病院事務職員の転職活動記(4):「デキる」医事課スタッフへのニーズの高さ(管理職編)

前回の記事では、転職市場において求められる医事課スタッフのスキルや人物像について書きましたが、今度は医事課管理職バージョンをお届けしたいと思います。
なお、「正しく診療報酬請求を理解して、実践できる」というスキルは当たり前のものとして持っている、ということが大前提です。

転職エージェントとお話しした中で、「医事課長」(またはそれに準ずる管理職のポジション)に求められるスキルは、以下の三点かなと感じました。

  1. 医事課スタッフの教育と部署全体の業務設計の経験
  2. 委託会社の業務管理の経験
  3. 診療報酬改定や施設基準への精通と対応実績

以下に、それぞれの詳細を書いていきます。

(1)医事課スタッフの教育と部署全体の業務設計の経験

管理職なので、まず求められるのが「医事課スタッフの教育・管理」をできることになります。医事課は持っている業務範囲も広いですし、自分一人で回せる部署ではありません。診療報酬とは何か、DPCとは何か、といった基本的なことを、業務や座学を通じて、時には自身が一プレイヤーとして、周りの職員に教えて行く経験やスキルが部署のレベルアップには不可欠になります。

そして周りの職員に、日々の業務を問題なく回してもらえる仕組みづくり、また問題があった際にそれをすぐに報告してもらえる仕組みづくりという、医事課全体の業務設計ができる経験も求められるのだと感じました。

「部署全体の人材マネジメント」と「豊富な医事知識」が求められる業務内容であり、この二つを持ち合わせた人材はどこの病院も喉から手が出るほど欲しいのではないかと思います。

(2)委託会社の業務管理の経験

現在の病院では、受付業務や外来・入院の会計作成、レセプト点検といった医事業務を委託会社にお願いするケースが増えています。これ自体は、病院の経営方針なので良し悪しはないのですが、「委託会社が何をしているのかが良くわからない」という状態に陥ってしまい、結果的に病院側が委託会社の“言われるがまま”になってしまうようなケースも残念ながら多いようです。

また、委託会社に業務を依頼する場合、その分野の業務経験が正職員から抜け落ちてしまうため、中長期的にみると医事課職員の能力の低下を招く可能性があります。このような本末転倒の状態を未然に防ぐため、
・委託会社にお願いするもの/自前でやるものを見極め
・委託会社の業務の精度管理やテコ入れ
を、自分の病院の現状を踏まえながら、行うことのできる管理者が求められていると感じました。こちらも、(1)と同様に「部署全体の人材マネジメント」と「豊富な医事知識」が求められる業務内容と言えるかと思います。

(3)診療報酬改定への対応・施設基準の届け出の経験

スタッフ編では「診療報酬への基本的な理解」が必要と書きましたが、医事課の管理職には病院の経営状況に当てはめて、診療報酬をどのように取っていくかを見極める能力が問われます。そしてその判断は、病院経営全体を左右する非常に重要なものになります。
具体的には、以下のような経験や知識が求められると感じました。

診療報酬改定への対応

2年に一度来る診療報酬改定の内容を把握し、自身の病院で対応するもの/しないものを決めていけることが、病院経営の短期的な経営課題になります。新設された加算や新規算定項目に飛びつくのではなく、人件費や設備投資費とのバランスや病院の診療方針ともすり合わせながら、改定内容の情報整理を行う力が医事課の管理者には求められます。

また次回の診療報酬改定だけでなく、4年後・6年後に診療報酬がどのように動いていくのかを見据えながら、目の前の改定に臨んでいくという将来構想力も重要になります。単なる医事周りの知識だけでなく、こういった話を幹部層にコミュニケーションしながら伝えていけるスキルまで求められる、非常にレベルの高い仕事です。

施設基準の届出経験

診療報酬改定とも密接に関わりますが、現在の病院の体制と施設基準の水準を比較して、
・増収につなげられるような分野はないか?
・監査時に指導されるリスクのある分野はないか?
というところに目を光らせる能力も、非常に重要視されていると感じました。

特に届出内容を変更する際は、事務内の調整というよりも各診療科/各部門の医療職と話をつけて、経営的に望ましい方向に道筋をつけられる交渉力が必須になります。そのような業務経験が、転職する医事課管理職には求められているようです。

病床改編の経験

2018年度の改定では、7対1入院基本料の見直しが大きなトピックの一つでしたが、今後の国の政策として病床の機能分化が進んでいくことはほぼ確実です。改定や施設基準の話とも重なりますが、そのような国の動向も踏まえながら、増床または減床のシミュレーションをして、病院を適切な経営判断に導ける能力も今後の医事課管理職には必要になってくると思います。

また急性期病院以外でも、地域包括ケア病床や、介護医療院など、病床改編は活発に起きていますので、今後の医事課職員が身に着けるべきスキルの一つであることは間違いないはずです。

以上、医事課管理職で求められるスキルや経験をまとめてみました。医事課は病院の収入を担う部署で、抱えている人員数も多いので、スペシャリストとゼネラリストの両方の観点が満遍なく求められるのだと実感しています。

ここに書いた全ての知識と経験を兼ね備えた医事課長は日本全国を探してもなかなか見当たらないかもしれませんが、それだけ「デキる医事課長」へのニーズは非常に高いものがあると感じました。

(※本記事は、「病院で働く事務職のブログ」2019年2月23日掲載の記事を一部編集の上、転載したものです)

【プロフィール】
病院事務職歴7年。新卒で500床規模の急性期病院の事務職員として入職後、医事課入院部門、経営企画部門、医療の品質改善部門に所属。診療報酬請求や各種窓口対応などの医事業務から、看護業務改善や病院の機能評価受審の事務局担当といった院内プロジェクトまで様々な業務に従事。現在は再び医事課入院部門に所属し、医事業務全般に加え、医事課スタッフの採用・教育、監査対応や委員会の事務局業務にも携わっている。

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【シリーズ一覧】
(1)転職活動を始めたきっかけ
(2)転職コンサルタントとの面談
(3)「デキる」医事課職員へのニーズの高さ(スタッフ編)

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