「医療法人制度」とは ~いまさら聞けない医療・介護業界用語Vol.7

いまさら聞けない医療・介護業界用語

病院の経営が軌道に乗り、事業の将来を考えたとき、多くの方が「医療法人化」を検討します。しかし、その制度は複雑で、メリットだけでなく注意すべき点も少なくありません。 本記事では、医療法人制度の基本から設立要件、運営上のポイントまでを分かりやすく解説します。

医療法人制度の概要

医療法人制度は、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、または介護老人保健施設の開設を目的として、医療法の規定に基づき設立される法人に関する制度です。その根幹には「医療の非営利性」という原則があります。

医療の安定性と非営利性を確保する制度

医療法人は、株式会社のように利益を追求し、株主に配当することを目的としません。医業経営の永続性を確保し、地域医療の安定的な提供を支えることが目的です。そのため、医療法人は剰余金の配当が禁止されており、得た利益は役員報酬などを除き、医療設備の充実や人材育成、経営基盤の強化などに再投資することが求められます。

社団医療法人と財団医療法人

医療法人には、その設立根拠によって大きく2つの種類があります。

  • 社団医療法人: 複数の人(社員)が集まって設立される法人です。現在の医療法人の多くがこの形態をとっています。
  • 財団医療法人: 個人または法人が寄附した財産に基づいて設立される法人です。

さらに、社団医療法人は「持分の定め」の有無によって分類されます。2007年の医療法改正により、現在は「持分の定めのない医療法人」しか新たに設立できません。これは、出資者が法人に対して払戻請求権や残余財産分配請求権(持分)を持たない形態で、法人の非営利性をより徹底したものと言えます。

医療法人化による経営上のメリット

個人経営から医療法人化することで、経営の安定化や発展につながる多くのメリットが生まれます。

税制上の優遇措置

個人事業主の場合、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税が適用されます。一方、医療法人の法人税率は原則として一定です。そのため、所得が一定額を超えると、法人化した方が税負担を軽減できる可能性があります。また、役員となった親族への給与や退職金の支給が損金として扱えるため、節税や相続対策にも繋がります。

事業承継の円滑化

個人経営の場合、院長の死亡により資産が凍結され、診療所の承継が困難になるケースがあります。医療法人であれば、法人が資産や許認可を所有しているため、理事長を変更することでスムーズな事業承継が可能です。これにより、地域医療の継続性が保たれます。

社会的信用の向上と事業拡大

法人格を持つことで、金融機関からの融資が受けやすくなるなど、社会的信用が高まります。これにより、分院の開設や介護事業への進出といった事業拡大がしやすくなる点は大きなメリットです。

医療法人化のデメリットと運営上の注意点

メリットがある一方、法人化に伴う制約や義務も存在します。

設立・運営手続きの煩雑さ

医療法人の設立には、都道府県知事の認可が必要です。定款の作成や事業計画書の提出など、手続きは煩雑で時間を要します。また、設立後も毎年の事業報告書の提出や、役員変更時の登記・届出など、運営上の事務手続きが義務付けられます。

剰余金配当の禁止と解散時の財産帰属

前述の通り、医療法人は利益を役員や出資者に配当することができません。また、万が一法人が解散した場合、残った財産は国や地方公共団体などに帰属するのが原則であり、出資者に返還されることはありません。

附帯業務の範囲制限

医療法人が行える業務は、本来業務である医療提供と、定款で定められた附帯業務に限られます。附帯業務も医療に付随するもの(例:院内売店、疾病予防運動施設の運営など)に限定されており、自由な事業展開はできません。

医療法人設立のための主な要件

医療法人を設立するには、人的・資産的な要件を満たす必要があります。

人的要件:役員・社員の構成

医療法人は、原則として以下の役員を置かなければなりません。

  • 理事: 3名以上(理事長1名を含む)
  • 監事: 1名以上

理事長は、原則として医師または歯科医師であることが求められます。また、役員には親族などの同族関係者が一定数以上を占めないようにする規制(同族経営規制)があります。

資産要件:拠出すべき資産

法人が安定して事業を継続できるよう、設立時には一定の資産(運転資金や不動産、医療機器など)を拠出する必要があります。必要な資産額は事業計画によって異なり、都道府県との事前協議で決定されます。

まとめ

医療法人制度は、医療の非営利性と永続性を確保し、安定的な経営基盤を築くための制度です。税制上のメリットや円滑な事業承継、事業拡大の可能性といった利点がある一方で、設立・運営の手間や様々な制約も存在します。

医療法人化は、経営における重要な岐路です。本記事で解説したメリット・デメリットを十分に比較検討し、自院の将来像と照らし合わせた上で、最適な判断を行うことが求められます。

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