医師が海外留学して学んだ2つのこと―医師への選択、医師の選択【第21回】

著者:野末睦(あい太田クリニック院長)

質問:海外留学で学べることとは、何でしょうか?
※編注:質問に対する「私的結論」を次回掲載します。

講師になって2年たち、米国留学をすることになりました。消化器外科に誘ってくれた先輩医師の「留学は楽しいぞ」という言葉を信じて、その先輩医師の留学先だったハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院の放射線医学部門のRakesh K Jain教授のもとに2年間、お世話になることにしたのです。35歳の時でした。留学中は筑波大学の講師のポジションを休職という形でキープしておくことも許していただけたので、非常に恵まれていました。

ただ、行くまでは正直、気が重い状態でした。筑波大学での自分自身の位置づけも少し上がってきたところでしたし、子どもも4人に増えていて、家族への影響も多大であると予想されたため、新たな世界に飛び込むことに、恐怖に似た感情があったのです。留学先では、その頃の日本ではほとんど研究されていなかった腫瘍生理学、腫瘍の酸素化、腫瘍内の圧力、そして今では腫瘍治療に実用化されている腫瘍の血管新生などを研究しました。

英語による専門分野のディスカッションが知見を広める

学んだことは多く、書ききれないのですが、皆さんに知っていただきたいことを2つピックアップしてみます。

まず研究室には諸外国から多くの見学者が、それも教授クラスの見学者が毎月のように訪れます。そのような見学者が来ると、研究室のメンバーは交代で30分から1時間、自分の研究について見学者にプレゼンテーションし、そしてその見学者の研究についても話を聞いてディスカッションをします。留学して3か月ぐらいで、このローテーションに入るようになったのですが、これがとてもいいトレーニングになりました。見学者はその分野での第一人者であることが多いので、いろいろなアドバイスを受けられますし、その方たちの研究のアイデアを聞いて自分の研究に応用できるのです。

英語による専門性の高いディスカッションを、一対一で30分以上もするという、得難い体験をすることができたのです。これによって、世界中の知見が得られ、わたし自身の視野が一気に広がりました。その後の全米の学会で研究成果を発表するときには、Jain教授から「I do not knowだけは言わないように」と言われ、緊張して臨みましたが、普段から一流の人にプレゼンしてディスカッションをしていた甲斐あって、10を超える質問にも、何の問題もなく答えることができたのです。

野末睦(のずえ・むつみ)

初期研修医が優先すべきこと1―医師への選択、医師の選択(野末睦)筑波大学医学専門学群卒。外科、創傷ケア、総合診療などの分野で臨床医として活動。約12年間にわたって庄内余目病院院長を務め、2014年10月からあい太田クリニック(群馬県太田市)院長。
著書に『外反母趾や胼胝、水虫を軽く見てはいませんか!』(オフィス蔵)『こんなふうに臨床研修病院を選んでみよう!楽しく、豊かな、キャリアを見据えて』(Kindle版)『院長のファーストステップ』(同)など。

 

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