公立図書館やマンション併設…機能分化が生んだ“変わり種”病院とは─建築家が語る病院の裏側vol.3

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医療機関の機能分化に伴い、病院建築にも様々な変化が起きていることをご存知でしょうか。今回は、医療機能に応じた病院設計のトレンドについて考えたいと思います。

病院の再編成で集約されるもの、分散されるもの


従来の病院建築では増築・増床などの「成長」に重点が置かれていました。しかしここ数年、経営の悪化や人材不足などを背景に、病院の再編成が進んでいます。その際ポイントとなるのが、いかに機能の集約と分化を図るか、という点です。これからの時代、病院建築にも「集約」――機能に応じた、必要十分な設備を整えることが求められると言われています。
ただし、もちろん医療技術は日進月歩。今後も様々な変化が起こるでしょうから、機能を集約しても変化には柔軟に対応できるつくりになっていなければなりません。技術の移り変わりが激しい領域の機能を担う急性期病院では、「医療の提供内容が変化していく」ことを前提にして、建築面でも工夫を凝らさなければなりません。たとえば「新しい医療機器を導入したい」と思ったときに搬入できるだけの十分なスペースを手術室に確保する、広い土地を確保して将来の建て替えや増築に備えるなど、病院として機動力を高めておくことが求められます。

一方で、回復期や慢性期の病院では、求められる医療がある程度限られており、大きな変化が起きにくいと考えられます。したがって、頻繁な増・改築を前提とせず、長く使い続けられるように病院を設計しておくことがカギと言えるでしょう。このように、医療機能に応じて、建物としての病院の運用を考えるというのがポイントです。

公立図書館併設、上層階にマンションを持つ病院も…今何が起きているのか

機能分化が進むなかでもう一つ、病院建築には大きな変化が生まれています。それは、病院が他の施設と合築されるようになってきたことです。
そもそも、駅前の商業ビルの上層階に図書館が入っていたり、区役所の上がマンションになっていたりと、複数の施設が一つの建物に入っていることは珍しくありません。建物の建設コストや利便性を考えると、その方が理に適っているからです。
ところが、病院施設に関してはなかなかそうした設計ができませんでした。いろいろな背景が考えられますが、建築家の視点でいうと、「病院は他の公的施設と異なる様式で建てられている」ことが挙げられます。
具体的に何が違うのかと言えば、柱と柱の幅です。日本では鉄筋コンクリートなら6メートル間隔で柱を建てるのがローコストで一般的ですが、手術台や放射線機器を配備する必要のある急性期病院ではコストが増えても9〜10メートル間隔で柱を立てるのが一般的。そのため、病院の上に図書館など他の施設を乗せるのが難しかったのです。

しかし、機能分化によって、急性期に特化した病院と、回復期・療養に特化した病院が明確に分かれ、手術室も大きな医療機器も持たない病院、言い換えれば「6メートル幅で柱を配置できる病院」が増えていったのです。そのため、最近では回復期リハビリテーション病院を中心とした非急性期病院が、マンションやホテル、図書館などといった他の施設と合築するケースが出てきています。

たとえば、都内にある品川リハビリテーションパーク(130床)は、品川区の図書館と介護老人保健施設(以下、老健)、病院の合築です。この病院の場合、1階にリハビリや外来があり、3・4階に老健、5階以上に病院、そして2階に図書館が入っています。なぜ図書館を1階にしなかったのかと言えば、災害時の避難場所として広いリハビリテーション室を使いたいからだそうです。ちなみに、隣接する小学校も建て替えられ、行政が一体となって地域コミュニティの形成に取り組んでいる様子がうかがえます。このほか、福岡にある桜十字福岡病院(199床)の場合、1階にはカフェやレストラン、8・9階には老健、11~13階には有料老人ホームが入っています。

特に地方において、病院は駅以上に人が集まり交流が生まれる場所。実は非常に集客力の高い施設だと言えます。高齢化の影響もあり、その集客力に着目して「病院へ行くついでに買い物ができるような店はニーズがあるのでは」「喫茶店など飲食店が近くにあるといいのでは」といった発想が生まれ、別の施設との合築がトレンドになっています。もちろん病院にとっても集患につながる分、お互いにメリットが大きいとされているようです。

精神科病院で大事なのは“居場所”の選択肢

機能分化と言えば、精神科病院では、疾患によって建物を分けるのが主流になっています。昔は、うつ病の人や統合失調症の人、認知症の人など、症状に関わらずすべての患者さんを同じ建物内で診療していました。しかし最近では、たとえば統合失調症の患者さんと、うつ病などストレスケア系の患者さんとでは、入り口や建物を別に分ける病院が増えているのです。

また、ストレスケア系の疾患を扱う施設は、一見病院とはわからない、ホテルのような建物が多くなってきているのもトレンドと言えるでしょう。このように精神科の病院建築では、患者さんによって建物を分け、ストレスケア系の建物は“病院っぽさ”を排除した設計にするのが最近の流行りとなっています。

その他、入院期間が長くなりがちな精神科病院では、患者さんのいろいろな欲求に応えられるよう、選択肢を用意することがとても大事だと言われています。長期間の入院生活では施設内の人間関係も濃くなります。苦手な人が出てくることもあれば、一人になりたいときもあるでしょう。

以前は、デイコーナーや大きな食堂、4人部屋といった、大人数が集まる場所や逃げ場のない空間でのコミュニケーションが日常生活の中心でした。苦手な相手とも同席せざるをえなかったですし、なにより、完全に一人の時間を持つことが難しい環境だったのです。

たとえば学校でも、教室の中の人間関係だけでは息がつまりますよね。病院も同じで、個室や一人になれるようなスペースをつくったり、食堂のような大部屋だけではなくちょっと小規模の部屋や、同じ趣味の人が集まれるようなスペース──たとえば図書室や卓球コーナーなど──をつくったりする施設も出てきました。患者さん自身が自分の居場所を選ぶことができるよう、多様な選択肢を用意する病院が増えているということです。

療養型は、「家族が来たくなる」病院に

最後に、療養型の医療施設について触れたいと思います。寝たきりの患者さんたちの居室の設計は、病院建築において正解がないテーマだとされてきました。しかし、最近では徐々に良い例が出てきているようです。

その一つが、兵庫県にある久野病院(118床)です。終末期の患者さんが多く、看取りも行っている同院では、2015年に建て替えを行うにあたって、「患者さんにいかに安らかに過ごしてもらうか」だけではなく、「患者さんの家族が来たくなる病院」を設計の大きなテーマとしたそうです。なかでも、最優先課題としたのが「におい」でした。
一般的に、病室の空調設備は部屋に一つ、つまり4床室であれば4人に一つです。しかし、他の患者さんのにおいが届いてしまうなど、効果が十分とは言えない場合も多いようです。そこで久野病院では、各ベッドの下部に、つまり患者さん1人につき1個の空調設備を設けたのです。そうすることでにおいが発生したらすぐに外に排出されるようになっています。実際に私も訪れたことがありますが、確かににおいをまったく感じず、明るく清潔感のある雰囲気だと思いました。

病院の建築費用の半分を占めるのは、空調設備や医療機器などの機械類です。ただし空調設備は目に見えない分、どれだけコストをかけるかは経営者の判断に委ねられます。療養型病院に入院する患者さんは、なかなか外出できなければ家にも帰れないため、家族と過ごす時間は病院にしかありません。その分、病院での時間をいかに安らかに過ごしてもらうかは大きなテーマだと言えます。今後、建て替えを機に空調を改善する病院も増えていくのではないでしょうか。

このように、高齢化や医師不足といった課題に、最近は設計という側面から様々なアプローチがなされています。病院建築には、まだいろんな可能性が秘められているのかもしれません。

<編集:角田歩樹>

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