
地域医療連携推進法人の基本的な概要から、参加することで得られる経営上のメリット・デメリット、さらには設立のための具体的な要件や流れまで、病院経営者様が知りたい情報を網羅的に解説します。
地域医療連携推進法人とは
地域医療連携推進法人とは、地域の医療機関同士が連携し、一体的な医療提供体制を構築することを目的とした法人格です。2017年4月に施行された医療法改正により創設されました。人口減少や高齢化が進む中で、医療資源を効率的に活用し、地域全体で患者を支える体制(地域包括ケアシステム)の中核を担うことが期待されています。
制度設立の背景と目的
背景には、国が進める地域医療構想があります。これは、将来の人口推計に基づき、各地域で必要となる医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)を定め、医療機関の役割分担と連携を進める取り組みです。 地域医療連携推進法人は、この構想を実現するための具体的な仕組みとして位置づけられています。法人が中心となり、参加する病院や診療所の機能分化や連携を推進することで、切れ目のない医療・介護サービスの提供を目指します。
法人の主な業務内容
地域医療連携推進法人が行うことができる主な業務は以下の通りです。
- 医療機関の機能分化・連携の推進
- 参加法人間の役割分担の協議
- 紹介患者への共同対応や診療プロトコルの策定
- 医療従事者の研修
- 複数の医療機関による合同研修の実施
- 専門的な知識や技術を持つ人材の育成
- 医薬品や医療機器の共同購入
- スケールメリットを活かした購入価格の低減
- 医薬品在庫の適正化
- 資金の貸付・債務保証
- 参加法人の設備投資等を支援
地域医療連携推進法人設立のメリット
病院経営の観点から、設立・参加には大きく3つのメリットが考えられます。
医療機能の分化・連携の促進による収益改善
自院の強みである医療機能に特化し、他の機能は連携先の医療機関に任せることで、地域全体で効率的な医療提供体制を構築できます。これにより、病床稼働率の向上や、紹介・逆紹介の活性化による収益改善が期待できます。
経営の効率化・安定化
医薬品や医療機器、消耗品などを共同で購入することで、大幅なコスト削減が見込めます。また、医師や看護師などの人材を法人内で融通し合うことで、人材不足の解消や採用・教育コストの抑制につながり、経営基盤の安定化に貢献します。
資金調達の円滑化
地域医療連携推進法人は、参加法人に対して設備投資などに必要な資金の貸付や債務保証を行えます。また、日本医療機能評価機構の評価を受けるなどの一定の要件を満たせば、地域医療振興基金からの融資を受けることも可能となり、大規模な投資がしやすくなります。
地域医療連携推進法人のデメリットと注意点
メリットがある一方で、いくつかの注意すべき点も存在します。
参加法人の経営方針の調整
各参加法人は独立した経営主体であるため、法人全体の目的と各法人の経営方針をすり合わせる必要があります。特に、理念や文化の異なる法人が集まる場合、意思決定に時間がかかったり、方針がまとまらなかったりする可能性があります。
意思決定プロセスの複雑化
法人の重要事項は、社員総会や理事会で決定されます。参加法人が増えるほど、関係者が多くなり、迅速な意思決定が難しくなる場面が想定されます。ガバナンス体制の構築が重要です。
設立・運営にかかるコスト
法人の設立には、定款作成や登記などの手続きが必要です。また、法人を維持・運営していくための事務局機能や専任スタッフが必要となり、その分の人件費や管理コストが発生します。
設立・参加の要件と手続き
地域医療連携推進法人を設立するためには、医療法に定められた要件を満たし、都道府県知事の認定を受ける必要があります。
参加できる法人の範囲
原則として、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院を開設する法人が対象です。具体的には、医療法人、社会福祉法人、財団法人などが参加できます。
認定要件の概要
主な認定要件は以下の通りです。
- 医療連携推進区域(二次医療圏等が想定される)が定められていること
- 目的や業務内容を定めた医療連携推進方針を策定していること
- 理事会や社員総会など、適切なガバナンス体制が確保されていること
- 一定の財産的基礎を有していること
詳細な要件については、管轄の都道府県にご確認ください。
設立までの流れ
- 参加法人の募集・協議:連携の目的や方針を共有し、参加法人を募る。
- 医療連携推進方針の策定:法人の目的、業務、区域などを具体的に定める。
- 定款の作成
- 設立総会の開催
- 都道府県知事への認定申請
- 認定・登記:認定後、法務局で設立登記を行い、法人が成立する。