
2025年8月28日に開催された第196回社会保障審議会医療保険部会では、2026年度診療報酬改定の基本方針、マイナ保険証の利用促進、電子処方箋・電子カルテの目標設定の3点が議題となりました。特に、診療報酬改定については、今回が議論のキックオフとなり、医療現場の危機的な経営状況を訴える声が相次ぎました。
2026年度診療報酬改定の議論がキックオフ、医療現場の窮状訴え相次ぐ
事務局からは、前回改定とほぼ同様のスケジュールで議論を進め、12月上旬には基本方針を定めたいとの見通しが示されました。
これに対し、委員からは医療現場が直面する厳しい経営状況についての意見が多数表明されました。城守国斗委員(日本医師会)は、医療機関の倒産件数が上半期で過去最多となっているデータを挙げ、地域の医療提供体制が危機的な状況にあると指摘しました。また、近年の最低賃金や春季労使交渉での高い賃上げ率に対し、診療報酬の改定率(令和6年度改定でプラス0.88%)が全く追いついておらず、全ての職種の賃上げに対応できていない現状を訴えました。特に、ベースアップ評価料の対象外である事務職員などにも対応できるよう、要件の見直しや基本診療料での手厚い評価を求めました。
佐藤美幸参考人(日本病院会)や任和子委員(日本看護協会)からも同様の意見が出され、骨太の方針2025に明記された「経済・物価動向等を踏まえた増加分を加算する」との方針の確実な実現を強く求めました。また、物価や賃金の上昇に応じて適時適切に診療報酬をスライドさせる仕組みの導入を検討すべきとの意見も上がりました。
一方、保険者側の委員からは、制度の持続可能性に対する強い懸念が示されました。佐野雅宏委員(健康保険組合連合会)は、補助金や税制で対応すべきものと診療報酬で対応すべきものを切り分けて議論する必要性を強調しました。横本美津子委員(日本労働組合総連合会)や村上陽子委員(日本経済団体連合会)からは、医療DXの活用や医療機能の分化・連携・集約化をこれまで以上に進め、メリハリを効かせた改定とすべきとの意見が出されました。
今後の議論では、医療現場の経営実態を示す客観的なデータに基づき、持続可能な制度設計と医療従事者の処遇改善をいかに両立させるかが最大の焦点となります。
マイナ保険証のスマホ利用開始と現場の課題
市町村国保の保険証有効期限切れへの対応
8月に多くの市町村国保で保険証の有効期限を迎えましたが、事務局からは「大きな混乱なく移行できた」と報告されました。しかし、前葉泰幸委員(全国市長会)からは、市町村窓口には資格確認書に関する問い合わせが多数寄せられている実態が報告され、国民への継続的で分かりやすい周知の必要性が指摘されました。
スマートフォンのマイナ保険証利用
9月19日から、準備の整った医療機関・薬局でスマートフォンのマイナ保険証利用が順次開始されることが報告されました。医療機関側では、対応のために汎用カードリーダーを別途購入・設置する必要があります。委員からは、患者が来院前にスマホへのカード機能の追加設定を済ませておく必要があることや、全ての医療機関で利用できるわけではないことなどを、国民に十分に周知する必要があるとの意見が出ました。
顔認証付きカードリーダーの更新費用問題
城守委員から、オンライン資格確認に必須の顔認証付きカードリーダーについて、早期に導入した医療機関で保守期限が残り1年程度に迫っている問題が提起されました。ベンダーから更新費用として50万~100万円相当が提示されているケースもあるとし、国に対して機器の更新費用への全面的な財政支援を強く求めました。この状況で、スマホ対応のための新たな汎用カードリーダー導入には現場の抵抗感が強いとの懸念も示されました。
電子処方箋は電子カルテと一体で普及推進へ
電子処方箋と電子カルテの新たな導入目標が報告事項として説明されました。電子処方箋は、薬局での導入が約84%に達する一方、医療機関では約1割にとどまっています。この状況を踏まえ、今後は電子処方箋単独での普及ではなく、電子カルテ及び電子カルテ情報共有サービスと一体的に導入を進める方針が示されました。新たな目標として「患者の医療情報を共有するための電子カルテを整備する全ての医療機関への導入」を目指すとしています。
また、電子カルテ未導入の医療機関向けに、国が開発する標準型電子カルテを2026年度中を目途に完成させる目標も掲げられました。委員からは、この一体的な導入方針に賛同する意見が出されました。一方で、城守委員は、紙カルテを利用する診療所の半数以上が「電子化への対応ができない」と回答した調査結果に触れ、ITに不慣れな高齢医師などもいることから、一方的な義務化とならないよう配慮を求めました。また、導入・更新にかかる財政支援の重要性も改めて強調されました。
<参考>厚生労働省「第196回社会保障審議会医療保険部会 議事録」