紹介患者をどのように確保するか?―ちば医経塾長・井上貴裕が指南する「病院長の心得」(18)

病院経営のスペシャリストを養成する「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム-」塾長である井上貴裕氏が、病院経営者の心得を指南します。

著者:井上貴裕 千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授・ちば医経塾塾長

目次

コロナ流行から3年…未だ回復しない患者数

新型コロナウイルス感染症流行からもう3年が経とうとしていますが、患者数は未だ流行前の水準に戻っていません。医療機関が診療を制限していることに加え、患者側も受診抑制をしているためでしょう。

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図表1

また、平均在院日数は一貫して短縮傾向ですが、令和2年度はコロナ禍で長くなっています。
これは、全国の病院で不急の入院が制限された結果、眼科や耳鼻科などの短期症例が少なくなったこと、そして何より新入院患者数の減少が影響しています。

入院患者数について都道府県別に見たものが図表2です。
どの地域でも入院患者数は減少しており、令和3年度は若干回復したものの以前の水準には至っていません。

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図表2

外来患者も同様で、今後もこの傾向が続くのかもしれません(図表3)。

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図表3

このような状況が続くと、病床利用率を維持・向上させるために治療終了後の患者について意図的に在院日数を延ばすような病院が出てくるかもしれませんが、連載第16回で示したように、抜本的な対策にはなりません。

また、外来患者についても再診患者の逆紹介をせずに抱え込めば、患者数は増加しますが、低単価の患者が多くを占めることになります。一生懸命に働いた割には収入が伸び悩みますし、新規の入院患者の獲得にもつながらないでしょう。
さらに、医師にとって外来は当直の次に負担が重い仕事と言われていますから、働き方改革にも反することになります。

何よりも逆紹介をしなければ、次の紹介患者が来なくなり、病院はジリ貧になっていく危険性すらあるのです。

患者数を中長期に増加させる鍵は「逆紹介の推進」

では、この難局をどう乗り越えたらよいのでしょうか?
コロナ禍だからといって病院経営の本質は何ら変わりなく、あるべき姿の追求が求められていると私は考えています。いや、コロナ禍だからこそ、襟を正して、自らの方針を貫くべきでしょう。
コロナ医療と通常診療の両立は極めて難しいことではありますが、その同時達成のために、自院が診るべき患者に医療資源を集中すべきだと思います。

新入院患者を獲得するためには、救急医療に注力することが重要であり、短期的にも成果がでやすいことを前稿でふれました。救急医療は地域医療を支えるためにも大切であり、誰しもその必要性を感じているでしょう。

ただ、中長期の成長を遂げるためにはさらなる逆紹介を行うことです。

連載第15回で「顔の見える連携」の必要性などについて言及しましたし、その通りだと思うのですが、結局、紹介された患者を元に戻さなければ地域からの信頼は醸成されません。きちんと治療をして、その患者の状態が落ち着いたら、紹介元に戻すことが病院の役割です。

図表4は、全国671の地域医療支援病院のうち(医療施設動態調査 令和4年7月末)、紹介患者数(一般病床100床当たり)がトップ30の病院のデータです。

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図表4

外来についてはクリニックに分離しており、一般外来は他の医療機関に任せているケースもあるかもしれませんが、下位30病院(図表5)と比べると患者数に相当の違いがあることがわかります。

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図表5

図表6は、一般病床100床当たりの逆紹介患者数です。紹介が多い病院は逆紹介も積極的に行う傾向があるようです。

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図表6

同様に、紹介が少ない病院は逆紹介も少なくなります(図表7)。

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図表7

逆紹介推進がうまくいかない3つの理由

ただ、積極的に逆紹介を推進しようとしても、いくつもの障害があり、簡単にことが運ぶわけではありません。言葉でいうほど、逆紹介は簡単ではないことを私は痛感してきました。

その主な理由として以下の3つが挙げられます。

まず1つ目は、患者さんの説得が難しいことです。
初診患者は紹介元に戻せば事足りますが、自院をずっと受診している「私はかかりつけ患者だ」と思っている患者は、複数の診療科のラインナップを揃える病院から離れたがりません。

総合病院の方が何かあったときに便利ですし、経済的な負担も少ない。そして何よりも救急の際に、「その病院の診察券を持っていないと診てもらえない」と信じている患者さんは多いものです。
これは病院側の責任でもあります。救急患者からの問い合わせがあった際に、「あなたはかかりつけですか?」と電話口で聞くケースも少なくないからです。

患者さんを他院に紹介する際は、病院として「決して当院から切り離したり、見捨てたりするわけではない。万が一の時には必ず全身全霊で対応する」と表明しないといけません。

2つ目は、逆紹介の際に、診療情報提供書作成の手間がかかることです。
医師は患者を説得しなければならない上に、書類作成まで必要となると、「とりあえず診ておこうか」という気持ちになり、逆紹介をためらってしまいます。

対策として、事務部門から逆紹介すべき患者にフラグを立てるような仕組みが必要です。また、医師事務作業補助者等を活用した書類の下書きなども功を奏すことでしょう。

3つ目は、特定機能病院及び200床以上の地域医療支援病院に義務化されている再診時の選定療養費の徴収が容易ではないことです。

初診患者に「紹介状を有していなければ、一定額がかかります」と説明するのは容易ですが、初診の10倍以上いる再診患者から選定療養費を徴収することは極めて難しいです。
納得していない患者から無理に徴収しようとすれば、トラブルの温床となり、外来の混雑がより深刻化してしまいます。国の制度として、再診時の選定療養費徴収が世間の常識になればよいのですが、現段階ではそれを前提とした運用は難しいでしょう。

ただ、令和4年度診療報酬改定で、医療資源を重点的に活用する外来として紹介受診重点医療機関が創設されました。これを契機に、かかりつけ医との役割分担がさらに促進されることを期待したいと思います。

大切なのは「再診患者の逆紹介」を推進すること

以前もお伝えしましたが、逆紹介率の分母は初診患者ですから、初診患者が100人来たら、地域に100人帰すのは常識です。大切なのは、再診患者の逆紹介を推進することです。

しかし残念なことに、特定機能病院の逆紹介率をみると100%を超える病院は決して多くないという現状があります(図表8)。

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図表8

これらの病院では外来診療単価は2万円以上あるのでしょうから、外来で稼ぎたいという経営者もいるのかもしれません。しかし、その半分以上は医薬品費であり、決して収益性が高いわけではありません。

そして何よりも、専門医が多くを占めるこのような病院の外来で、ずっとフォローアップを行えば、専門以外の合併症が併発するかもしれません。その際に対応が疎かになることが多く、「お医者さんにかかっているから安心」という患者さんの期待とのギャップが生じます。それは、病院・患者のお互いにとって不幸なことだと思います。

日常診療は地域のクリニックなどのかかりつけ医にお願いし、何かあった時に病院で精査する。これを実現するためには、トップダウンの明確な方針が不可欠です。

コロナ禍で患者数が減少し、経営が苦しいのはどの病院も一緒です。だからこそ、あるべき医療を追求しなければ、次の道は切り拓けないと考えています。

【筆者プロフィール】

井上貴裕(いのうえ・たかひろ)
千葉大学医学部附属病院 副病院長・病院経営管理学研究センター長・特任教授。病院経営の司令塔を育てることを目指して千葉大学医学部附属病院が開講した「ちば医経塾-病院経営スペシャリスト養成プログラム- 」の塾長を務める。
東京医科歯科大学大学院にて医学博士及び医療政策学修士、上智大学大学院経済学研究科及び明治大学大学院経営学研究科にて経営学修士を修得。
岡山大学病院 病院長補佐・東邦大学医学部医学科 客員教授、日本大学医学部社会医学系医療管理学分野 客員教授・自治医科大学 客員教授。

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