
医療介護総合確保推進法は、「2025年問題」を見据え、質の高い医療・介護サービスを効率的に提供できる体制を構築するために制定されました。医療介護総合確保推進法の基本から、病院経営に直接的な影響を与える「地域医療介護総合確保基金」、そして中長期的な戦略に関わる「地域医療構想」について解説します。
医療介護総合確保推進法の概要
医療介護総合確保推進法(正式名称:地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律)は、持続可能な社会保障制度を確立するため、効率的かつ質の高い医療・介護提供体制を構築することを目的としています。
法律の目的は「医療・介護サービスの提供体制改革」
この法律の根底にあるのは、少子高齢化が進む中で、医療・介護のニーズが増大し、特に2025年以降は医療資源の不足が懸念されるという問題意識です。
そこで、国は都道府県が主体となり、地域の自主性や実情に応じて医療・介護サービスの提供体制を改革していくことを目指しています。
「地域医療介護総合確保基金」と「地域医療構想」が柱
この法律は、主に2つの大きな柱で構成されています。
- 地域医療介護総合確保基金の創設: 都道府県に基金を設置し、地域の医療・介護提供体制の改革に必要な事業への財政支援を行うものです。
- 新たな医療計画の策定: 都道府県が、将来の医療需要や病床の必要量を推計し、「地域医療構想」を策定することを定めています。
これらは、財政的な支援(アメ)と、提供体制の見直し(ムチ)の両面から改革を推進する仕組みといえます。
病院経営に直結する「地域医療介護総合確保基金」
病院経営において、最も直接的な関わりを持つのが「地域医療介護総合確保基金」です。この基金は、消費税増収分を財源の一部としており、都道府県が策定する計画に基づいて、対象事業へ資金が交付されます。
基金の対象となる5つの事業
基金の対象は、主に以下の5つの事業に分類されます。病院はこれらの事業計画を都道府県に提案し、採択されることで財政支援を受けることが可能です。
- 地域医療構想の達成に向けた事業: 病床の機能分化・連携、在宅医療の推進、医療従事者の確保・養成など。
- 居宅等における医療の提供に関する事業: 在宅医療の拠点整備や、多職種連携の推進など。
- 介護施設等の整備に関する事業: 特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの整備。
- 介護従事者の確保に関する事業: 介護人材の参入促進や資質向上、労働環境の改善など。
- その他、地域における医療及び介護の総合的な確保のために必要な事業
病院が基金を活用するメリット
この基金を活用することで、病院は以下のようなメリットを得られます。
- 設備投資の負担軽減: 病床転換や在宅医療設備の導入など、新たな設備投資にかかる費用負担を軽減できます。
- 人材確保・育成の強化: 看護師の研修や認定看護師の育成、多職種連携のための研修プログラム実施など、人材育成への投資が可能になります。
- 地域連携の促進: 地域の診療所や介護施設との連携体制を構築するためのシステム導入や、共同での研修開催などの費用に充当できます。
基金の活用は、単なる資金調達にとどまらず、自院の機能強化と地域における存在価値向上に繋がる戦略的な一手となり得ます。申請を検討する際は、都道府県のホームページで公募要項を確認したり、担当部署に相談したりすることが重要です。
地域医療構想と医療介護総合確保推進法
医療介護総合確保推進法は、都道府県に対し、2025年における医療需要と病床必要量を推計し、「地域医療構想」を策定することを義務付けました。
地域医療構想が目指す「病床機能の分化と連携」
地域医療構想では、医療機能を以下の4つに区分し、それぞれの地域で将来的にどれだけの病床が必要になるかを示しています。
- 高度急性期機能: 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて診療密度が特に高い医療を提供する機能。
- 急性期機能: 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて医療を提供する機能。
- 回復期機能: 急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能。
- 慢性期機能: 長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能。
今後は2040年に向けて、新たな類型に分化することが議論されていますが、「地域全体で最適な医療提供体制を構築していく」主旨は一貫しています。