野々下みどり(ののした・みどり)
株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理士会評議員などを務める。
新年を、気持ちも新たに迎えられるように
こちら九州でも急に冷え込んで、ここ数日は雪がちらつき、まるで「本格的に冬だよ」と教えてくれているようです。12月であることを改めて意識させることで、年の瀬の忙しさを煽っているようにも感じています。年末の風物詩とも言える清水寺で発表される今年を表す漢字(日本漢字能力検定協会)は「密」でしたね。新型コロナウィルス感染症によって、私自身の仕事にも影響があり、環境も考え方も随分変わりました。世界が激動の年であった2020年もいよいよ終わりを告げようとしています。
少しずつ新しい生活様式に慣れ始め、“New Normal”という言葉にも馴染んできたと思っているとまた、新型コロナウィルスに感染した方が増加したニュースが流れ――。先行き見えない未来に不安を感じ、怖い気持ちに支配されそうになることもあるのではないでしょうか。
特に医療機関は、これからの時期はさまざまな感染症が流行する時期です。事務長の皆さんは、今年はより一層、戦々恐々とした時間の中にいらっしゃることでしょう。感染症に加え、呼吸器や脳疾患の患者が増え、ベッドコントロール、退院調整、救急患者の受け入れなど緊迫した雰囲気の中で働いていた頃を思い出します。そのような中で組織の指揮を取る事務長に、気持ちも新たに、笑って新しい年を迎えていただければと、今私が感じていることをお伝えしたいと思います。
「ああ、そうだった」――。1枚の写真から思い出した“初心”
今年度の業績は。来年度はどうなりそうか――。
経営者である院長・理事長はもちろん、事務長であれば、業績は常に頭の中を支配している課題でしょう。人、モノ、カネ、情報と言った経営資源に気を配り、意識を張り巡らせ、緊張を抱えながら過ごされている方も多いのでは、と推測いたします。
私は以前から「物事は必然だ」と言っておりますが、必要な時は、引き寄せるように必要なことが起こります。後で気付くこともありますが、見失っている時にこそ、大事なことを思い出させてくれる出来事があり、気付きを与えてもらっているように感じます。そして、「ああ、そうだった」と自分の原点に戻ることができるのです。
私にも先日、そんな出来事がいくつかありました。
年度末が近づく中、そして自社の事業の決算期を迎える中、色々と思案していた時に、SNS上で、ある友人の投稿が流れてきました。今は亡くなってしまった女性とカフェで過ごしたときの写真。その女性のことを、私も知っています。学生の頃、彼女はとても華やかで朗らかで……。そんな彼女が眩しくて、私はほとんど会話を交わした記憶がありません。それから社会人になり、高校を卒業して20年くらい経った頃、SNSでやり取りをするようになり、会って食事をしたり、出掛けたりした人でした。
彼女は、仕事に対する熱意や愛情にあふれていて、学生時代と変わらず、いえ、より一層輝いて見えましたし、私は彼女の仕事への向き合い方をとても尊敬していました。大人としての振る舞いも、やっぱりかっこよくて眩しくて。「大人になることを、もっと楽しんでいいんだ」。私は、彼女を見てそう思ったのです。
彼女にかっこいいと伝えたら、彼女から「働いているみどりちゃんもかっこいいよ」と言われていたことを思い出します。今の私は、彼女にまたそう言ってもらえるのかな。
未来のことを思い悩める幸せ
彼女のことを考えると、もっと、もっと、大好きな場所で大好きな仕事をしていていたかっただろうな……、と思います。
私はこれまでの病院勤務の中で、「生きている」ことは当たり前ではないと深く感じていましたし、特にコロナ渦のこの世の中では、「明日病に倒れるかもしれない」「命を、時間を、日々を大切に過ごそう」と覚悟していたはずでした。それでもつい、明日も元気でいるつもりで日々を過ごし、生きるがゆえ、働くがゆえのさまざまな感情や悩みに振り回されています。でも、それは幸せなことなのです。
病院の明日、将来を考えるのは、経営者として、管理者として、リーダーとして、とても大切です。もちろん、時には苦悩もあるでしょう。しかし、明日や未来に思いをはせることができるのは、とてもありがたいことだと改めて感じました。「生きて、そして働いていられる」ことに感謝して、それができなかった人に恥ずかしくないように、かっこよく生きたいと思います。
「私が頑張る」「私が守る」に覚えた違和感
私は今、福祉の分野にも足を踏み入れています。そこで、最近、気になった言葉がありました。
ある施設のスタッフが言った「頑張らないといけません。利用者さんや患者さんを守らなければいけないから」という言葉に、違和感を覚えたのです。私も、病院勤務時代は職員を、病院を、患者さんを守らなければ、支えなければという意識がありました。今も、公私共に自分に関わる人には元気でいてほしい、楽しんでほしいと思っています。では、なぜ今の私は「頑張る」「守る」という言葉にこんなに違和感を覚えるのでしょうか。
関わらせていただいている組織で、最近、人間関係での揉め事が絶えないという課題がありました。スタッフはその状態に疲れてしまって、職場の雰囲気も余裕がない様子。私が「どうすれば改善できるだろう」と気を揉んでいた矢先、スタッフたちから利用者さんと一緒に写った笑顔の写真が送られてきました。「新しい器具を購入して、利用者さんがとても喜んでくれました」。自分たちで「とにかく大事なのは、目の前の利用者さんのこと」だと考え、進み出したようです。
ああ、なんだ。「何とかしなければ」と悩んでいた私よりも、彼らはずっと前向きで、逆に、私が元気と勇気をもらっているんだ。守るなんて、おこがましいにも程ある。彼らに支えられながら、一緒に進むんだな、と。
事務長もきっと、「頑張る」「守る」と力んでしまいがちではないでしょうか。でも、顧客である患者さん、利用者さん、そこに向き合うスタッフがいてこそ、組織のトップも存在できるのです。周囲にいるのは、守るべき弱い者たちではありません。あなたを支えてくれている、生かしてくれている人たちなのです。
患者さん、利用者さんはもちろん、スタッフの笑顔に元気付けられることはありませんか。先日お会いした事務長さんは、「新型コロナウィルス感染症の影響でイベントができない。イベントがあると患者さんは喜んでいたのに」と寂しそうに語っていらっしゃいました。その事務長自身も、イベントでの患者さんの笑顔に喜びを感じていたんだなと思いました。
思い出してみてください。病院で働いていて、あなたが嬉しい瞬間、元気になる瞬間はどんなときですか。
南阿蘇で見つけたトンボ
私は、あまりため込まず、思い悩まない方ですが、悲しみや怒りなど負の感情を抑え込んだときは、体のある一部に不調を来します。そんな時にメンターから「このままだと病気になるから、自分を浄化させてきなさい」と、アドバイスをもらいました。「あなたが全力で仕事ができることが、周りのためでもあるのだから」と。
思い出したのは、仕事の移動で車中見える遠くの阿蘇の山々。なぜか、最近とても行きたい衝動に駆られていたので、思い切って足を伸ばしてきました。久しぶりに昼間の青空や風、空気を感じたような気がしました。
南阿蘇、白川水源に赴き、水と風の音をぼんやり眺めていたら、目の前にトンボが……。トンボは「前にしか進まない」と言われていて縁起がいい、ということを最近知ったのですが、「前に進むんだよ」、そう言われているような気がしました。
2021年がどんな状況になろうと…
最近、「仕事はプレッシャーだろうけど。みどりらしく、楽しんでやってよ」と、久しぶりに話をした友人に言われて、そうだった、とハッとしました。楽しいと思うことを全力でやっている私が、私。「私らしく」って、自分より他人の方が分かっているのかもしれません。
今年の年末年始は、出掛けることも制限がありそうですね。少し、自分のための時間を作って、自分を大事にされてください。それは、周りにいるご家族や友人のため、組織のためでもあります。あなた自身が幸せな状態でいることで、パフォーマンスも向上しますし、周りも幸せになるのです。
2021年、私は年女です。自分らしさを思い出したから、もう前進あるのみ。どんな状況になろうと、私は私の役割を果たします。それを待ってくれている人がいると信じて。私はきっと、2021年も頑張れる。
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