
医療法は、病院経営と密接に関わる重要な法律ですが、複雑で分かりにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。 本記事では、病院経営に携わる皆さまに向けて、医療法の基本から、人員基準、広告規制、そして近年の改正点など体系的に解説します。
病院経営の土台となる「医療法」
医療法は、日本の医療提供体制の根幹を定める法律です。単なる規制ではなく、国民が安全で質の高い医療を受けられるようにするためのルールであり、病院経営の基盤そのものといえます。
医療法の第一条
医療法の第一条には、「医療を受ける者の利益の保護及び良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り、もつて国民の健康の保持に寄与すること」と定められています。 つまり、患者の利益を守りつつ、質の高い医療を効率的に提供できる体制を全国に整備することが、この法律の目的なのです。
医療法のポイント
医療法は大きく、3つの柱で理解していきましょう。
- 患者の利益保護
医療は患者のためにあるという大原則です。医師や病院の都合ではなく、医療を受ける人の権利や安全が最優先されなければなりません。これには、治療方針について十分な説明を受け、同意した上で治療を選択するインフォームド・コンセントの考え方も含まれます。 - 良質かつ適切な医療の確保
国民が、科学的根拠に基づいた質の高い医療を、いつでもどこでも安心して受けられるようにすることを目指します。医療技術の進歩を反映し、安全で効果的な医療を提供するための基準やルールが定められています。 - 効率的な医療提供体制の構築
限りある医療資源(医師、看護師、病床、医療機器など)を有効に活用し、無駄なく効率的な医療システムを築くことを目的とします。各都道府県が策定する医療計画や、将来の人口構造を見据えた地域医療構想などは、この理念に基づいています。これにより、地域ごとの医療ニーズに応じたバランスの取れた体制づくりが進められています。
病院経営者が押さえるべき医療法の重要ポイント
医療法には数多くの規定がありますが、ここでは特に病院経営に直結する重要なポイントを解説します。
人員配置基準
病院が「病院」として認められるためには、医療法で定められた最低限の医師、看護師、薬剤師などの人員を配置しなければなりません。 たとえば、一般病床の場合、医師は入院患者16人に対して1人以上、看護師及び准看護師は入院患者3人に対して1人以上といった基準が定められています。この基準を満たせない場合、行政指導や診療報酬の減額、最悪の場合は開設許可の取り消しといった厳しい処分を受ける可能性があります。
広告規制
医療に関する広告は、患者が適切な医療を選択できるよう、厳しく規制されています。ウェブサイトやパンフレットなどで使用できる表現には制限があり、虚偽・誇大な表現はもちろん、他の病院との比較優良広告や、客観的な事実であることを証明できない内容の広告は禁止されています。 2018年からは医療機関のウェブサイトも広告規制の対象となり、違反した場合は罰則が科されるため、広報活動を行う際には「医療広告ガイドライン」を必ず確認する必要があります。
業務委託の範囲と注意点
病院経営の効率化のため、検査や滅菌、給食、清掃といった業務を外部に委託することは広く行われています。医療法では、委託できる業務の範囲が定められており、原則として、医師や看護師でなければ行えない「医業」そのものを委託することはできません。 業務委託を行う際は、契約内容を精査し、委託先が適切な基準を満たしているかを確認するとともに、院内感染対策や個人情報保護の観点からも、委託先の管理体制を十分に監督する責任があります。
近年の医療法改正と病院経営への影響
医療制度は社会情勢の変化に合わせて常に改正が重ねられています。近年の改正は、病院経営に大きな影響を与えるものが多く、迅速な対応が求められます。
医師の働き方改革関連の改正
2024年4月から、医師の時間外労働の上限規制が本格的に適用されました。これに伴い、医療法も改正され、各病院は医師の労働時間短縮に向けた具体的な計画(医師労働時間短縮計画)の作成・提出が求められています。 宿日直許可の適切な運用や、タスク・シフト/シェアの推進など、医師の労働環境を改善しつつ、医療の質を維持するための組織的な取り組みが不可欠です。
今後の動向と求められる対応
今後も、地域医療構想の推進や、新興感染症への対応力強化、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進など、医療法は改正されていくことが予想されます。 病院経営者は、法改正の情報を常に収集し、その内容を正確に理解することが重要です。そして、改正が自院の経営にどのような影響を与えるかを分析し、必要な規程の変更や体制の整備を計画的に進めていく必要があります。