医療法人の「ホールディングカンパニー化」は本当に進むのか?―解説・医療法人制度(後編)

医療法人のあるべき姿について検討する「医療法人の事業展開等に関する検討会」で、“非営利ホールディングカンパニー型”(以下、HD型)と呼ばれる新たな医療法人が創設されようとしています。早ければ2015年中に制度上の措置が取られる予定です。検討会の様子を見ると、「是が非でもこの医療法人を導入したい」と言う厚生労働省の強い姿勢を感じます。
なぜ今、“非営利ホールディングカンパニー型”なのか―。創設の狙い、今後及ぼすであろう影響について解説します。

 「非営利型ホールディングカンパニー型」の医療法人とは

HD型の医療法人制度とは、複数の医療法人及び社会福祉法人等を束ねて一体的に経営することを法制上可能にするもので、HD傘下にある各法人の独自性を一定程度保証しながらも、HD全体の意思決定を一元的に行うものとされています=下図参照=。
期待できる効果は、患者の情報をHD内で一元管理し、症状に合わせて効率的な連携ができること。また、HD内での採用・人事異動、管理業務の一括実施をすることによる経営効率の向上などが挙げられています。

非営利ホールディングカンパニー型法人

この制度を活用した医療提供体制の具体的像 については、「医療法人の事業展開等に関する検討会」において、下記のように例示されています。

【非営利ホールディングカンパニー型法人の活用モデルの例 具体的なイメージの例】
(第5回 医療法人の事業展開等に関する検討会 資料より)

●自治体中心型
都道府県や市町村がその区域内の医療法人、社会福祉法人等に呼びかけて、非営利ホールディングカンパニー型法人(HD法人)を創設する。
自治体が中心となって、医療法人等の横の連携を高めることで、地域医療構想、医療計画、介護保険事業計画などと整合性を持ちつつ、病床機能の再編、地域包括ケアシステムの構築等を円滑に進めることが期待される。 必要に応じて、自治体が出資したり、自治体の幹部を理事とするなど、適宜、関与することも可能である。

●中核病院中心型
地域の社会医療法人、大学付属病院を経営する法人など急性期医療等を担う中核的な医療法人等が、回復期や在宅医療を担う医療法人や、介護を担う社会福祉法人に呼びかけて、HD法人を創設する。 地域の中核病院が中心となることで、回復期や在宅医療の基盤が弱い場合は、中核病院の信用力を元に資金を確保してそこに投資するなど、地域の効率的な医療提供体制を構築することが期待される。

●地域共同設立型
都道府県医師会や地区医師会が中心となって、その区域内の医療法人、社会福祉法人等に呼びかけて、HD法人を創設する。 医師会が中心となることで、現在、医師会が中心的に進めている在宅医療・介護の連携の更なる促進や、共同購入や医療機器の共同使用等による中小医療法人の経営の効率化、経営の厳しい医療法人の支援や受け皿としての機能が期待される。自治体も巻き込むことによって、自治体からの出資などの支援を受けることも可能である。

“非営利ホールディングカンパニー型”実現に向けた課題

カルテ地域で理念を同じくする法人同士が統合して、診療の質や経営効率を向上していくことは、理想的かもしれません。

しかし、「本当に良いことばかりか」と言うと、現段階ではまだ不確定要素が多いのも事実です。
例えば、患者の状態に応じてグループ内で連携する場合は、診療報酬上の「特別な関係」と見なされ、加算が算定できないこともあり得ると思います。
また、HD内での人事異動が「転籍」となる場合、その都度保険証が変わったり、社会保険関連の変更が生じたりすることも考えられます。こうした実務上の課題がどう解決されるのかは、今後の動向を見ていくしかありません。

受付HD型医療法人が制度として創設されれば、医療機関のHD化はスムーズに進むのでしょうか。現時点で私は懐疑的です。特に民間病院が地域の公的医療機関と歩調を合わせながら資金調達やそのリスクヘッジを行っていくようには思えません。

まずは、大学などの公益性の強い病院同士がHDを築き、連携していくところから始まるのではないかと思います。

その好例として注目しているのが、「岡山大学メディカルセンター構想」です。
これは、岡山大学附属病院を法人化して独立させ、附属病院を中核として近隣の公立・公的病院を包括した“岡山メディカルセンター”を構築するというもので、医師の供給や救急などの医療サービスを効率的に提供できる体制を構築することが期待されています。もともとつながりが強く、公的な役割を担っていた病院同士だからこそ、ビジョンを共有したり、歩調を合わせながら法人運営をしたりしやすいのではないかと思います。
このように考えると、HD型医療法人は、地域で自治体病院や国民健康保険立病院などを統合していくことに適した法人格なのかもしれません。

木村憲洋(きむら・のりひろ)
武蔵工業大学工学部機械工学科卒。国立医療・病院管理研究所病院管理専攻科・研究科修了。神尾記念病院などを経て、高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授。
著書に『病院のしくみ』(日本実業出版社)、『医療費のしくみ』(同)など。

関連記事

  1. フィリピンにおける医学教育

コメント

コメントをお待ちしております

HTMLタグはご利用いただけません。

スパム対策のため、日本語が含まれない場合は投稿されません。ご注意ください。

医師の働き方改革

病院経営事例集アンケート

病院・クリニックの事務職求人

病院経営事例集について

病院経営事例集は、実際の成功事例から医療経営・病院経営改善のノウハウを学ぶ、医療機関の経営層・医療従事者のための情報ポータルサイトです。