【医師の働き方改革】病院経営の医師の労働時間管理はどの程度影響するのか? その対策とポイントを解説(後編)


(当記事は後編です。前編はこちらからご覧ください)エムスリーキャリアは2023年12月7日に、医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院の事務長を講師に迎えた全3回のセミナーのうち2回目となる「病院経営に医師の労働時間管理はどの程度影響するのか」を開催しました。ここでは、その内容や押さえておくべきポイントをお伝えします。

進行:中川加菜(なかがわ・かな)
エムスリーキャリア株式会社 事業開発部

エムスリーキャリアにて主に医療機関向けのサービス開発に従事。今期より医師の働き方改革関連を担当し、医師の働き方改革.comのサービス開発を行う。ほっとらいん(相談窓口)の受付対応も担当。

講師:芦原教之(あしはら・のりゆき)
医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 事務長

大学を卒業後、製薬企業勤務を経て、1997年に宇治徳洲会医事課に転職。2008年に湘南鎌倉総合病院に異動し、2019年4月より現職。医事業務や地域連携、医師募集、総務業務、増築工事プロジェクトなどに携わる。

目次

薬剤師の時間外管理が今後の課題

医師の労働時間管理での他職種への影響に関しては、タスクシフト・タスクシェアと言われる中、しっかりと分析しないといけません。医師の負荷率が130%に相当した場合、看護師や薬剤師、事務に分散することで100%に下げ、看護師は増えた分を看護助手に分散していくといった考え方ですが、ここでは薬剤師にフォーカスを当てたいと思います。

薬剤師には「周術期における薬学的管理等」6項目の業務がありますが、当院では「病棟等における薬学的管理等」と「医師への処方提案等の処方支援」を病棟の業務として取り入れました。そこでわかったことですが、直近1年間における薬剤師の総時間外時間は月平均1857.6時間、さらに1年間遡りタスク・シフトシェアを行う前は月平均1685.2時間でした。薬剤師は増員していますが時間外は大幅に増えており、薬剤師を増員する・しないに関わらず一定割合は増えていくことが伺い知れ、薬剤師の時間外管理が今後の肝になります。実際には事務職などにスライドせざるを得ないかもしれず、その受取先はどのように対処すべきかを含め、今後の課題だと捉えています。

医師の働き方改革が成功すると経営は安定に向かう

次に、病院経営の今後について考えます。コロナ前の医療業界の兆候は、入院から外来へのシフト、入院患者の高齢化・疾病構成が変化する中、診療報酬改定において医業利益の低下が懸念され、2025年の地域医療構想に向けた病床整備と急性期病床の削減により、病床数も一定の割合で削減していくことも心配されていました。こうしたなかでコロナが発生し、先ほどの兆候に加えて新興感染症のパンデミックにより医療構造の課題が浮き彫りになり、急性期医療の崩壊で“なんちゃって”急性期病床も浮き彫りになりました。

こういった状況下、医業外収益の増加を考えないといけない中、医業利益の低下は避けられません。本当の急性期医療をどのように行うべきか、病床区分の整備や運用も課題です。医師の働き方改革や地域医療高層での病床構造改革も迫っており、厳しい局面を迎えつつあります。

今後、診療報酬改定率は大幅なプラスにならないでしょう。一方で売上高の向上を目指したいところですが、固定変動費も右肩上がりの状況です。その中で、損益分岐点を低くし、安全余裕率を何%確保すべきかについて検討することをお勧めします。そのためには医療原価と経費のコントロールが重要であり、これについては次回のセミナーで取り上げたいと思います。

医師一人当たりの適正病床数もポイントで、当院のデータによると8を切ると収益性が安定し、4.5を切ると高額収益を得られるという計算です。医師一人当たりの生産性は「病床利用率×日当円×医師1名当たりの病床数で算出し、月間収益目安は400床以上で1000万円、200床以上で800万円、200床未満で500万円が目安になります。医師の仕事量を把握することも大事であり、そのためには1日の業務内容を可視化する必要もあります。自院の病床数ならびに日当円から医師は一人数の上限もしくは適性をはかり雇用する必要があり、収益性からの判断基準と医師の働き方の観点から選択する必要があります。

最後に、医療におけるマーケティングミックスについて考えます。マーケティングミックス(4P)とは、製品・サービスを販売するために顧客にアプローチするための地連のツール、戦略、手法のことで、「製造(Product)」「価格(Price)」「販促・プロモーション(Promotion)」「販売チャネル・流通(Place)」のこと。医療に当てはめると、医療の質(製造)には差がありますが、価格は公定価格で、販促・プロモーションには医療法上に制約があり、場所の変更も容易ではありません。よって、サービス提供が重要となり、サービス受ける患者がプロモーションとなります。医療には「無形性」「消滅性」「同時性」「不均質性」の4つのサービスがあり、これらを理解のうえ何を提供すべきなのか、医師に何をしてもらうのかについて、働き方改革の中で注目すべきでしょう。どうしても人件費に目が向きますが、サービス提供のあり方を見つめ直す必要があると思います。医師の働き方改革が成功すると医師が集まり、質の向上やブランディングになり、病院経営の安定化につながっていくでしょう。

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