
電子カルテをはじめとした医療ICT化が進む昨今、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)を構築する重要性が増しています。ISMSの3要素から、患者様の情報を守り、信頼性を高める導入メリットについて説明します。
情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)とは
情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS:Information Security Management System)とは、組織が持つ情報資産を様々な脅威から守り、リスクを管理するための仕組みのことです。特定のツールや機器を指すのではなく、情報を安全に扱うためのルール策定、体制の構築、教育、継続的な見直しといった、組織的な取り組み全体を指します。
このISMSの国際規格が「ISO/IEC 27001」であり、多くの組織がこの規格に基づいてISMSを構築し、第三者機関による認証(ISMS認証)を取得しています。
ISMSを構成する情報セキュリティの3要素
ISMSは、情報の「機密性」「完全性」「可用性」という3つの要素をバランスよく維持・改善することを目的としています。これらはそれぞれの頭文字をとって「CIA」とも呼ばれます。
機密性(Confidentiality)
認可された人だけが情報にアクセスできる状態を確保することです。 病院においては、患者様の診療情報や個人情報が、権限のない職員や外部の第三者に閲覧・漏洩しないように管理することが該当します。IDやパスワードによるアクセス制御、データの暗号化などが具体的な対策です。
完全性(Integrity)
情報が正確であり、改ざんされていない状態を確保することです。 電子カルテのデータが誤って、あるいは悪意を持って書き換えられることがないように保護することを指します。変更履歴の記録や、データ入力時のチェック体制の整備などが求められます。
可用性(Availability)
認可された人が、必要な時にいつでも情報にアクセスできる状態を確保することです。 システム障害や災害時においても、診療に必要な患者情報にアクセスでき、医療行為を継続できる状態を維持することを指します。システムの二重化や、定期的なバックアップなどが対策例です。
病院経営にISMSが不可欠な理由
現代の病院経営において、なぜISMSの構築が不可欠なのでしょうか。その理由は大きく3つあります。
1. 患者様の重要な情報を保護するため
病院が扱う診療情報や個人情報は、漏洩や改ざんが許されない極めて重要な情報資産です。ISMSを構築することで、これらの情報を組織的に保護し、患者様からの信頼に応える責任を果たすことができます。
2. 医療情報システムを安定稼働させるため
電子カルテをはじめとする医療情報システムは、日々の診療に欠かせないインフラです。ISMSによってシステムの可用性を確保することで、サイバー攻撃やシステム障害による診療停止のリスクを低減し、安定した医療提供体制を維持できます。
3. 法令遵守と社会的信用の向上のため
個人情報保護法などの法令では、事業者に対して安全管理措置を講じることを義務付けています。ISMSを構築・運用することは、これらの法的要求に応えることにつながります。また、ISMS認証を取得すれば、情報セキュリティに適切に取り組んでいることを客観的に証明でき、地域社会や関係機関からの信用向上に大きく貢献します。
ISMS導入による病院経営へのメリット
ISMSを導入し、適切に運用することは、病院経営に多くのメリットをもたらします。
- 情報セキュリティリスクの低減: 組織全体のセキュリティ意識が向上し、情報漏洩やデータ改ざんといったインシデントの発生を未然に防ぎます。
- 信用の獲得: 患者様や連携機関に対し、情報を安全に管理する体制があることを示せ、安心して選ばれる病院としてのブランド価値が高まります。
- 事業継続性の確保: 災害やシステム障害が発生した際にも、重要な情報を守り、診療を継続するための計画(事業継続計画:BCP)の基盤となります。
- 業務プロセスの見直し: ISMSの構築過程で情報の流れや管理方法を見直すため、業務の効率化や明確化につながる場合があります。