全国トップの“医師過疎県”である埼玉県で、わずか半年程度で9名の医師採用に成功した病院があります。社会医療法人壮幸会 行田総合病院(504床、埼玉県行田市)は、以前こそ医師不足ゆえの業務過多から「多くを求められる病院」としてのイメージが強かったものの、数年前から採用活動を見直し始め、2017年7月からの本格見直しが功を奏したと言います。その取り組みを聞きました。
病院概要
設立 | 1988年 |
名称 | 社会医療法人壮幸会 行田総合病院 |
所在地 | 埼玉県行田市 |
責任者 | 川嶋賢司(理事長・総院長) |
診療科 | 内科、循環器内科、消化器内科、消化器外科、呼吸器内科、腎臓内科、神経内科、リウマチ科、外科、肛門外科、整形外科、脳神経外科、血管外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、小児科、麻酔科、放射線科、病理診断科、リハビリテーション科、心療内科、ほか(脳ドック、人間ドック、企業・一般検診、人工透析) |
病床数 | 504床(一般450床、医療療養54床) |
※2018年4月現在
マイナスイメージからの脱却へ
―埼玉県は、人口10万人あたりの医師数(医療施設従事者166.82人)が少なくとも過去28年間、全国最低です。
川嶋 博氏(CEO・常務理事) はい、そうした背景もあり、2010年代前半には「救急車のたらい回し」が社会問題にもなりました。当院は公益性が求められる社会医療法人であり、救急車を断らないことを旨とし、直近1年で4,493台の救急車を受け入れています。この他にも、地域医療支援病院、災害拠点病院、埼玉県救急搬送困難事案受入病院、がん診療指定病院などの指定も受け、地域に貢献することを大切にしてきました。
―その半面、勤務医にとってはハードな職場でもあったのではないでしょうか。
地域の状況を考えると方針が間違っていたとは思いませんし、頑張ってくださってきた先生方には感謝の念が絶えません。ただ、当院を知る医師や人材紹介会社の一部からは、ご指摘のように「業務内容がきついのでは?」という認識があったようです。以前は毎年、医師の1割ほどが離職し、採用もなかなか思うようにいきませんでした。
ただ大学医局に頼ろうにも、埼玉県には埼玉医科大と防衛医科大学校のみ。防衛医大は一般の大学とは趣旨が異なりますし、実質、埼玉医科大だけで約730万人の県民、言い換えるなら全国5位の人口を支えるのは無理があります。結局、自力採用を頑張らないことには始まりません。
このままでは、行き詰ってしまうような状況でした。
病院と医師の情報ギャップを埋めるために考えたこと
―数年前から採用活動を見直し始めたそうですね。特に2017年7月頃の刷新が功を奏して、その後の7カ月間で医師9名を採用したとか。何をしたのでしょうか。
実はだいぶ以前から、働き甲斐も働きやすさもかなり向上していたと思います。最新の機器・設備や24時間利用できる保育所などを導入しましたし、メディカルアシスタント(医師事務作業補助者)の体制も整備しています。500床規模にしては科目間の連携もスムーズだと自負しています。ただ、前述のハードワークイメージを引きずっていて、採用に直結していませんでした。
病院案内パンフレットの製作や、紹介会社向けの病院説明会はしていたのですが、満足な成果には繋がってはいなかったと思います。そこでPR方法を変えることにしました。
たとえば、それまで高年収をウリにしてきたつもりでした。相場よりも数百万円ほど高く提示していたのですが、かえって「業務内容がきついのでは?」という不信感を抱かせていました。当院としては、社会医療法人として優遇された税金分をスタッフに還元しようという方針があるので、そこに則った対応だったのですが…。だから、応募者や人材紹介会社には、単に高年収を提示するのでなく、意図をきちんと説明するようにしたのです。
私たちが思っている以上に、求職者の方々は情報にセンシティブです。人生に関わる決断をしようというのですから、当然のことです。そこをしっかり見つめ直すことにしました。
―地道ではありますが、求人側と求職者側の情報ギャップを埋めていくことは大事ですね。ところで給与額では他院をリードできると思いますが、立地では東京都の隣接県です。都内の病院と比較されると、かなり不利なのではないでしょうか。
捉え方の問題だと思います。都心に住んでいる方なら、朝はJR高崎線“下り列車”で通勤できてラッシュと逆方向です。都心からちょうど60分間を座って来られるのです。当院の最寄りのJR行田駅からは3~4分。送迎車(小型車)を用意しているとお伝えすると、皆さん、好意的な反応を返してくれます。送迎が嬉しいというより、当院の本気度を受け止めてくださっているようです。
大阪の医師を3週間で埼玉に招聘
―自院の情報をどう解釈してほしいかをしっかり伝えるわけですね。他には何かありますか。
他にも、情報密度と対応スピードの向上が大きく影響したと思います。
情報密度でいうと、人材紹介会社には2週間ごとに最新の求人票を届けています。たとえ求人内容に変更がなくても、必ずです。情報が新しいと、応募者にもエージェントの方にも安心感を与えられますし、こうした行動を続ければ、私たちの採用に懸ける想いを多少なりとも汲んでいただけるでしょう。
また、これは人材紹介会社への対応になりますが、エージェントの方から応募の打診があったときに、一定レベルの情報を求めるようにしました。
エージェントによっては、「内科医、40代、男性」程度の情報しか把握していないことがあるのです。これでは、私たちが提示できる条件案も「年収1500万~2000万円」といった曖昧なものになってしまいます。仮に他院が「年収1800万円程度」と提示したら、医師は「1500万円になるかもしれない当院よりは、1800万円程度の他院が良い」と思うのが自然ではないでしょうか。
だから、私たちとしては、エージェントの方に保有資格や経験症例などを確認するようお願いし、そこから具体的な提案をしています。
―対応スピードについては、どのように向上を?
体制をより簡素にしました。それまで採用担当者が打診を受けて、そこから私に連絡して…といったステップを踏んでいましたが、基本的に対応・意思決定・面接を私がワンストップで行えるようにしました。面接の回数も、複数回だったのを1回にまとめて、私や診療科の部長などが同時面接をしています。
多忙な医師に何回も来ていただくのは申し訳ないですし、我々としても“背水の陣”といいますか、「この面接が勝負だ」と気持ちを込めやすくなります。
それに、長引くと「どの先生だったかな?」と思うことも正直ありました。期間を集中したことで意思決定もしやすいように感じています。
―実際、打診があってから内定受諾までどの程度かかっていますか。
大阪で働いていた男性医師がいましたが、2~3週間で内定受諾まで進みました。この方は事前にいただいた経歴などから当院に迎え入れたいと思い、まずは大阪に訪問しました。そこで見学にお誘いしたので、医師も当院への興味を強く持っていただけての結果だと思います。他のケースだと、もっと早く内定受諾まで至ることもありますよ。
おかげさまで、情報密度や対応スピードを見直してから、面接が終わった後にお断りされた医師は1人だけです。面接にさえ来ていただければ、ほぼ入職していただける状況です。
採用に自信が深まり、さらなる積極投資へ
―先ほど、「業務内容がきついのでは?」というイメージが広まっていたという話でしたが、今はいかがですか。
5年前ぶりくらいにご紹介いただいた紹介会社からは「変わりましたね」という話もあったので、様変わりしたと思います。当直や残業も、医師の増員やメディカルアシスタントの導入などでだいぶ改善され、それが院外にしっかり知っていただけているように感じます。
―今後の展望にも影響してきそうですね。
はい、この地域を支えるために、病院機能を充実させていきます。2018年度以降は、オペ室と血管造影装置を含む画像センターの増築および検査機器の導入を予定しています。こうした計画も、人がいて初めて成り立ちます。どう頑張れば採用できるかも少しずつ見えてきましたし、積極的に投資していきたいですね。
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