
中央社会保険医療協議会は2025年9月10日、次期診療報酬改定に向けた歯科医療に関する議論を開始しました。今回公表された資料(「歯科医療について(その1)」)では、病院歯科に求められる役割の明確化や、医科歯科連携の推進、人材確保、デジタル化といった、病院経営にも関わる複数の論点が示されています。
病院歯科の役割と医科歯科連携の強化
資料では、地域における歯科医療提供体制の再構築が大きなテーマとして挙げられています 。その中で病院歯科は、専門的な歯科医療の提供や人材育成の拠点としての役割に加え、地域の歯科診療所を後方支援する機能が期待されています 。
特に重要視されているのが「医科歯科連携」です 。入院患者に対する口腔管理は、術後の合併症予防や在院日数の短縮に寄与するエビデンスが示されており、次期改定でも周術期等の口腔機能管理が一層推進される見込みです 。がん患者や要介護者に対する口腔衛生管理の重要性も指摘されており 、院内に歯科を持たない病院であっても、地域の歯科診療所との連携体制を構築し、入院患者への口腔ケアをいかに提供していくかが課題となります 。
歯科専門職の人材確保と働き方改革
歯科医師の高齢化と地域偏在は深刻な問題です 。特に人口が少ない地域ほど歯科医師の平均年齢が高い傾向にあり(スライド37) 、将来的な人材確保が喫緊の課題となっています。

あわせて、歯科衛生士や歯科技工士の確保と定着も重要論点です 。歯科衛生士の就業割合は約46.6%に留まり 、多くの潜在有資格者が存在します。また、歯科技工士の就業割合も約25.4%と低い水準です。これらの専門職が健康に働き続けられる環境整備の重要性が指摘されており 、病院としても、タスク・シフト/シェアの推進や処遇改善を含めた働き方改革への取り組みが求められます。
歯科治療のデジタル化(DX)の推進
限られた医療資源を有効活用する観点から、歯科治療のデジタル化が強力に推進されます 。口腔内スキャナーによる印象採得(光学印象)やCAD/CAM技術を用いた補綴物(被せ物)の製作は、従来の方式に比べて作業時間の短縮や業務負担の軽減につながることが報告されています。

特に、金属価格の変動に影響されないCAD/CAM冠などの非金属材料の活用は、安定的で効率的な歯科治療を提供する上で重要と位置づけられています 。小臼歯におけるCAD/CAM冠の割合は年々増加し、令和6年には約59.3%に達しています。設備投資が課題となる一方で、デジタル技術の導入は、歯科技工士の業務効率化にも寄与するため 、人材確保の観点からも検討すべきテーマと言えるでしょう。
次期診療報酬改定のその他の主要論点
その他、障害者歯科医療の提供体制の充実も重要な論点です 。専門的な医療機関が不足している現状を踏まえ 、いわゆる口腔保健センターなど、地域の拠点病院が果たすべき役割について、評価の見直しが検討される可能性があります 。また、在宅歯科医療のニーズ増加に対応するための多職種連携も引き続き推進されます 。これらの分野においても、地域の中核を担う病院の関与が一層求められることになるでしょう。