医師の働き方改革で見直したい「雇用契約」―法令違反や未払い残業代へのリスクヘッジ

医師の働き方改革 社労士

2024年4月から始まる医師の働き方改革。医師の時間外労働に罰則付きの上限規制が適用されることが注目されがちですが、労働時間は、労働条件の一部であることを忘れてはなりません。「労働条件」から見直すことで、トラブルを未然に防げることもあります。
本記事では、三本道代社労士が講師を務めた「医師の働き方改革に伴う雇用契約セミナー」(※)をレポート。講話を一部抜粋し、「雇用契約に潜むリスクと対応策」と「未払い残業代を発生させないためにできること」を紹介します。
※2023年6月、エムスリーキャリアが開催

目次

講師:三本道代(みもと・みちよ)
社会保険労務士・医療労務コンサルタント

学習塾の教室長、介護医療に特化した人材紹介会社の人事・労務を経て、社会保険労務士資格を取得。資格取得後は日本経営グループにて、医療法人、社会福祉法人を中心に人事労務分野での支援を行う。現在は個人の社会保険労務士として、トラブル未然防止、働きやすい職場環境づくりを第一に考え、医療機関や一般企業など幅広い業種において支援を行っている。

雇用契約に潜むリスクと対応策

「医師の働き方改革を機に、労働条件全体の見直しが必要」――。社会保険労務士の三本道代氏はこう指摘します。

医師の働き方改革施行に伴い、労働基準監督署による病院への指導・監督が厳しくなることに加え、医師の権利意識が高まり、暗黙の了解とされていたサービス残業などを申告され、トラブルになる可能性があるからです。

三本氏が紹介した2つの事例と、トラブル防止方法を見てみましょう。すべての医療機関がしっかり対応するべき事例です。

トラブル事例1

事例1
医師との契約を口頭のみで済ませ、雇用契約書など書面による契約締結を行っていない

例えば、医師と口頭で「賃金は年収2,000万円」と契約して雇用したものの、後日、医師から「年収3,000万円という話だった」と言われて困っている、という事例はよくあります。

書面の契約締結は基本です。書面がないと、年収のほか、就業時間や当直の有無といった勤務条件そのものが曖昧になります。

労働契約法第6条では「口頭のみであっても雇用契約は成立する」とされていますが、労働基準法第15条では「使用者が労働者を採用するときは、賃金、労働時間、その他の労働条件を書面などで明示しなければならない」と規定されています。

そのため、多くの医療機関では医師の雇用時に書面による契約を交わしていることが多いかと思いますが、書面に明示すべき事項は改めて確認しておきましょう。

<書面の交付による明示事項>
(1)労働契約の期間
(2)就業の場所・従事する業務の内容
(3)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、
   交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項
(4)賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切・支払の時期に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む)

※2024年4月からは(2)に加えて、これらの「変更の範囲」、つまり、異動や転勤があるかなども明示が必要になります。

トラブル事例2

事例2
残業代を含めた年俸制としている

これは残業代未払いによる労働基準法違反(罰則:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)に科せられる可能性がある事例です。

雇用契約書に年俸しか記載がなく、残業代の算出方法が不透明な場合、医師からの申し出や労働基準監督署から指摘によって、未払いの残業代を請求される可能性があります。

年俸制の場合、法令違反を防ぐポイントは次の2点です。
・基本給等に残業代を含む場合は、その時間数及び金額を明記している
・固定残業代が法定の割増率で計算した額を下回っていない

実例を見ながら考えていきましょう。

雇用契約書の記載:年俸2,000万円(賞与及び残業代含む)
実態:年の所定労働時間2,085時間、実際の残業が月20時間程度

以上のような契約・実態だと、実際の残業は未払い残業と扱われる可能性があります。
未払い残業代を請求された場合の金額を計算してみましょう。

・時間単価:2,000万円 /2,085時間= 9,592円
 ※年俸制は賞与も含めて計算するため月給制の場合より時間単価が高くなる
・残業時間単価:9,592円×1.25(法定割増率)=11,990円
・未払い残業代:11,990円×20時間×12ヶ月=2,877,600円

残業代未払いのリスクを防ぐには、年俸の内訳として、基本給と固定残業代(金額と時間)を分けて記載します。

同じように年俸2,000万円であれば、次のような書き方です。
年俸2,000万円
 内訳:基本給   17,484,000円
    固定残業代 2,516,000円(年間240時間分)
    (時給単価:8,386円、残業単価:10,482円)

医師の働き方改革の基本「勤怠管理」のポイント

医師の働き方改革は、罰則付きで時間外労働の上限が規制されるため、労働時間の管理を徹底している医療機関は多いと思いますが、改めて勤怠管理の基本をおさらいしましょう。

企業などで先行してスタートしている働き方改革は、労働安全衛生法が改正され、2019年4月から「労働時間は客観的な方法、その他適切な方法で把握」されるように義務化されました。労働時間を管理する対象は裁量労働制の適用者や管理監督者なども含め、すべての労働者です。

ここで言う、「客観的な把握」とは次のような例です。
・タイムカードによる記録
・PC等の電子計算機の使用時間の記録
・ICカードによる記録
・使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録

すでに上記のような客観的な把握方法を採用している医療機関は多いでしょう。ただ、「依頼しても医師が労働時間を記録してくれないので、適切な運用ができていない」というお悩みも聞きます。このような場合は、すぐに諦めるのではなく、「単に労働時間を把握するだけでなく、先生の健康を守るため」だと何度もお願いして理解してもらう必要があります。

労働時間の管理は2024年4月以降ずっと続ける必要があります。医師側と医療機関側、双方に無理がない方法で運用できるように体制・環境を整えていきましょう。

また自己研鑽と勤務時間の違いも言語化し、ルールを決めておくことが大切です。正しい勤怠管理ができていない・記録がない状況で未払い残業代を請求されたら、労働時間と判断される可能性もあります。

「知らなかった」では済まされない!今すぐ雇用契約の見直しを

事例も交え、起こりうるリスクとその対応策についてご紹介しました。貴院ではトラブル対策ができていますでしょうか。

2024年4月の医師の働き方改革施行前でも、すでに労働基準法違反や未払い残業代が発生しているリスクもあります。これから医師からの申告、労働基準監督署からの指摘などが厳しくなることを想定すると、早急な対応が必要です。「知らなかった」では済まされません。適切に運用できるよう、今すぐ見直しを進めておきましょう。

※内容は一部抜粋しています。
全編は「医師の働き方改革.com」にて記事でご紹介予定です。

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