医師の働き方改革で関心が高まる「宿日直許可」とは?

医師の働き方改革

医師の健康確保と労働時間短縮を目的に、2024年4月から「医師の働き方改革」が始まります。大きな変化のひとつは、医師の時間外労働に上限が定められ、その上限が守られない場合には罰則が課されること。そのため、医療機関は医師の労働時間を適正に管理することが求められます。とはいえ、現在医師が不足していたり、なんとか医師を確保していたりする医療機関は、労働時間が制限されると、医師のシフトに穴が空いてしまうこともあるでしょう。その場合は、医師の業務内容や勤務体制の見直し、あるいは新たに医師を採用するといった対策をしなければなりません。

このような状況下で、「医師の労働時間の管理上、メリットが大きい」と関心が高まっているのが「宿日直許可」です。本記事では「宿日直許可」の概要と、その申請方法について解説します。

目次

「宿日直許可」とは?

医師の働き方改革では医療機関を「A・B・C水準」にわけ、それぞれ労働時間の上限を定めています。また、B・C水準の医療機関では、連続勤務時間を28時間に制限すること、勤務と勤務の間には勤務間インターバルを9時間設けることも求められます。

各水準の対象・法施行までのtodo
参考:医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめ

これまで医療機関によっては、医師不足等の理由から、医師が休みなく働いたり、日勤~当直~日勤という勤務をしたりすることで、診療を成り立たせていました。

このような医療機関で医師の労働時間の上限超えを防ぐには、職員同士でタスクシフト/シェアをする、勤務体制やシフトを見直すなどの対策のほか、新しく医師を採用することが必要になります。

ただ、それらは一朝一夕にはいきません。そのような状況下で、注目されているのが「宿日直許可」です。

そもそも病院や有床診療所では、医師を宿直させることが医療法で義務づけられています(医療法16条)。この法律に基づき医師に宿直を行わせること自体に、労働基準監督署長による「宿日直許可」は必要ありません。

ではなぜ「宿日直許可」を取得、あるいは取得を検討する医療機関が増えているのでしょうか。それは、「医師の時間外労働の罰則付き上限規制」が関係しています。「宿日直許可」を受けた医療機関は、その許可の範囲で、労働基準法上の労働時間規制から適用除外となるからです。つまり、その医療機関での宿日直は労働時間にはあたらないとみなされることになります。

宿日直を休息時間と扱えるため、医療機関は医師の労働時間の上限超えを防げたり、従来よりも勤務シフトが組みやすくなったりします。また、アルバイトでの労働時間を抑えたい医師たちは、「宿日直許可」を取得した医療機関で働くことを希望する可能性もあります。

総じて「宿日直許可」の承認は、医師の働き方改革を乗り越えるための鍵になると言えます。

「宿日直許可」申請を始める前に確認したいチェックリスト

次に「宿日直許可」を申請・取得するための方法について解説していきます。

「宿日直許可」の具体的な申請手続きについて、厚生労働省は管轄の労働基準監督署に確認しながら進めていくよう案内しています。

都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧

https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/index.html

制度の基本的なことが知りたい、自院だけでは対応が難しく第三者的立場でサポートしてもらいたい場合は、都道府県が設置している医療勤務環境改善支援センター(勤改センター)に相談する方法もあります。

各都道府県の医療勤務環境改善支援センター

https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/outline/work-improvement-support-center

そして、申請前には厚生労働省から出されている申請前のチェックリストを一読しましょう。もし実態と合わない部分があれば、タスクシフト、タスクシェアなどで勤務環境を調整する必要があるからです。

厚生労働省が提示する申請前チェックリスト

  • 申請を考えている宿日直中に従事する業務は、通常業務とは異なる、軽度又は短時間の業務である
  • 申請を考えている宿直業務は、夜間に十分な睡眠がとり得るものである
  • ベッド・寝具など睡眠が可能な設備がある
  • 申請を考えている宿日直業務は、通常業務の延長ではなく、通常の勤務時間の拘束から完全に開放された後のものである
  • 始業・終業時刻に密着して行う短時間の業務態様ではない(4時間未満ではない)
  • 救急患者の診療等通常勤務と同態様の業務が発生することはあっても、稀である
  • 実際の宿日直勤務の状況が上記の通りであると医療機関内で認識が共有され、そのように運用されている(宿日直の従事者の認識も同様である)

出典:厚生労働省 医療機関における宿日直許可 ~申請の前に~

なお、「宿日直許可」は一部の診療科や時間帯のみの許可申請も可能となっています。

「宿日直許可」の申請方法は3ステップ

「宿日直許可」申請の大枠の流れは次の通りです。

  1. 管轄の労働基準監督署に申請書・添付資料を提出
  2. 労働基準監督署による実地調査
  3. 許可相当と認められた場合に宿日直許可がなされ許可書が交付

申請から許可(不許可)までの期間は、個別の状況によって異なります。そのため、時間的余裕を持った相談・申請を心掛けた方が良いでしょう

 1.と2.について、より詳細に見ていきます。

1.管轄の労働基準監督署に申請書・添付資料を提出

申請関連書類は、一度、所轄の労働基準監督署に確認することを推奨されています。厚生労働省が提示する標準的な例では、次のような書類が挙げられます。

  • 宿日直当番表
  • 宿日直日誌や急患日誌等
  • 宿日直中に従事する業務内容、業務内容ごとの対応時間が分かる資料(電子カルテのログや急患日誌等を基に作成)
  • 仮眠室等の待機場所が分かる図面及び写真
  • 宿日直勤務者の賃金一覧表
  • 宿日直手当の算出根拠がわかる就業規則等

出典:厚生労働省 医療機関における宿日直許可 ~申請の前に~

2.労働基準監督署による実地調査

申請書の確認が終わったら、申請書の内容と実態が合っているかを、労働基準監督署の担当者が確認します。原則として実地で、具体的には以下のようなことが行われます。

  • 宿日直業務に従事する医師等へのヒアリング
  • 仮眠スペースの確認
  • 定期巡視(見回り)コースの確認
  • 宿日直の日誌の確認

書面での確認および実地調査の結果、許可相当と認められたら「宿日直許可」がなされ、許可書が交付されます。この「断続的な宿直または日直勤務許可書」には有効期限がありません。ただし申請時から勤務実態に変化があれば再申請を行う必要があります。

「宿日直許可」はほとんどの医療機関が取得できる可能性がある

宿日直許可を得るには、十分な休息が取れること、通常業務とは異なる軽度な業務であることといった内容から、「当院では難しい」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

厚生労働省が発表している「医療機関の宿日直許可申請に関する FAQ」によると、宿日直許可は大学病院やそれに準ずるような医療機関、また診療科の中でも24時間体制が必要な「救急」や「産科」でも承認を得ている事例があるといいます。つまり、ほとんどの医療機関が、工夫次第で宿日直許可が取れる可能性があると示しています。

宿日直許可を得るにはしっかりと事前準備をし、不明な点は所轄の労働基準監督署に相談をしながら手続きを進めていきましょう。

エムスリーキャリアでも「宿日直許可」の申請方法等をはじめ、医師の働き方改革への対応についてご相談を承っております。弊社なら医師の採用支援と合わせてご提案することも可能です。お気軽にご相談いただければ幸いです。

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