【第11回】先行き不安な事務長こそ、言うべき言葉―事務長の悩みは99%解決できる

野々下みどり(ののした・みどり)

株式会社LHEメディカルコンサルティング代表取締役。熊本大学法学部を卒業後、約20年間にわたり医療法人社団シマダ 嶋田病院に勤続。その間、医事課長、診療情報管理課長、情報システム課長、診療支援部長、企画広報部長を歴任。2018年、医療福祉の経営コンサルタントとして起業し、現職。医療経営・管理学修士(九州大学大学院医学系学府)、診療情報管理士指導者の資格を持つほか、日本診療情報管理士会評議員などを務める。
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今年は例年よりゆっくり堪能させてくれているようにも見えた桜も、すっかり散ってしまいました。
2020年度初回の第11回コラムは、希望に満ちてお届けするはずでした。オリンピックイヤーでもあり、令和最初の年度スタート、令和最初の新社会人、新入生歓迎!と最高潮の盛り上がりの4月を誰もが予想していたのではないでしょうか。緊急事態宣言がいよいよ全国に出されました。新型コロナウイルスによって、世界は経験したことのない状況に直面し、不安がうごめいています。

医療現場で働く皆さんを指揮する事務長、気持ちの維持は大丈夫ですか。

不安はなぜ起こるーお化け屋敷は怖いですか

なぜ、人は不安な気持ちになるのでしょう。
もし、「お化け屋敷に1人で入って」と言われたら、皆さんどうですか。
怖いですよね、不安になりますよね。でも、2回目だったらどうでしょう。この角を曲がったら強風が首筋に吹きかかる、この窓から人影が出てくる、など起きることが分かっていたら、怖くもなく、不安ではないはずです。
「分からないこと、経験したことがないことに、人は不安になるのです」。以前、あるセミナーでそう教えてもらいました。今、全世界の人々は、この先どうなるか分からない、いつまで続くか分からない事態に見舞われているから、不安なのです。

どうしたら、不安を和らげられるのか

先ほどの、お化け屋敷の例を思い出してください。もし誰かと一緒だったらどうでしょう。初めての経験でも、不安は少し和らげられると思いませんか。

私も病院勤務時代、特にリーダーや管理者になってから幾度となく「どうしよう」と思うことに遭遇し、「逃げ出したい」「辞めたい」と、つい不安を口にしそうになることもありました。しかし、あえてスタッフの前では、根拠などないけれど、「大丈夫、大丈夫。なんとかなるし、なんとかすればいいじゃない」と笑い飛ばしていました。不安げな表情だったスタッフも半信半疑だったと思いますが、私がそんな風に言うと、安心とまでいかずとも、少しほっとしたような表情で職場に戻っていきました。

なぜ、大丈夫だと口にできるのか

私はなぜ、「大丈夫」と口にできたのでしょうか。それは、「そうだよね、不安になるのは当然のこと。大丈夫、これを乗り切ったら、経験になる。一つ成長する」と知っていて、開き直れたから。そして、「言葉には魂が宿るからマイナスなことは言わない」という信念を私が持っていたからだと、今までは思っていました。

このコラムを書くにあたり、そのエピソードを振り返り、ハッと気付きました。「大丈夫だよ」。あのときそう言えたのは、目の前に不安な表情のスタッフがいたから……。1人ではなかったからです。スタッフの不安を和らげたい、一緒に乗り越えたい、何とかしたい、そんな気持ちになれたからなのです。自分1人だけのことであれば、「よし、何とかしよう」というエネルギーが即座にみなぎることはなく、その困難を乗り越える、頑張る力も出なかったと思います。そこに大切な人がいたから、です。

そのスタッフの下には、さらに部下がいますし、他のスタッフもいます。そして病院には、何より患者さんがいます。

病院に来られる患者さんや家族は、そもそも痛みや不安、困難を抱えた方々です。そうした負の感情、状況を少しでも和らげるためには、我々がプラスのエネルギーを持っておくことが必要だと思っています。きっと、この病院に来たら大丈夫、この病院があるから大丈夫、一人じゃない、誰かがそばにいてくれる――。そう思えることが、どれだけ安心なことか。病院の存在やスタッフの笑顔に、多くの患者さんやご家族、住民の方はきっと救われます。

不安な患者さん、家族、住民の方のために、スタッフを笑顔にすることは事務長の仕事です。そのための参考になればと、これまでの10回のコラムの中でお伝えしてきたことを、もう一度なぞってみたいと思います。

“やり方”だけでなく、“在り方“を教えてください

病院の新型コロナウィルスへの対応に対して、何をどのように、という“やり方”だけでなく、どんな目的でやっているのかという “在り方”を、患者さんや地域の方、スタッフに伝えてください。

病院、クリニック、介護施設、福祉施設――。それぞれの施設で目の前のことに精一杯になっています。それはやむを得ないでしょう。しかし、新型コロナウィルスは、これまで対峙したことのない相手です。「何が正しいのか」「これで合っているのか」と手探りな時だからこそ、患者さんや利用者さん、自分たちを守るために、どういう視点、どういう立場から何をしているのか、していくのか、ということを伝えてください。部署内や施設内、できれば法人内で目的や意思を一つにして、気持ちを一つにしてください。

強がりでいいから「大丈夫」と声に出してみる

私も最近は医療機関への訪問を控えていますので、事務長さんたちとは電話でお話をする機会が増えましたが、みなさん、診療報酬改定や新型コロナウィルスへの対応などで疲れた様子が伺えます。以前このコラムで、「もし息詰まったときは、『今、自分は楽しんでいるのか』と自問してほしい」、と書きました。私も自身が疲れたり、息詰まったりしたときに実践しています。「事務長の色に事務方、病院は染まるから、事務長自身が元気に、先陣を切って、仕事を楽しんでほしい。笑顔には、笑顔が返ってくる」とお伝えしました。今、楽しむなんて不謹慎かもしれません。楽しむなんてできないかもしれません。そんな時は、強がりでいいので、声に出してみてください。言葉には魂が宿ります。自分も周りもそれで、落ち着きますから。「大丈夫!」。

有事に備えて、ある程度のシミュレーションは必要です。でも、そのあとは、その時できることをやればいいのです。その時の内部環境、外部環境によって対応は変わります。大丈夫、その時の最善策を取ればいい、対応すればいいのです。

患者さんや利用者さん、住民の皆さんの笑顔はスタッフにかかっています。そして、そのスタッフの笑顔を守るのは事務長にかかっています。

今、試されている

この先にはきっとまた、ありふれた日常が訪れると信じています。でも、きっとその時に残っているのは、研ぎ澄まされたもの、必要なものだけだと思っています。新型コロナウィルスへの対応を通じて、無くても意外と平気なんだな、こういうのも悪くないな、と気づくものがあるかもしれません。この時期の乗り越え方、過ごし方が、その先の自分をつくると思うのです。

今我々は、試されているのだと思っています。個人としての人間性も、組織としての体制も。「職員を愛しているか、大事に思っているか」「患者さんや住民、職員に対して、誠実な対応をしているか」。そんなことを試され、ふるいにかけられている。私自身はそう思っています。この状況下の経験をみんな忘れません。乗り越えた先に、大事な人たちは、きちんと病院やあなたのそばに残ってくれているでしょうか。病院や事務長の姿を、住民やスタッフは見ています。疲れた背中を見えることも逆に「事務長も頑張っているから」と思わせるには効果的かもしれませんが……、襟を正しましょうね。私も同じく!です。

【読者の皆さまからのご質問をお預かりしています】
連載で取り上げるテーマの他にも、みなさんの「今」のお悩みについてもいっしょに考えていきたいと思っています。「事務長の~」というタイトルではございますが、お役職問わず、お気軽にお問い合わせください。ご質問はコチラから。

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