若者よ。地域医療に関わろう

若者よ。地域医療に関わろう

帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2018年3月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

昨今、新専門医制度の問題点が次々と浮き彫りになり、議論は沸騰しつつある。
この制度が推進されることによって、地域医療が崩壊の危機に瀕することはもはや疑いのない状況のようにも思える。
http://medg.jp/mt/?p=7505

http://medg.jp/mt/?p=7492

この状況に対し、実際に若手医師からの危惧の念も発信されている。森田知宏医師の投稿によると、医師の約半数が地方での勤務意思があるとのことのようだ。しかし、現行の医局制度がその意思の達成を阻み、新専門医制度が、地域病院の研修施設としての要件達成を阻むに至ってさえいると論じている。

http://medg.jp/mt/?p=7519

私は彼らの意見に共感を覚えるとともに、大学、大学院にて地域保健医療を教える立場として、新専門医制度の状況には危惧を感じて来た。さらには、最近になって、様々な大学の医学生から相談を受けるようになった。その多くが、「地方勤務を希望しているが、地方に行ってしまっては生き残ることが難しいと教員からアドバイスされる。教員たちの勧めにしたがい、大学病院に残らないと活路がないのではないか?」というものだ。まだ、経験を十分に積めていない医学生たちに対してのこの種のアドバイスに、懸念を感じる。

そこで、今回は、自分が過去から伝えてきた若手学生向けメッセージを伝えたい。自分のキャリアとしては、1年半大学病院の小児科病棟で重症児の医療にかかわり、その後、鹿児島県奄美の徳之島徳洲会病院で2年3か月勤務した。その時の経験から、伝えたいと思う。当時は、研修医制度そのものがあいまいで、自分は小児科の医局にストレート入局したことを断っておく。

私の提言としては、「できる限り早いうちに、地方にかかわったほうがいい。」というものである。「最先端医療から遅れるから、大学でまずは研修したほうがいい。」というアドバイスは残念ながら該当しない。理由は以下の三つだ。

1)診ることのできる最先端医療には、限界がある。

大学病院において、幅広い疾患名の患者さんを受け入れて、医療にまい進している施設がどれだけあろうか?大学病院の使命としては、臨床、研究、教育の三本柱のはずだが、研究を重視する施設は受け入れる患者さんの疾患を限定せざるを得ない。症例を集中させざるを得ないからだ。そこで、同種の診断名の患者さんを集中的に治療することで、新たな知見が生まれ、最先端の医療も進むというのが大学病院の在り方だ。そこで、最先端の医療を「幅広く」学ぶことは困難である。それぞれの専門領域をローテーションしても、同種の症例にかかわることしかできない。それはそれで重要だり、意義のあることなのだが、極論すれば、顕微鏡レベルの悪性脳腫瘍の除去術や心臓バイパス手術を完璧に行いつつ、骨髄移植も行いうる医師というのは存在しえないし、実際にそうなることも困難である。

2)基本である診断の実力をつけることができるのは地域病院である。

大学病院で接する患者さんというのは、大部分がすでに診断がついている。しかし、地方の病院で勤務すれば、数多くの症例に接することができる。例えば、「気持ちが悪い。」という訴えの患者さんが来院したとしよう。診察をしていけば、気持ち悪さの原因は胃腸炎ではないかもしれない。腹部の大動脈解離によるものかもしれないし、実は髄膜炎による吐き気かもしれない。まさに、医学部で学んできた問診技術、診察技術、検査技術等をすべて動員しつつ、指導医とも相談のうえで進めていくことで診断技術が身についていくのである。

3)幅広い医療者との関わりができる。

地域で医師を育てようという人は、肝のすわりかたが違う。だから、彼らに信用されて任せてもらえたら、本当に光栄でやりがいがあるし、実際に力が伸びる。若さの強みは何か?それはいくらでも質問が出来ることだ。万が一判断に迷い、指導医もお手上げの状態であっても、出身大学の病院でも医局でも電話をかければ、いくらでもアドバイスしてくれる。自分もそうやって、色んな指導医を作って来た。自分は離島で医療に従事している時期に、近隣の地域の大病院の心臓カテーテルの専門家に先天性心疾患児の治療アドバイスを受けていたし、関西の某大学の専門家からは、退院後すぐの患者さんの紹介を受けていた。自分がその領域に不慣れであることを伝えると、たくさんの文献とともに、定期的に電話でアドバイスをくれた。そうやって、島の子どもたちを守ってきた。ただし、「自分は神様!なんでもできる!」なぞと天狗にならず、限界を見極める目も持つことも必要だ。
さらには、限られた地域にいれば、医療者たるもの、職種によらず不安を抱えているし、その不安を払拭するために、ものすごい実力を付けていることが多い。その方たちに教えを請うにこしたことはない。「オレはお医者様だぞ!」なんぞと肩肘張って、鼻の穴を膨らませても、スタッフの心は離れるだけだし、協力も得られない。何より、患者さんが不幸になる。CT画像でもエコーでも血液像でも、スタッフに見方を教わればよい。

では、お前は今、一体どんな医療をしているのだ?という質問に回答しよう。
自分は公衆衛生領域を専門に設定し、厚生労働省にも勤務経験がある。実臨床からは(アルバイトも含めて)、4年半完全に離れていた。しかし、数か月のリハビリ期間を経て、今も一般の小児科臨床に携わっている。明日から抗ガン剤治療を仕切れ、といわれれば無理だが、一般の臨床であれば対応出来るし、しているのだ。地域の病院での初期の研修経験を大事にして来たからこその、現在があると考えている。

若い医師には出来る限り早期に地域に関わることを、ぜひともお勧めしたい。

(MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

※写真はすべてクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)のもとに掲載を許諾されています。

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