24時間体制の救急を無理なく回す倉敷中央病院の働き方改革

医師の働き方改革 倉敷中央病院

2024年4月から始まる医師の働き方改革。すべての医療機関の中でも24時間365日体制を維持しなければならない急性期病院は、医師の時間外労働が上限を超えないよう、いかに勤務体系を整えるかに頭を悩ませていることと思います。本記事では、救急医療における研修医のシフト制・医師の3交代制、そして医療情報のDX化に先んじて取り組み、一定の手応えを感じている倉敷中央病院(岡山県倉敷市)の事例をご紹介します。(インタビュー実施:2022年6月)

目次

病院概要

公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院(岡山県倉敷市)

2023年に創立100周年を迎えた民間総合病院。臨床は常に世界水準を目標として、
地域の急性基幹病院としての役割を率先しています。

病床数:1,172床(一般1,157床、精神病床5床、第2種感染症10床)
職員数:3,802人(うち医師は562人、ジュニアレジデント64人)※2023年4月1日現在
平均在院日数:11.5日
新入院患者数/年:27,889人
入院1日平均患者数:954人(退院患者数を含む)
外来1日平均患者数:2,502人
救急患者数/年:45,321人(救急車受入数10,036件)
手術件数/年:11,298件

24時間365日体制の急性期病院に突きつけられる働き方改革

急性期病院は24時間365日体制で、多くの診療科、職種、部門がいざという時に動ける仕組みが必要なため、医師の働き方改革においては、あらかじめ計画を立ててマネジメントする考えが重要です。

倉敷中央病院の副院長兼救命救急センター長の福岡敏雄先生は次のように話します。

「医師の働き方改革で目指すべき姿を一言で言うなら『チーム医療』。入院直後、すべての患者さんに100点満点の医療が提供できればベストだが、現実問題としてそれは難しい。これからは受け入れ時に100点中60点くらいのことをして、翌日に100点に近づける医療を提供したい。
1人の医師が1人の患者を診る主治医制の考えから脱却し、チームで診たほうが医療は標準化され、安全になりますし、質も上がると思っています」

また福岡先生は、中堅以上の医師には、自身の仕事を若手医師に伝えるように依頼しています。たとえば、今、外来を担当している医師には「10年後、同じ外来をできる医師を3人育ててほしい」と伝えているそうです。

若手医師と中堅医師がタッグを組むことにも積極的です。
若手医師の“アップデートされた最新知識”と、中堅医師の“抽象的な患者の意思・背景を汲み取るスキル”を組み合わせれば、よりレベルの高い医療が提供できる可能性があるからです。
これにより、若手医師への教育と、中堅医師の負担軽減が同時に進み始めています。

救命救急センターを無理なく回す秘訣はシフト制と3交代制

倉敷中央病院の救命救急センターでは3年前から、研修医の当直をなくしてシフト制を導入しています。具体的には次のような体制です 。

通常勤務:8時45分~17時30分
準夜:8時45分~22時。17時30分~22時の勤務は「時間外勤務」
22時になったら患者を申し送り、22時30分までに必ず退勤
深夜:12時45分に退勤。勤務間インターバルを経て、当日22時から翌日の昼まで勤務

・休日前日/休日は、日直+準夜+深夜の3交代とする
・休日勤務に伴う代休はあらかじめ指定しておく

研修医からの評判は良いようです。
まず当直に比べて、疲れにくい。そして、休みを取りつつも患者の経過が見られるため「休んでいる間に何があったかわからなくなった」というケースが減り、研修の質も高まっているとのこと。

あらかじめシフトを綿密に組んでおけば、24時間体制を維持しつつ、医師の勤務間インターバルも確保できます。休日はしっかり休めるため、ワークライフバランスは保ちやすくなり、女性医師の比率も上がりました。

研修医以外の医師も、救命救急センターでは3交代制を取り入れています。
専門外でもファーストタッチをした後、専門医と連携するコミュニケーション体制ができているので、医師同士で「任せる」「任せられる」という意識が醸成されているようです。

また、福岡先生は意欲的な若手医師のマインドを尊重し、成長を促したいとも言います。

「中堅以上の先生は、救急が来ると『自分の専門外だったらどうしよう』と少し緊張しますが、若手の先生は逆に『任せてもらえる』と、喜んで対応します。このようなマインドは当院にはもちろん、日本の医療において“宝”です。医師の働き方改革で自己研鑽の時間が減ることを危惧する声もありますが、彼らの成長を支援する仕組みを作り続けたいと思います」

チーム医療実現のために、情報の共有、地域連携にも新しい視点を

倉敷中央病院では業務効率化のため、約5年前から「Dr2GO」プロジェクトと称して、民間企業と協業しながら、医師同士の情報(カルテ情報や検査データ、画像等)共有ツールの開発に取り組んでいます。

デジタルツールの導入から定着までは「無理をせず、とにかくやってみる」スタンスが重要で、情報の一元化・可視化・共有化を通して、冒頭に掲げた「チーム医療」を実現しようとしています。

YouTube player
動画提供:医療従事者のための働き方改革TV

医師の働き方改革が進めば、医師数の少ない中小病院では、救急・当直・手術などの体制が維持できなくなる可能性があります。

地域の高度急性期を担う倉敷中央病院は、これまで以上に重症患者が夜間・休日に集中することを覚悟していますが、「すべてを受け入れることは難しいので、地域にある医療機関と最適解を見つけていきたい」と言います。

「医師個人も病院も、自分ができるのはここまでと区切りを設けていると思いますが、今後はその範囲を少しずつ広げていくことで、それぞれの価値が高まると思います。他の業界はすでに働き方改革を済ませているので、医療業界もなんとか乗り越えていきたいですね」

本事例を動画でご覧になりたい方はこちらへ
医療従事者のための働き方改革TV 倉敷中央病院の働き方改革(全4話)

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