、部門別採算制度です。診療科や看護部、検査部、事務部といった各部門を一つの会社のように捉え、それぞれの収入と支出を明確にします。 各部門のリーダーは、自部門の採算を日々管理し、どうすれば収益を最大化し、経費を最小化できるかを常に考え、実行することが求められます。これにより、一部の経営層だけでなく、現場で働く職員一人ひとりがコスト意識を持ち、経営に参画する意識が醸成されるのです。
病院経営にアメーバ経営が有効な理由
従来の病院経営における原価計算は、部門ごとの正確なコスト把握が難しく、「経営がうまくいっているのか悪いのか、その原因はどこにあるのか」が見えにくいという課題がありました。 アメーバ経営では、各部門の経営成績が数字で明確になります。これにより、どの部門が収益に貢献し、どの部門に課題があるのかが一目瞭然となりため病院経営と親和性が高いのです。
病院におけるアメーバ経営のメリット
京セラ式の原価管理手法を導入することは、病院経営に主に3つの大きなメリットをもたらします。
経営状況のリアルタイムな可視化
最大のメリットは、経営の「見える化」です。部門ごとの収支が「時間当り採算表」などの形でリアルタイムに把握できるため、経営陣は病院全体の状況を正確に、かつ迅速に掴むことができます。これにより、感覚的な経営判断ではなく、データに基づいた客観的で的確な意思決定が可能になります。
職員の経営参画意識の向上
各部門の目標達成が、所属する職員の評価にも繋がるため、職員一人ひとりが「どうすれば部門の収益を上げられるか」「無駄な経費をどう削減するか」を自分事として考えるようになります。 この当事者意識が、現場からの業務改善提案を活発にし、組織全体の活性化と収益性向上に繋がります。
迅速な経営判断と改善サイクルの実現
問題が発生している部門を早期に特定できるため、すぐに対策を講じることができます。Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Action(改善)のPDCAサイクルを高速で回すことが可能になり、継続的な経営改善が実現します。
アメーバ経営の導入ステップと注意点
手法の導入を成功させるには、段階的なアプローチといくつかの重要なポイントがあります。
導入前に不可欠な組織体制の明確化
まず、経営トップの強いリーダーシップが不可欠です。なぜこの改革が必要なのか、その理念を全職員に丁寧に説明し、理解と協力を得ることが成功の第一歩です。 同時に、各部門の役割と責任範囲を明確に定義し、誰が何に対して責任を持つのかを全職員が共有できる組織体制を構築する必要があります。
部門分け(アメーバ)と採算表作成のポイント
次に、組織を機能ごとに適切な大きさの部門(アメーバ)に分割します。この際、各部門の採算が独立して計算できるように分けることが重要です。 そして、各部門の収入と支出を管理するための「時間当り採算表」を作成します。この採算表が、日々の経営状況を測る「ものさし」となります。
- 収入:診療収益などを計上
- 支出:人件費、材料費、経費などを計上
- 時間:総労働時間
これらの要素から、1時間あたりの付加価値を算出し、経営効率を評価します。
導入を成功に導くための重要な注意点
導入にあたっては、いくつかの注意点があります。 一つは、部門間の対立を生み出さないことです。過度な成果主義は、採算の押し付け合いや協力体制の欠如に繋がる可能性があります。全部門が「病院全体の発展」という共通の目標を持つための理念共有が欠かせません。 また、導入当初は現場の負担が増える可能性もあります。システムの導入や研修などを通じて、現場をサポートする体制を整えることも重要です。
アメーバ経営はツール以上の存在になり得る
京セラ式の病院原価管理手法は、単なるコスト削減ツールではありません。全職員が経営者意識を持ち、自律的に組織を運営していくための「経営哲学」であり、人材育成の手法でもあります。 導入には時間と労力がかかりますが、経営の可視化、職員の意識改革、そして迅速な経営改善サイクルの実現という大きな果実をもたらし、病院経営を支える羅針盤となるでしょう。