2024年4月から始まる医師の働き方改革。施行まで約半年に迫る中、医療機関の対策はどのくらい進捗しているのでしょうか。今回は医療機関で働き方改革をご担当されている110名から回答を得たアンケート (※)を基に、2023年9月時点の進捗状況をお伝えします。
(※)2023年8月22日~2023年9月8日にかけて、エムスリーキャリアと取引のある医療機関を対象にエムスリーキャリアが実施
※本記事での分析内容は本アンケートにご回答いただいた医療機関のみの傾向となりますことを、あらかじめご了承いただけますと幸いです。
目次
- A水準の医療機関が9割を占め、宿日直許可取得済みは7割
- 労働時間管理では自己研鑽のルール整備に遅れ
- 雇用契約や就業規則、医師の採用は「対応中」で道半ば
- 月100時間以上働く医師への「面接指導」にも備えが必要
- 2024年4月には「まったく対応していない」が0になることが理想
A水準の医療機関が9割を占め、宿日直許可取得済みは7割
本アンケートの回答医療機関を病床数別にみると、200床未満の中小病院が75.5%です。当てはまる水準としてはA水準が94.5%を占めました。
また宿日直許可の取得状況は「取得済み」か「対応完了見込み」と回答したのが76.4%。フリーコメントでも「宿日直の認可が取れたので安心しています(99床未満/A水準)」という声があり、ひとつの注力ポイントと言えそうです。
2023年5月に実施したアンケートでも65.6%の医療機関が、宿日直許可を申請済みでした。申請・取得が完了している医療機関は着実に増えていることがうかがえます。
一方で、「対応中」や「方針未定」、「未着手」は合計22.7%です。
宿日直許可は随時申請できますが、2024年4月以降は医師の労働時間を適正に管理した上で、煩雑な申請作業を進めなければなりません。2024年6月には診療報酬改定も控えています。
申請したほうが医師の労働管理上でメリットがある場合は、医師の働き方改革が本格施行する前に申請を進めておくと良いでしょう。
労働時間管理では自己研鑽のルール整備に遅れ
医師の働き方改革の肝は、医師の労働時間の管理です。時間外労働が各水準に定められた上限に達しないよう、常勤先はもちろん、アルバイトや自己研鑽の実態も把握しなければなりません。
まずは医師の働き方改革の基本となる、常勤医師の勤務時間の把握状況を見てみましょう。
常勤医師の勤務時間について、実態時間(日勤、日直、宿直)を把握し、時間外労働も医師別に把握している
「すべて完了している」と回答した医療機関は65.5%で、「対応中」の20.9%を合わせると86.4%になります。医師の働き方改革では、真っ先に取り組むべき対策のため、順調に進んでいる医療機関が多いようです。
一方、非常勤医師の把握状況はどうでしょうか。
非常勤医師の勤務時間について、実態時間(日勤、日直、宿直)を把握し、2024年4月以降の自院での労働継続可否を把握している
「すべて完了している」が最多だった常勤医師とは異なり、「対応中」の割合が41.8%と最も高くなっています。「まったく対応していない」割合は13.6%で、非常勤医師まで手が回っていない医療機関が一定数あると見受けられます。
なお、常勤・非常勤医師の労働時間の管理には、客観的な手法による記録が義務付けられます。たとえば、タイムカードやICカードによる記録、PC等の使用時間の記録などです。こちらの整備状況を見てみましょう。
労働時間把握の体制構築について、勤怠管理ツールの導入や医師が労働時間を報告する体制をつくっている
「すべて完了している」が44.5%、「対応中」が38.2%で、82.7%の医療機関で順調に進んでいます。
ただし、医師の働き方改革は単に時間数だけを管理するものではありません。特に労働時間と自己研鑽を区別するルールづくりが重要です。こちらの進捗は次の通りです。
労働時間把握の体制構築について、自己研鑽と労働時間を区別するための院内ルールを整備している
「すべて完了している」が25.5%で、「まったく対応していない」が20.0%。先述してきた対策の結果と比べると、やや遅れている様子がみられます。
これまでご紹介してきたそれぞれの対策について、念入りに準備をしていても、緊急対応が続いたり、医師が労働時間の自己申告漏れを起こしていたりすると、労働時間が上限に達してしまう可能性はゼロではありません。
そのため、リスクマネジメントの観点では、いざという時の対応にも備えておけると安心です。進捗は次のような結果でした。
医師の勤務時間が月あたり100時間、A水準の場合は年960時間(B、C水準の場合1860時間)を超過した時のアラートの体制や、超過した際に行うべき対策を整理している
「すべて完了している」が30.9%、「対応中」が38.2%と、7割の医療機関が順調でした。
ちなみに、時間外労働の上限を超えると労働基準監督署による是正勧告・改善指導の対象になり、改善が見られない場合は罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられます。医療機関の信用を守るためにも、確実に取り組んでおきましょう。
雇用契約や就業規則、医師の採用は「対応中」で道半ば
医師の働き方改革では、医師の雇用契約や就業規則を改めて見直し、働き方改革に対応した内容になっているかを確認する必要があります。これらの進捗はどうでしょうか。
医師の雇用契約書が働き方改革に対応しているかを確認している
(確認事項の例:年俸が基本給と固定残業代が分かれて記載されているかを確認する)
医師の雇用契約書の確認は「すべて完了している」が40.9%、「対応中」が36.4%で、77.3%の医療機関で順調に進んでいます。
なお、年俸を基本給と固定残業代に分けて記載していない場合、未払い残業代を請求される可能性があるため、この機会に改めて見直しておけると良いでしょう。
続いて、医師の雇用契約書の確認後、変更が必要だった場合の対応状況についてです。
働き方改革に伴い、医師の雇用契約書の内容を変えることについて説明・同意を進め、必要に応じて契約をまき直している
こちらは「すべて完了している」が24.5%、「対応中」が39.1%です。確認の結果、「対応不要」と判断しているのは12.7%。蓋を開けてみたら対応が必要だったという医療機関は少なくないようです。
雇用契約書を見直した後は、就業規則とも矛盾がないように確認しておきましょう。
就業規則が働き方改革に対応しているかを確認し、必要に応じて修正をしている
(確認事項の例:医師の雇用契約書に記載されている内容と矛盾していないかを確認する)
就業規則は「対応中」が43.6%、「手をつけ始めたところ」が16.4%と、約6割の医療機関が整備途中でした。
最後に、医師の採用活動についても見てみましょう。医師の働き方改革では、1人あたりの労働時間を短縮するために、複数の医師で業務を分担したいとお考えの医療機関は多いのではないでしょうか。
採用活動の実施判断をし、採用計画・方針の決定、方針に基づく適切な採用活動を行っている
「すべて完了している」が30.0%、「対応中」が61.8%と、9割の医療機関が医師採用に課題意識を持って進めていることがわかりました。
月100時間以上働く医師への「面接指導」にも備えが必要
医師の働き方改革施行後は、1ヶ月の時間外労働が100時間以上になる、または、なる見込みの医師には、面接指導実施医師による面接指導を実施しなければなりません。
そもそも面接指導について、医療機関担当者は認識できているでしょうか。
月100時間を超える時間外労働が発生する医師には面接指導を行うことを認識している
意外にも「認識していなかった」と回答した人の割合は12.7%と、10人に1人は知らない可能性があるとわかりました。
続けて、面接指導を行うための体制整備は進んでいるのかを確認しました。
月100時間超の時間外労働を行う医師に、面接指導を行うための体制を整備している
こちらは他の対策状況と比べると「まったく対応していない」が22.7%と、やや高めです。
なお、面接指導を行う面接指導実施医師は、以下2つの要件を満たす必要があります。
・面接指導対象医師が勤務する医療機関の管理者でないこと
・医師の健康管理を行うのに必要な知識を修得させるための講義・面接指導実施医師養成講習会(オンライン)を修了していること
ちなみに、産業医資格の有無は問われません。たとえ産業医であっても、上記2つを満たさなければ面接指導実施医師として面接指導を実施することはできません。
面接指導実施医師の確保方法については、次のような進捗でした。
面接指導実施医師の確保方法を決めている
「すべて院内の医師で対応予定」が43.6%だった一方、「対応方針未定」も22.7%で、方針が定まっていない医療機関が複数あるようです。
先述の通り、面接指導を実施できる医師には要件が定められているため、適任の医師を見つける方法は事前に決めておけると安心です。
2024年4月には「まったく対応していない」が0になることが理想
これまでご紹介してきた12の対策について、順調に進んでいる医療機関がある一方で、いずれの対策でも「まったく対応していない」と回答した医療機関が一定数ありました。
今回ご紹介した内容はすべての医療機関で、2024年4月までに「対応が完了している」ことが理想です。対策について迷いなどがあれば、まずは各都道府県に設置されている医療勤務環境改善支援センターなどにご相談いただくことをおすすめしています。
万全な状態で2024年4月を迎えられるよう、引き続き準備を進めていきましょう。
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