人気講演「病院広報ショーケース」での全国の医療機関の事例を公開します!―病院マーケティング新時代(46)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材・報告します。

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director

小倉記念病院 医療連携課

目次

今回は2022年11月30日から4日間にわたって開催された「病院マーケティングサミットJAPAN2023」から、毎年恒例の人気講演・セッション「病院広報ショーケース」の内容をご紹介します。
病院マーケティングに長く携わるほど、「なるほどねぇ」と感心してしまうような取り組みは年々減っていくんですが、この講演は大変参考になりました。

「病院広報ショーケース」の概要

【演者】

  • 「地域に寄り添う病院広報」
    松岡志穂さん(社会福祉法人恩賜財団京都済生会病院 経営企画課 企画広報室長)
  • 「DXを駆使した新たなマーケティング」
    望月良祐さん(西北クリニック 理事 / 株式会社UZALINX 代表取締役)
  • 「医学部・大学病院のコミュニケーション戦略」
    南川 玲さん(近畿大学医学部・病院運営本部 総務グループ 総務広報課 主任)

【パネリスト】
北岡 美穂(聖隷浜松病院 医療情報センター 学術広報室)
河村 伸哉(株式会社日本経営 メディキャスト事業部 部長)

【ファシリテーター】
松本卓(病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director/小倉記念病院 医療連携課)

京都済生会病院「地域に寄り添う病院広報」

講演されたのは、企画広報室長の松岡志穂さん。
京都済生会病院での勤務は、慢性的な赤字体質だった同院に他の済生会病院から転勤するという“マイナス状態”からのスタートだったそうです。

私がこの仕事を始めたのも、現在勤務する小倉記念病院のお家騒動で医師数・収入が落ち込んだタイミング。とても境遇が似ていると感じました。

実は私は日頃から「院内広報はする必要がない。それよりも集患に繋がることにリソースをかけるべきだ」と主張しているのですが、松岡さんは「第一優先のターゲットは職員」として取り組んでいます。

その理由は、職員のモチベーションアップ。
慢性的な赤字体質の病院であることが影響してか、職員のモチベーションが低いことが課題でした。そのため、まずは職員に寄り添い、職員が喜ぶPR活動に取り組んできました。

具体的には、院内広報誌の発行頻度を年4回から12回に増加し、デザイン・内容もリニューアル。「知りたい、知ってもらいたい、知っておくべき旬な情報」を職員と共有したそうです。

また済生会の季刊誌「済生」にも多くの投稿をしたり、「コロナに負けないように」と京都済生会病院から全国の済生会の仲間たちへエールを送るなどの施策をしたりしたことが、存在感の向上やよい評判づくりにつながったといいます。

活動が実を結び、職員の働く意欲が高まったのか、院外からの「済生会グループの中でも京都済生会病院の職員は、明るく元気で一体感がありますね」という評判が職員の耳に続々と届くように。その影響で職員たちが広報活動へ理解を示し、協力的になってきたとのことです。

職員一丸となって、情報発信していくようになり、

  • 新病院に就労支援カフェを開設
  • 嵯峨美術大学との産学連携で、小児病棟にホスピタルアートを制作
  • 長岡京市とコラボしたプチミュージアムの院内設置

など、社会とのコミュニケーションを加速させていきました。

病院広報において、職員の協力は必須です。
なぜなら職員が提供する医療こそが、病院の本質的サービス。私たち広報担当者は医療従事者と社会をつなげる橋渡し役に過ぎません。橋だけ作っても、その橋を渡ってくれる医療従事者がいなければ無意味です。

私の小倉記念病院入職時を振り返ると、それまで黒字経営だった病院がお家騒動により売り上げが大幅に減少。職員全員が危機感を持ったタイミングだったと思います。だから私が入職したとき、職員は「なんでも協力するからなんとかしてくれ」という状況でした。

しかし、松岡さんの事例のように広報活動に協力する土壌がない病院が、社会とコミュニケーションを取っていこうとするのであれば、まずは職員を巻き込むことが大事かもしれません。
院内外のどちらを優先するかが重要なのではなく、自院の現状から目指すべきゴールを描くことで、取るべき戦略は決まってくるのでしょう。

ちなみに、松岡さんは明るく元気な方で、私とキャラクターも似ているんです(笑)。やはり広報担当者のキャラクターは重要だなと思いました。
院長が広報活動に積極的であるのも、当院と共通しています。

西北クリニック「DXを駆使した新たなマーケティング」

次の発表は、望月良祐さん。LINEの運用についてお話いただきました。

当院のSNS事情を先にお伝えすると、FacebookやInstagram、YouTubeもやっていますが、フォロワーを増やすための努力はLINEのみです。LINEフォロワーのほとんどが地元の高齢者層で、病院のターゲット層とマッチしているからです。

望月さんが理事を務める西北クリニックのLINEフォロワーは、開設からたった2年程度で4,200名以上に!!しかも、「周りは田んぼに囲まれた田舎のクリニック」。そんなクリニックが、フォロワー4,200名もいるなんて信じられません。

私はこれまで「いま以上にフォロワーを増やすためには医事課の新患窓口で説明してもらうほかない。でも医事課は嫌がるだろうから無理だな」と思っていたんですが、西北クリニックは、地域の方が自然とフォローしてしまう仕組みをとっていて感服しました。

望月さんが取った戦略は2つです。

1つ目は、自院でコロナワクチン接種をした地域住民の方々に「接種後に体調が悪くなった場合はLINEでご連絡ください」というフローを作ったこと。
これは上手ですね。コロナワクチンの副反応に敏感な方は多いと思うので、病院と連絡が取れるツールとしてLINEをフォローするハードルが低かったんでしょう。
この施策で、一気に2,000オーバーのフォロワーを獲得しています。

2つ目は診察券を廃止し、LINEのメニュー内に患者番号の情報がQRコードで表示される仕組みを作ったこと。

患者さんが来院されるとQRコードを機械にかざして受付終了となるようです。これは最強ですね。「SDGsの観点から、LINE利用者の患者さんには紙ではなくLINEを診察券の代わりとしていただきます」と説明されると、断る人は少ないでしょう。

診察券を読み取って検査をするような大病院よりも、中小病院やクリニックの方が向いている施策です。スマホに患者番号が表示されるようですので、例えQRコードを読み取る機械を設置しなくても、受付で患者番号を確認すれば済むような運用をすれば問題なく導入できるでしょう。みなさん、ぜひご検討ください。

近畿大学医学部・病院運営本部「医学部・大学病院のコミュニケーション戦略」

最後に近畿大学病院の南川 玲さん。

大学病院は診療科ごとの縦割り意識が強そうですし、臨床だけではなく研究・教育という側面もある。民間病院の広報とは求められるものが違うんだろうなとは思っていましたが、広報の守備範囲が広すぎて驚きました(笑)。

広報のKPIが「受験者数・入学者数・患者数」ですよ。しかも病床数929床の巨大な組織で。

業務は、広報委員会の運営、パブリシティ向けのメディアリレーション、公開講座運営、国際化推進、産学連携、Slackの整備や卒業生向けのネットワーク構築、オウンドメディアの運営、そしてクライシス広報の対応――、と多岐に渡っていました。

特にプレスリリースには力を入れていて、この2年間で64件のリリースを配信したそうです。それだけの本数を配信をするには、情報が集まる仕組みを作らないといけません。

特に医師の協力を仰ぐには、リリースへのメリットを感じてもらう必要があります。そのために、南川さんがどうしたか。とにかく成功事例を作って、それを広めて他診療科の医師に「うちもやってよ」と言わせること。その繰り返しで協力者を増やしていったそうです。

しかも、リリース配信回数の何倍ものメディア露出に成功しています。メディアに「近畿大学はいつも新しいことしているし、取材ウェルカムの病院だ」と印象付けることも狙いのようです。私も全く同意見ですね。

またリリースだけではなく「Kindai Picks」というオウンドメディアも運営しています。
例えば、著名人の方がある病気で亡くなったとしたら、翌日にはその病気に関する情報を掲載するなどスピード感を持って運営しているそうです。

「病院マーケティングサミットJAPAN2023」は、YouTubeでもアーカイブ視聴できます。ご興味のあるセッションがありましたらぜひご視聴ください。

また、「当院の取り組みも知ってほしい」という方は、いつでも病院マーケティングサミットJAPANまでご連絡ください。
みなさんの経験を共有しながら、病院マーケティング業界を盛り上げていきたいと思っています。

>>大学院で学んだ理論は、病院事務職の実務に生きるのか? 済生会熊本病院―病院マーケティング新時代(45)

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