
NDBは、国が保有する日本最大級の医療データベースであり、そのデータを分析することで自院の経営課題の把握や医療の質向上に役立てられる可能性があります。NDBの概要から、病院経営における具体的な活用法、データの利用方法などを解説します。
NDB(レセプト情報・特定健針等情報データベース)とは?
NDBとは「National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups」の略称で、日本語では「レセプト情報・特定健診等情報データベース」と呼ばれます。
これは、健康保険法に基づき、厚生労働省が収集・管理している大規模なデータベースです。日本全国のレセプト(診療報酬明細書)情報と、特定健診・特定保健指導の情報をほぼ網羅的に蓄積しています。
NDBの目的
NDBの設置目的は、主に以下の2点です。
- 国民の健康の保持増進:
収集したデータを分析し、効果的・効率的な医療サービスの提供や、生活習慣病予防策の立案に役立てます。 - 医療の効率的な提供:
医療費の動向や地域差、疾病構造などを分析し、医療政策の企画・立案に資するエビデンス(科学的根拠)とすることです。
NDBで収集されるデータ
NDBには、主に以下の2種類のデータが蓄積されています。
- レセプト情報
- 医科、歯科、調剤のレセプトデータ
- 患者の性別、生年月
- 傷病名、診療行為(投薬、注射、手術、検査など)
- 医薬品、特定器材の使用情報
- 特定健診・特定保健指導情報
- 40歳から74歳までを対象とした特定健康診査の結果(身長、体重、腹囲、血圧、血液検査結果など)
- 特定保健指導(動機付け支援、積極的支援)の実績情報
これらのデータが個人の特定ができないように匿名化された上で、格納されています。
NDBは病院経営にどう活用できるのか
NDBのデータは、国の政策立案だけでなく、病院経営の戦略策定においても非常に価値のある情報源となります。
自院の診療実態の把握とベンチマーク分析
NDBの集計データを活用することで、自院の診療傾向や患者構成を客観的に把握できます。例えば、特定の疾病(例:糖尿病、高血圧)における平均在院日数や使用されている薬剤の傾向などを、全国平均や同一地域の他病院と比較(ベンチマーク分析)することが可能です。
これにより、自院の強みや弱み、診療プロセスの課題などをデータに基づいて特定できます。
地域医療構想や医療連携の戦略立案
NDBのデータは、地域における医療需要の把握にも役立ちます。自院が位置する医療圏の疾病構造や患者の受療動向を分析することで、地域医療構想の中で自院が担うべき役割を明確にするための基礎資料となります。また、近隣のクリニックや介護施設との連携(病診連携、病介連携)を強化する際にも、NDBのデータを活用して連携先の選定や連携パスの構築に役立てることが考えられます。
医療の質の評価・向上
NDBデータを用いて、自院の医療の質を評価する(QI:Quality Indicator)取り組みも可能です。例えば、特定の術後の合併症発生率や再入院率などを他院と比較することで、医療安全や診療の質向上に向けた具体的な改善点を見出すきっかけになります。
NDBデータを利用する方法
NDBのデータは非常に機密性が高いため、利用方法には一定のルールが定められています。主な利用方法として「第三者提供」と「オープンデータ」があります。
NDBデータの「第三者提供」とは
研究者や行政機関、そして病院を含む民間事業者などが、公益性の高い目的(研究、医療の質向上、経営分析など)のために、匿名化されたNDBデータの提供を受ける制度です。
利用するには、厚生労働省への利用申出と審査委員会の審査を経る必要があります。手続きは厳格ですが、承認されれば自院のニーズに合わせた詳細なデータ分析が可能になります。
NDBオープンデータの活用
厚生労働省は、NDBのデータを集計した結果を「NDBオープンデータ」としてWebサイトで公開しています。これらは、都道府県別、年齢階級別などの集計表やグラフとしてまとめられており、誰でも自由に閲覧・利用が可能です。
第三者提供ほどの詳細な分析はできませんが、全国や地域のマクロな医療動向を把握したり、自院の簡易的なベンチマーク分析を行ったりする上では、手軽で有用な情報源となります。
まとめ
NDBは、日本の医療情報を集約した貴重なデータリソースです。このデータを正しく理解し活用することは、勘や経験だけに頼らない、データに基づいた客観的な病院経営につながります。まずはNDBオープンデータから地域の医療動向を把握し、さらに詳細な分析が必要であれば第三者提供の活用も視野に入れ、自院の経営戦略や医療の質向上に役立てていきましょう。





