病床機能報告制度で何が変わるのか

著者:木村憲洋(高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授)

病床機能報告制度に関して話題が尽きません。報告した内容がどのように利用されるのかが、医療機関にとっては死活問題だからです。今回はこの制度の背景と、今後の展望について解説します。

病床機能報告制度、創設の経緯

2014年2月、いわゆる「医療介護総合確保推進法」の法律案が国会に提出されました。持続可能な社会保障制度の確立のために、医療法や介護保険法など19の法律を一括で改正する内容となっており、医療法の改正内容として病床機能報告制度が医療機関の義務として盛り込まれました。
病床機能報告制度によって、病院と有床診療所は、病棟単位で医療機能の現状と今後の方向を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」=下記参照=のいずれかから選択して、都道府県に届け出ます。

【高度急性期機能】
・急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能
【急性期機能】
・急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能
【回復期機能】
・急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能
・特に、急性期を経過した脳血管疾患や大腿骨頚部骨折等の患者に対し、ADLの向上や在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する機能(回復期リハビリテーション機能)
【慢性期】
・長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
・長期にわたり療養が必要な重度の障害者(重度の意識障害者を含む)、筋ジストロフィー患者又は難病患者等を入院させる機能

 

そして医療機関からの届出内容をもとに、都道府県は地域医療構想(ビジョン)を策定し、“構想区域”において最適な機能分化・連携を推し進めるために必要な施策を医療計画に盛り込みます。この“構想区域”とは、医療計画で用いられている2次医療圏を原則としつつ、2025年時点での人口規模や患者の受療行動、疾病構造の変化等の要素を勘案し、地域の実態に合わせて策定することになっています=下図参照=。

病床機能報告制度と都道府県のビジョン

改正医療法によると、都道府県知事は、地域医療構想実現のために医療審議会を設置し、必要に応じて医療機関に対して、稼働していない病床の削減を要請できます。地域医療構想の如何が、医療機関に大きな影響を及ぼすことが分かります。

 

その地域に最適な地域包括ケアとは?

kurumaisu地域医療構想について考える上で重要なのが、「当該構想区域において“最適な地域包括ケアシステム”とはどんなものか」という視点です。地域包括ケアシステムは、「高齢者が日常生活圏で生活支援・予防介護、医療、介護を受け、安心して暮らせるように支えていくシステム」とも言いかえられますが、地域によって医療・介護の事情、交通アクセスや高齢化率などが違う以上、地域包括ケアシステムのあり方もさまざまです。

現在、高齢者を支えるための医療体制は、“2次医療圏”を軸に策定されている医療計画に準拠します。しかしこれからは、地域包括ケアシステムの考え方に合わせて、“日常生活圏”という括りを意識して、医療提供体制を整えていかなければなりません。病床機能報告制度には、日常生活圏の実情や医療の需給状況を把握するための役割も求められているのです。

 

ついに始動した病床機能報告制度、病院はどう変わる?

???????さて、2014年10月から、病床機能報告制度の第1回目の報告が行われました。報告内容は前述の通り、医療機関の各病棟が担う医療機能の「現状」と「今後の方向」に加え、「構造設備・人員配置等に関する項目」(病床数・人員配置・機器など、入院患者の状況)「具体的な医療の内容に関する項目」(手術数、全身麻酔の手術件数など)から成ります。
後者の「具体的な医療の内容に関する項目」については、レセプトを活用して集計することとされており、将来的には診療行為レコードとして病棟情報を入力し、レセプトと病棟を紐付けることで、よりきめ細かい分析が可能になります。

病床機能報告制度による報告内容は、まずは地域における医療の需給バランスを測る役割を果たすと思われます。例えば、「急性期でリハビリの必要な患者がいるにもかかわらず、リハビリ提供体制が整っていない」「高度急性期の治療が必要なのに高度急性期病床や急性期病床が足りていない」といった不具合を発見することができます。こうした不具合を是正するために、医療計画が見直され、整備されていくのでしょう。

今後、病床機能報告制度で届け出られたデータによって、行政が地域の実情をより細かく把握することとなれば、病院がますます国による統制下での経営になることは間違いありません。

 

木村憲洋(きむら・のりひろ)
武蔵工業大学工学部機械工学科卒。国立医療・病院管理研究所病院管理専攻科・研究科修了。神尾記念病院などを経て、高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授。
著書に『病院のしくみ』(日本実業出版社)、『医療費のしくみ』(同)など。

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