心動かすデザインで長く愛される医療施設に─建築家が語る病院の裏側vol.5

医療者の働き方改革が叫ばれている昨今、建築学的なアプローチから、スタッフの働きやすさに配慮しようという動きがあることをご存知でしょうか。今回は、設計やデザインの力で病院の魅力づくりに取り組んでいる事例をご紹介したいと思います。

チーム医療を後押しする病院建築


チーム医療が重視されるようになり、様々な職種のスタッフが同じ空間で働く場面も増えてきました。関わるスタッフが多くなったことで、あの人は顔を見たことがあるけれど名前は知らない、職種もわからない……なんてことも出てくるのではないでしょうか。
スタッフ間の風通しを良くして、多職種連携をスムーズに進めるには、コミュニケーションを促す環境が大切です。仕事中だけではなく、食事や休憩の際など日常的に接する機会があれば、挨拶したり話しかけてみたりするなどの交流も生まれやすくなりますよね。
そこで、スタッフが集まるラウンジ(休憩場所)を、各ステーションから行きやすいように設計し、普段から自然に多職種が集うよう工夫している病院が増えてきています。

病棟の中央に大きなラウンジ


その先駆けとなったのが、2012年に新病院に移転した伊勢赤十字病院(655床)です。“「お伊勢さま」(伊勢神宮)を見下ろしてはいけない”という暗黙のルールがあるそうで、5階建てにとどめて高さをおさえ、その代わりワンフロアを広くとっている医療機関で、3~5階部分が病棟に当たります。1フロア4看護単位で、正方形のフロアの外周をぐるりと囲むように病室が配置されています。そして各階の中央に、「オープンカンファレンス」と名付けたスタッフ専用のスペースを設けたのです。8看護単位の人が全て集まれるような大きなラウンジになっていて、上下階も見通しのよい階段でつながっています。いろんな種類の家具が置かれており、そこで食事をとる人もいれば、ミーティングをしている人、仮眠をとる人も。何より、職種を越えたコミュニケーションが生まれる場になっています。

伊勢赤十字病院のオープンカンファレンスほど大規模なものはなかなか難しいかもしれませんが、1フロア2看護単位程度でも、フロアの真ん中に両方のスタッフステーションから行ける休憩場所を設けるケースは増えています。「チーム医療」「多職種連携」といったキーワードが注目されたことで、スタッフの関係づくりにアプローチするような設計が多くの医療機関で採用されているのです。
他にも、研修医用の居場所をつくるなど、建築という観点から医療者の労働環境を良くしようという試みがなされています。

木造が見直されている

また、最近の流行りと言えば、木を使った病院建築が増えていることが挙げられます。
これまで日本では、地震や空襲で木造建築物が燃え深刻な被害が出たことなどから、大型建築物の木造は禁止されていました。医療施設には、自力では逃げられない患者さんがたくさんいることもあって、木材の利用が特に厳しく制限されていたのです。

ところが、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、公共施設の木造化を促進する方向性が示されました。その背景には、木造建築物の耐火性が向上したこともありますが、国産木材の消費を増やし、林業を強化しよう、という国の狙いも垣間見えます。
国の方針もさることながら、木材ならではのあたたかみのある優しい雰囲気が後押しとなって、木造あるいは部分的に木を取り入れる病院は増えています。その土地で採れた木材を地元の病院が使うなどすれば地産地消にもつながりますし、特に診療所は、木造で建てやすいので今後さらに増えるでしょう。

デザインの力は侮れない

これまで見てきたように、病院建築には様々な要素が求められますが、経営という観点から言うと、重要なのはやはり「長持ちすること」ではないでしょうか。成長や変化に柔軟に対応できるようなつくりにする、というのもその一つの手法ですが、一方で、デザインの力で長く活用されているというケースもあります。著名な建築家が設計した医療施設、デザイン性の高い一風変わった医療施設のなかには、オーナーが愛着を持っていたり、地域の人に愛されたりと、建物自体の魅力によって長く残っているものがあるのです。

たとえば、福岡市に、UFOのような外観のクリニックがあります。建築家の葉祥栄氏がデザインし、1979年に建てられたものです。以前は木下医院という名前の診療所でしたが、一旦閉院した後、久保田クリニックと名前を変えて建物はそのまま使われています。築40年と決して新しい建物ではありませんが、二代目の診療所が今でも大切に使い、地域の人からは「UFO病院」と呼ばれて親しまれているそうです。

病院の建築となると、経験豊富な組織系設計事務所でなければなかなかできませんが、診療所であれば個人の建築家が手がけることも珍しくありません。中には、意外な発想や斬新な意匠にはっとさせられるような名作もあり、デザインの力の大きさを感じさせられます。

全5回にわたって病院という建物に着目してきましたが、いかがでしたでしょうか。社会や医療の変化に伴い刻々と変化してきた病院建築。一方で、患者さんや医療者のために、設計から課題へアプローチするという点はずっと変わらぬところなのかもしれません。今後病院建築はどのように変化していくのか、皆さんにもぜひ注目していただければと思います。

<編集:角田歩樹>

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