
地域医療構想の推進に伴い、病床数の削減や機能分化、あるいは統合の判断を迫られている病院があります。病床機能再編支援事業は、自主的に病床削減や統合を行う医療機関に対して給付金を支給し、経営への影響を緩和するための制度です。
病床機能再編支援事業(給付金)の概要と目的
病床機能再編支援事業とは、地域医療構想の実現に向けて、医療機関が自主的に行う病床削減や統合、機能転換を財政的に支援する制度です。厚生労働省が所管し、各都道府県に設置された「地域医療介護総合確保基金」の一部として運用されています。 本事業の目的は、人口減少や高齢化が進む中で、将来の医療需要に見合った医療提供体制を構築することです。過剰気味な急性期病床を削減し、回復期や慢性期へ転換することや、病院間の統合・再編を促すために、国は給付金というインセンティブを用意しています。
地域医療構想と病床機能報告制度との関連性
本事業は「地域医療構想」の達成を主眼としています。 本給付金は、地域医療構想調整会議での議論を経て、都道府県知事が認定した再編計画に対して支給されます。単に病床を減らすだけでなく、地域の方針に合致していることが必須条件です。
病床機能再編支援事業の対象要件と給付額の仕組み
給付金を受給するには、対象となる医療機関の要件を満たし、かつ定められた算定式に基づいて申請を行う必要があります。
給付金の支給対象となる再編統合のケース
主な対象となるケースは以下の通りです。
- 病床削減(ダウンサイジング):稼働率の低い病床を削減する場合。
- 機能転換に伴う削減:急性期から回復期へ転換する際、看護配置基準の変更等により病床数を減らす場合。
- 病院の統合・再編:複数の病院が合併し、重複する機能を整理・集約する場合。
- 不採算部門の廃止:産科や小児科など、地域で維持困難な部門を集約化する場合。 なお、2020年度(令和2年度)以降、新型コロナウイルス感染症対応で生じた病床稼働率の変化等も考慮される特例措置が設けられる場合があるため、最新の厚生労働省通知や都道府県の公募要領を確認する必要があります。
給付額の算定方法と単価設定
給付額は原則として、「削減する病床数」に「単価」を乗じて算出されます。単価は削減する病床の機能(急性期など)や、再編の内容によって異なります。
- 基本単価:削減する病床1床あたりの基準額。
- 加算:再編による建物改修や設備廃棄が必要な場合に加算される費用。
- 統合支援:病院統合の場合、初期費用やシステム統合費用などが考慮されます。 特に、将来推計人口に対し病床過剰地域での削減を行う場合、単価が高く設定される傾向にあります。
申請手続きの流れと留意点
給付金を受けるための一般的なフローは以下の通りです。
- 構想区域の調整会議での協議:再編計画案を提出し、合意形成を図る。
- 都道府県への計画提出・認定:知事による計画認定を受ける。
- 交付申請書の提出:詳細な事業計画と見積もりを提出。
- 交付決定・事業実施:再編(病床削減・統合)の実行。
- 実績報告・給付金受領:完了後の報告を経て入金。
留意すべきは、申請から給付までのタイムラグと、計画認定のハードルです。地域の医師会や他の医療機関との調整が難航する場合もあります。早期に都道府県の医療政策担当部署へ相談し、スケジュールを把握することが重要です。
また、ダウンサイジングは”片道切符”です。削減した病床を返してほしい(病床数を増やしたい)と思っても、すんなりと戻ってくるようなことはないのです。正しくダウンサイジングすることは病院経営の健全化をもたらしますが、大きな決断となることを念頭に慎重な判断が求められます。






