「忙しさ」には多くの要因があり、単純な数値として捉えることは簡単ではありません。しかし、シンプルに定義づけることで、働き方改革やスタッフの疲弊による離職防止、増員の検討に活用できる材料になります。今回は”忙しさ指数”の取り組みについて、福岡リハビリテーション病院(福岡県福岡市)でデータ分析室室長を務める光安達仁さんにうかがいました。
ーー忙しさ指数の取り組みを始めようと思った背景を教えてください
もともと理学療法士として同院に勤務しており、2017年頃から独学で統計・プログラミングを学び始めました。ある程度データを扱えるようになったところで、この知識を仕事に生かせないかと思いがふくらんできました。自院の臨床や経営に関するデータ分析をしたところ重宝していただき、2021年からはデータ分析室室長という役職を拝命しました。
その頃は、新型コロナウイルスの感染拡大の真っただ中でした。現場の負担が増すにつれて、看護師の離職者が増えている状態でした。私自身、理学療法士として現場で働いているため、日につれて忙しくなっていく実感はありましたし、忙しさと離職に相関があることは肌で感じていました。
この”忙しさ”を数値化できれば、数字をもとにした働き方改革や増員などの議論ができるのではと思い、取り組みを始めました。
ーー忙しさ指数の取り組みと働き方への活用について詳しく教えてください
本来、”忙しさ”とは患者の疾患や重症度、看護師の配置人数、業務内容の増減など、さまざまな要素が絡み合って複合的に判断されるものです。しかし今回は、”忙しさ”をできるだけ客観的かつシンプルに捉えたいと考えていました。また、病棟ごとに患者像や業務内容が異なるため、病棟間での比較は難しいことにも留意する必要がありました。
そこで病棟ごとに「1日当たりの職種ごとの合計勤務時間 ÷ 1日平均患者数」を指数としました。この数値を過去から毎月計測することで、前月や昨年同月と比べて忙しさがどのように変化したかを見られるようにしたのです。
数字だけでは机上の空論になってしまうので、各病棟にヒアリングを行って、数字と現場の感覚が一致しているかの確認も並行して進めました。その中で、忙しさ指数が変化していないにもかかわらず、「忙しくなった」という報告が増えた時期がありました。詳しく掘り下げたところ、食事介助が増えて摂食嚥下訓練に対応するため看護師の早朝シフトが増加したこと、コロナ禍で患者がホールから部屋での食事に変わり、業務量が増えたことがわかりました。
また、当院では早朝シフトの退勤時間は16時で、夜シフトの出勤時間は17時です。一方、ナースコールや患者家族対応の回数が増える時間帯は16時以降でした。そのため、シフトの境目で最もマンパワーの少ない時間に、特定の業務が集中していることも判明したのです。
このように、忙しさ指数をつくったことで、病棟の忙しさが「採用人数」に由来するのか「業務内容やその濃淡」に由来するのかがより明確になったと思います。
ーー忙しさ指数の成果と今後の働き方への活用を教えてください
現在、忙しさ指数は毎回経営会議の資料にも記載する習慣ができました。働き方改革やスタッフを1人増員したときにどの程度指数が変化するかなど、現場と経営層が共通認識をもって議論できる材料になった点は組織貢献につながったと思います。
当院は昨年に新病棟ができ、現在は病棟編成が変わりました。ですので、現在は新病棟体制でのデータを取りつつ、週単位・日単位など新たな切り口での調査・分析に取り組んでいます。
これからも患者第一の医療を継続的に続けていくために、忙しすぎない病棟運営を維持できるサポートをしていきたいです。