タスクを分け合い高パフォーマンスを維持する高槻病院の働き方改革

医師の働き方改革 高槻病院

2024年4月から始まる医師の働き方改革。今まで以上に「チーム医療」の実践が推奨される中、仕組みづくりに試行錯誤を続けている医療機関も多いのではないでしょうか。本記事では「産婦人科でのチーム制」「総合内科の立ち上げと診療看護師の導入」といった取り組みで、タスク・シフト/タスクシェアの好事例を生んだ高槻病院(大阪府高槻市)の事例をご紹介します。(インタビュー実施:2022年6月)

目次

病院概要

社会医療法人愛仁会 高槻病院(大阪府高槻市)

“生まれる前から終末期医療まで”。得意の小児周産期医療のみならず、循環器系・脳神
経系の治療・がん診療・救急医療でも高い診療レベルで地域医療に貢献しています。

病床数:477床(一般477床)
職員数:1,336人(うち医師は211人 )※2023年3月1日現在
平均在院日数:9.3日
救急患者数/年:18,467件(救急車受入数9,723件)
入院1日平均患者数:421人
外来1日平均患者数:1,143人

医師の働き方改革の肝は、高いパフォーマンスを維持する仕組みづくり

24時間365日体制で地域医療を守る急性期病院。多くの医師、経営者が「急性期を担いたい」という理念を持っているため、機能分化・連携はもちろん、医師個人の働き方改革も進みづらくなっています。

大阪府高槻市にある高槻病院・院長の高岡秀幸先生は次のように話します。

「医療の仕事は、他人の人生を良い方向に持っていくことです。患者さんを良くするには、職員が充実した気持ちと体力のもとで働くことが大切だと思います。
昭和の頃は、私も丸2日間、家に帰れないまま救急対応や心臓カテーテル治療、当直などをした経験がありますが、これでは安全な医療が提供できないと思っていました。
とはいえ、医師は自分のやり方を大事にする方が多いです。私もそれは尊重しますが、それが原因で同僚とコラボできなかったり、一人で抱え込んでしまったりしては良くない。『頑張ろうね』という意気込みだけではうまくいかないので、仕組みをつくる必要があります」

高岡先生の課題意識と時代の要請もあり、最初に取り組んだのが、週末は絶対に呼び出しされない「オフコール」制度でした。オンコール・オフコールをしっかり役割分担をすることで、お互いさまの仕組みをつくったのです。
この仕組みが好評で若手研修医の志望者も増え、結果的に多くの患者さんを治療できるようになってきたと言います。

「スポーツに例えるとサッカーの交代です。足がつった時にすぐに交代できる人がいれば、常に高いパフォーマンスが維持できます。ただ、このようにどんどん交代していく仕組みは、いつ・誰を交代させるかという監督がとても重要です。当院では各診療科の部長にその役割を自覚してもらい、マネジメントをしてもらっています。
これにより、病院全体のパフォーマンスが上がりました。医療が安全になることはもちろん、新しい価値を創造するきっかけになっていると思います」

なお、高槻病院はトップダウン方式でこのような意思決定を行ったわけではありません。3年ごとの中期事業計画に基づいて、他職種が話し合い、それぞれのワーキンググループを作って決めているそうです。

患者の状態に合わせてタスク・シフト/タスクシェアを実践

「医師の働き方改革」を実現するための「チーム医療」は、高槻病院でも実践されています。

まず「産婦人科のチーム制」を進めたのは、同院が産婦人科の救急搬送を、大阪府内トップクラスで受け入れていたからです。

医師9名・研修医3名をAとBのチームに分け、朝夕に行われるカンファレンスでの申し送りを徹底し、交代でしっかり休める体制をつくりました。画期的だったのは、これまで医師と曜日が固定されていた外来も、チームで分担するようにしたことです。産婦人科はお産に関係する受診も多いので、経過が順調なら患者さんに不都合が生じることはありません。

医師が複数名いる他の診療科も、会議や部長同士の話、研修医のローテーションなどで情報を聞きつけ、チーム制の導入を検討し始めているようです。

また「総合内科の立ち上げと診療看護師(NP)の導入」は2017年から始まった、高槻病院のタスク・シフト/タスクシェアの代表的な取り組みです。背景には、高齢の患者が複数の疾患・問題を抱えていることがありました。高岡先生は次のように話します。

「高齢になると誤嚥性肺炎が増えますが、これは加齢に伴う『フレイル』が引き起こしています。フレイルになると病気はもちろん、生活でもさまざまな問題を抱えていることが多く、呼吸器内科が診れば済む話ではないのです。これからますます高齢化が進む中、同様の患者が増えていくと予想し、総合内科を立ち上げ、診療看護師も導入しました。

『フレイル』と聞くと入院が長期化するイメージがあるかもしれませんが、診療看護師は退院調整を見据えたケアができるので、当院の総合内科の平均在院日数は13日です。今は診療看護師が1日平均60名の患者さんを担当してくれるので、とても助かっています。

担当する患者さんは誤嚥性肺炎だけではありません。人工呼吸器患者、透析患者、骨折で自宅での生活が難しい方など、急性期を脱して容体が安定している方をおまかせしています」

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提供:医療従事者のための働き方改革TV

職員連携のポイントは自分の仕事をタコツボ化しないこと

「総合内科の立ち上げと診療看護師(NP)の導入」以降、他科にも良い影響が出始めていると言います。

例えば、高齢者が骨折で入院する場合、全身管理は総合内科、手術は整形外科と、役割を分担しました。その結果、整形外科全体の平均在院日数は短縮。空いた時間で手術ができるようになったため、年間手術件数が増える好循環が生まれているようです。売上では、入院は総合内科、手術は整形外科と決め、「仕事を取られた」「仕事を押し付けられた」という関係にならないようにしました。

これまで述べてきたように、高槻病院は職員同士のタスク・シフト/タスクシェアが、働き方改革に大きく寄与しています。そのポイントを、高岡先生は次のように話します。

「病院で働く職員は、事務も含めて全員が専門職。複雑極まりない医療保険制度の中で、よくやっていると思います。その中で、自分の仕事をタコツボ化しないようにだけお願いしたいです。
『自分の仕事はここまで』と区切ると、患者さんが職種の隙間に落ち込んで置き去りになってしまう可能性があるからです。それを防ぐためにも、まずはお互いの仕事を知ってほしいというのが私の願いです」

本事例を動画でご覧になりたい方はこちらへ
医療従事者のための働き方改革TV 高槻病院の働き方改革(全5話)

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