定額負担の徴収義務「200床以上」に拡大論―18年度診療報酬改定の検証調査を読み解く―医療ニュースの背景がわかる

定額負担の徴収義務「200床以上」に拡大論―18年度診療報酬改定の検証調査を読み解く―医療ニュースの背景がわかる
2018年度に行われた診療報酬改定の影響を検証するため同年度に行われた調査の結果が3月に公表され、中央社会保険医療協議会・総会が、それらを踏まえて2020年度の改定に向けた議論を進めています。

紹介状なしに外来を受診した患者から定額負担を徴収する仕組みでは、そうした対応を義務付けられている大病院だけでなく、現在は対象外の病院でも積極的に対応しているケースがあることが分かり、2020年度の改定に合わせて対象を拡大することを検討します。

一方、「かかりつけ医機能」や外来医療の実態に関する調査では、自分の「かかりつけ医」を決めている患者の割合が全年齢層ベースで8割を超えました。ただ、地域包括診療料など国が「かかりつけ医機能」への評価と位置付ける診療報酬の届け出は伸び悩んでいます。

<CBニュース記者・兼松昭夫>

定額負担徴収の対象拡大は既定路線

診療報酬改定の影響を調べるのは、一連の見直しが狙い通りの効果を挙げているかを検証し、その後の改定をにらんだ議論につなげるためで、現在は、中医協の診療報酬改定結果検証部会や入院医療等の調査・評価分科会などが分担して行っています。2018年度の改定を受けて、検証部会では2019年度にかけて計8つの調査を実施します。

中医協・総会に3月に報告したのは、医療従事者の働き方改革や「かかりつけ医」を評価する診療報酬の算定状況など、2018年度中に行った4つの調査の結果です=図表1=。それらを踏まえた中医協・総会での議論をたどると、2020年度改定の行方がおぼろげながら見えてきます。

(1)「かかりつけ医機能」など外来医療への評価に関する実施状況調査(その1)
(2)在宅医療と訪問看護の評価に関する実施状況調査
(3)医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進への評価に関する実施状況調査(その1)
(4)後発医薬品の使用促進策の影響・実施状況調査

図表1 2018年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査 ※中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会(2019年3月27日)の資料を基に作成

まず、紹介状なしに大病院を受診した外来患者から定額負担を求める仕組みの対象病院拡大や、「かかりつけ医機能」の普及策をめぐる議論です。これらは、5月15日の中医協・総会でテーマになりました。

定額負担は、特定機能病院と一部の地域医療支援病院に2016年度の診療報酬改定に合わせて導入されました。「救急の患者」などを除き、紹介状なしに受診した外来患者から初診時に最低で5,000円、再診時には2,500円を徴収することをこれらの病院側に義務付けたのです。「かかりつけ医」を介さず、大病院を直接受診した場合の医療費負担を大きくすることで患者側の行動変容を促し、「かかりつけ医」と大病院の外来医療の役割分担を促そうという狙いでした。

検証部会の調査では、大病院を受診した初診患者の7割超がこうした仕組みがあることを「知っていた」と答えました。さらに厚生労働省の調べでは、紹介状なしに病院を受診した外来患者の割合は「20-49床」から「700床以上」の全てで2002年をピークに低下傾向にあります。特に「500-699床」と「700床以上」では2011年以降に目立って低下し、定額負担の一定の効果をうかがわせます=図表2=。

図表2 紹介無しで外来受診した患者の割合の推移 ※中央社会保険医療協議会・総会(2019年5月15日)の資料より抜粋

この仕組みの地域医療支援病院の対象は当初、「一般病床500床以上」でしたが、2018年度に「許可病床400床以上」へ拡大されました。支払側の吉森俊和委員(協会けんぽ理事)はこの日の意見交換で、「200床以上の病院について、(定額負担の徴収を)責務として考えることがあってもいい」と指摘しました。これは、定額負担の徴収をまだ義務付けられていない200床台と300床台の地域医療支援病院の計88.9%が2018年10月現在、1,000円以上4,000円未満を初診時に徴収していることが検証調査で分かったからです。

政府の「新経済・財政再生計画」の改革工程表では、この仕組みの対象範囲の拡大を2019年度中に関係審議会で検討することとされ、自治体立や公的など全国の2,481病院(2019年3月現在)が加盟する日本病院会でも2020年度改定に合わせて対象を拡大するよう訴えています。対象拡大は既定路線ですが、具体的にどのような病院に広げるべきかにまで踏み込んだ中医協での発言は、これまでありませんでした。

「かかりつけ医機能」を報酬で普及に異論

一方、医療機関の「かかりつけ医機能」に関しては、どんな病気でもまず相談に乗ったり、専門的な治療を行う医療機関を必要に応じて紹介したり、病歴や家族背景などを把握したりする機能を求める患者が多いことが検証調査で分かりました。

また、回答があった患者1,268人の83.3%が、「かかりつけ医」を「決めている」と答えました。中でも「75歳以上」と「65~74歳」では、「かかりつけ医」を「決めている」がそろって9割超を占めました=図表3=。

図表3 かかりつけ医を決めている患者の割合 ※中央社会保険医療協議会・総会(2019年5月15日)の資料より抜粋

ただ、肝心の医療機関側の対応がいまひとつです。検証調査では、有床診療所67カ所と無床診療所424カ所の共に6割超が、地域包括診療加算も地域包括診療料も2018年度の改定後に届け出ていませんでした。2つのうち、地域包括診療料は診療所だけでなく許可病床200床未満の中小病院も算定できますが、今回の調査では72病院中63病院(87.5%)が未届けでした。

これらの診療報酬は、「かかりつけ医機能」を持つ医療機関への評価という位置付けですが、厚労省はこの日、地域包括診療加算を届け出る診療所が2018年度改定前の2016-2017年にむしろ減少していることを示すデータを出しました。地域包括診療料の届け出は増加傾向にあるとはいえ2017年7月現在、診療所からの届け出は186カ所、病院からは34カ所にすぎません。

中医協では、「かかりつけ医機能」を一層普及させる必要があるという認識では一致しています。問題はその方法です。この日の意見交換では支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)が、2018年度に新設された機能強化加算を例に、「かかりつけ医機能」を広めるため医療機関を診療報酬で誘導するこれまでの対応を疑問視しました。

そうした方法だと、「かかりつけ医機能」を持つ医療機関を受診する場合に医療費の窓口負担が増えるので患者に敬遠されかねません。そのため、「かかりつけ医機能」を普及させるどころか、かえって普及を妨げる恐れがあるというのです。

それに代わる方法として幸野委員が主張したのが、医療機関を診療報酬で誘導するのではなく、患者側を「かかりつけ医機能」に誘導する仕組みの導入です。幸野委員は「その一つが、紹介状なしの大病院定額負担」と述べましたが、新たな定額負担で「かかりつけ医機能」へ患者をどう誘導するのか、具体的な枠組みには言及しませんでした。

財務省では、「かかりつけ医」以外の医療機関を紹介状なしに受診した外来患者に、定額負担を求めるべきだと主張しています。幸野委員の主張もそれと同じようなイメージでしょうか。

一方、宮近清文委員(経団連「医療・介護改革部会」部会長代理)は、機能強化加算を実際に算定された患者がどのようなメリットを感じたかなどのデータに基づいて、加算の有効活用策を議論すべきだと指摘しました。同じ支払側でも、幸野委員の意見とはニュアンスが異なる印象です。

業務改善を阻む要件は「取っ払うべきだ」

医療従事者の働き方改革の推進はどうでしょうか。

こちらは5月29日の中医協・総会でテーマになり、▽書類作成・研修要件の合理化▽タスク・シフティングの推進▽人員配置の合理化▽チーム医療・複数主治医制等の推進――を引き続き進められないか、議論を始めました。

書類作成・研修要件の合理化に関しては、医療機関の業務を効率化させるため、基本診療料の施設基準を届け出る際に必要だった副本の提出を廃止するなどの見直しが2018年度の診療報酬改定で行われました。病院の勤務医がそれ以降、どのような業務の負担が大きいと感じているかを検証部会が調べると、計25の業務のうち、「主治医意見書の記載」「診断書、診療記録・処方箋の記載」「検査、治療、入院に関する患者への説明」がトップ3を占めました=図表4=。

意見交換では、診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)が「業務の効率化をさらに進めていただきたい」と訴えると、幸野委員も、業務の効率化を阻む要件があるなら「取っ払うべきだ」との認識を示しました。

これに対して支払側の平川則男委員(連合総合政策局長)は、診療報酬の要件緩和について、「まず安全性の観点を重視して、場合によってはICT(情報通信技術)の活用を含む形で緩和していかないと問題が生じると思う」などと述べ、安易な対応に慎重な姿勢をました。

図表4 各業務の負担感 ※中央社会保険医療協議会・総会(2019年5月29日)の資料を編集

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