病院の生き残りを左右する「施設基準管理士」とは―日本施設基準管理士協会 田中利男代表理事

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診療報酬改定のたびに、複雑さが増す施設基準。適切な管理・運用を怠れば返還金が求められ、病院経営にも大きな影響を与えます。こうした背景のもと、施設基準に精通した人材を育てるため、2018年1月に一般社団法人日本施設基準管理士協会が設立されました。2018年4月以降、東京と大阪で開催された講習会に467名が参加したほか、549名が第1回目の認定試験を受験するなど、病院事務職の間でにわかに浸透し始めています。今回は、施設基準管理のポイントや協会の活動について、代表理事の田中利男氏(医療系の専門情報誌『医事業務』編集長)に聞きました。

施設基準管理は、攻めの病院経営にもつながる

日本施設基準管理士協会 田中利男

―2019年1月をもって協会設立1周年を迎えました。改めて、施設基準管理に関する団体を設立した理由を教えてください。

施設基準の複雑化に伴い、医療機関の担当者、監督をする厚生労働省や厚生局など、それぞれに負担がかかっていると感じていたからです。

私は病院事務職を経て、医療系の専門情報誌『医事業務』(産労総合研究所)の編集長になりました。その後、診療報酬改定の情報がインターネットで入手できる時代に入った2010年から医事職員への情報発信のために、『医事業務』の付録として診療報酬改定の主要項目チェック表(点数/算定要件/施設基準)を作成しました。次第に施設基準の要件が増えていき、ついには自分なりに施設基準のチェック表をつくって発刊したのが『施設基準管理士ハンドブック』です。この書籍は購入者がExcelのチェック表をダウンロードできる仕様にしたところ、全国の方々から「チェック表がすごく役立ちました」という声をたくさんいただきました。その後も診療報酬改定を重ねるごとに施設基準は増えていき、さすがにこれでは現場で管理するのも大変なのではないかと思い、これまで培ってきた人脈を生かして、さまざまな人に施設基準管理の実態を聞いて回りました。その結果、病院事務職は異動や兼務などにより、施設基準管理の知見が蓄積されず、人材育成が後手に回っていることに気付いたのです。

私自身、これまで患者側と医療者側のどちらも経験しました。もともと協会を立ち上げた原点は、純粋に病院側と行政側の双方の負担を減らし、健全な医療経営のもと、患者さんに良い医療を提供してほしいと思っているからです。そのためには「施設基準」を適切に管理・運用することが欠かせませんので、これを達成するために、私がぜひ協力してほしいと考えた理事の皆さまとスタートしました。2015年には「施設基準管理士」の商標登録までしていたものの、賛同者を集めて協会を立ち上げるまでに時間がかかってしまいました。

―ところで、施設基準の管理が必要になったのは、いつ頃の話なのでしょうか。

承認制から届出制に変更になった1994年頃から、医療機関で施設基準の管理が必要になったと言えます。

承認制と届出制の違いを分かりやすく例えると、入学が難しい日本の大学が承認制、卒業が難しい欧米の大学を届出制という風にとらえてもらうと、一般の方々には想像いただけるのではないでしょうか。要するに、承認制の頃は厚生局に受け取ってもらうまでが大変でしたが、届出制になってからは簡単に受け取ってもらえるようになった。しかし同時に、届出の内容が実態に即しているかどうかを厳しくチェックするようにもなりました。ここが、施設基準を“管理”する必要性が増してきたポイントです。

―施設基準を“管理”することで、病院経営にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

適時調査の指摘による返還金を未然に防ぐだけでなく、日頃から管理していれば、施設基準のランクアップなど攻めの経営にもかかわれるようになります。私が取材した中では、施設基準を適切に管理できるようになってから、新規に届出ができる項目を発見したケースがたくさんあり、年間の試算で1億円を超えるような増収事例もあります。

ここでは施設基準を交通ルールに置き換えると分かりやすいでしょう。例えば、施設基準の届出をして受理されたら病院側は運転免許証を得たことになり、ルールさえ守れば運転をしてもよい、つまり、点数を算定してよいとされます。しかし、ルール違反をした時には交通違反と同様に罰則があり、いわゆる返還金が求められます。2017年度の返還金は約36億8千万円、件数では3,643件もあることから、決して他人事にはできない数字です。

―協会が考える、施設基準管理のポイントを教えてください。

2つあります。

1つ目は適時調査の内容を確認することです。適時調査で聞かれる内容は、すでに厚生労働省のホームページにすべて公開されています。意外とこの事実を知らない方も多いのですが、公表されている内容に沿って1つずつ対応していくことが大切です。

そうは言っても、施設基準の「解釈」を読み解くのはなかなか難しいと思います。やはり最終的な判断は管轄の厚生局に仰ぐしかありませんので、分からないことが出てきたら、すぐに厚生局に聞くのが確実です。相談をためらう人も多いですが、施設基準の管理・運用がうまくいっているところは、厚生局と顔の見える関係がつくれています。これもマネジメントの1つです。「施設基準管理士」は知識だけでなく、コミュニケーション、プレゼンテーション、ネゴシエーション、ファシリテーションなどのマネジメント能力も必要だと思うので、今後、協会としてもこれらの能力を高められるような取り組みも行っていければと考えています。

2つ目は施設基準管理を日常業務に落とし込むことです。具体的には、適時調査が来ると分かってから動き出すのではなく、いつでも対応できるように、書類や院内掲示の確認、患者数や職員の入退職などに気を配っておくことです。最近の施設基準は院内感染対策や医療安全管理など、病院全体の職種を巻き込まないと対応できない項目が増えていますので、日頃のコミュニケーションも疎かにしないことをおすすめします。

出典:一般社団法人日本施設基準管理士協会 資料より抜粋

―適時調査当日のポイントはありますか。

シンプルに、調査員と向き合い、丁寧に対応することに尽きると思います。そもそも適時調査は悪いところを叱りに来るのではなく、届出どおりかどうかを調査・確認することが目的です。たとえ言い訳をしたくなる場面があったとしても、まずは受け止め、冷静に対応したほうがいいでしょう。そのためにも、普段から厚生局との顔の見える関係をつくり、お互いの印象を悪くさせないことも大切ですね。

受験申込者数600人超 今後は横のつながりに期待

日本施設基準管理士協会

―2019年1月26日に第1回の認定試験が行われましたが、反響としてはいかがでしたか。

610名の申し込みがあり、最終的に549名が受験しました。まだ細かい集計の段階ですが、内訳としては男性約7割、女性約3割、実務経験者は全体の約7割でした。都道府県別では、最も多かったのが東京都で、次いで神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県、福岡県、兵庫県、愛知県、北海道、茨城県の順となりました。

例題紹介

施設基準管理士の試験は基礎科目(100分)、専門科目(90分)で、全マークシート形式。

Q:基本診療料に係る施設基準の届出に当たり、特に規定する場合を除き、原則的な実績の取扱いについて正しいものを選べ。
A:届出前3か月の実績を有している
B:届出前2か月の実績を有している
C:届出前1か月の実績を有している
D:実績期間を要しない


―初回でありながら関心の高さがうかがえますね。この人数は想定どおりだったのでしょうか。

いえ、初回は100~200名程度と思っていましたので、実際には想定を上回る人数で驚きました。これほど集まったのも、全国津々浦々で施設基準事例検討会を開き、試験対策の講習会を行ったことが大きかったと思います。東京以外の地域に行くと、交通費はかけられないけれど施設基準をしっかり学びたいと意欲的な方がたくさんいます。こちらから足を運んだことで、広報活動もできたのだと感じています。

―全国で実施してきた講習会や検討会はどのような内容だったのですか。

2017年と2018年の2年間にわたって各地の著名病院をお借りして、施設基準事例検討会を開催しました。これは各地域の医療機関で施設基準管理を担当されている方に事例として発表していただき、その後、参加者を4~6名くらいのグループに分けて「他の病院では施設基準をどのように管理をしているか」「前回の適時調査にはどう対応したか」などを中心に話し合いました。この検討会は、各地域の病院同士が交流することで横のつながりや相談相手ができたという声もいただき、やってよかったなと思っています。これからは第1期生となる「施設基準管理士」も誕生するので、有資格者向けのサービスを強化し、資格者同士の交流の場をどうやって生み出すかを検討しています。

―最後に、病院事務職にとって「施設基準管理士」を取得するメリットを教えてください。

やはり資格を取るとなると、ある程度勉強しなければならないので体系的な知識を身に着けられる点が大きいのではないでしょうか。資格取得後も会報誌やイベントなどから最新情報がインプットできるしくみをつくろうとしていて、将来的には都道府県ごとの支部もつくれたらと思います。大学や専門学校などの学生も、病院に就職するための武器として、資格取得をひとつの個人目標として導入してもらえたら嬉しいですね。

2019年度の協会活動については、夏頃に「施設基準管理士」資格認定に向けた講習会、秋頃に第2回目の認定試験を行う予定です。施設基準の管理は病院経営に大きな影響を及ぼしますから、一人でも多くの方が「施設基準管理士」を取得して、病院経営の柱として活躍してほしいと思います。

<取材・文・写真:小野茉奈佳>

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