生き残りをかけた市民公開講座 ~選ばれるための講座運営とは~―病院マーケティング新時代(7)

本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣がオムニバス形式で、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報について解説します。

1)市民公開講座で聴講者の満足度を上げる鉄板ネタ

著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門

中規模以上の病院であれば、市民公開講座など、一般の方へ無料で講義をしているところは多いと思います。また病院の規模に関わらず、個人のスタッフ宛に自治体の催し物での講演依頼がくることもあると思います。私が所属する公立大学でも市民公開講座や講師派遣を実施しており、自治体の催し物でお話しする機会をいただけます。そんな経験から、今回は市民公開講座で話す内容について書いてみます。

多くの市民公開講座は無料ですので、必然的に講師料も無料となります。講演の依頼も、有名講師でもない限り、講演タイトルで選ばれることが多いです。そうなると、講師側には、ボランティア業務と考える方がいますので、病院組織として展開しようとすると、企画担当者が頼みやすいスタッフに頼むか、所属部署の持ち回りで順番が回ってくることになります。その結果、講演の面白さに関わる「講師の熱量」にバラツキが出てしまいます。

一方で、アンケート結果を見ると内容を問わず不満の声は多くないはずです。なぜなら、参加者は、①平均年齢が高く礼儀のいい方、②すでにその病院のファンの方、③健康に興味があるか講演タイトルに興味を持っている方―が多いため、不満に思うことは少なく、不満を言う方はあまり見かけません。しかし、満足度のとても高い人がそんなに多くなく、低くもない状態が続くと、だらだらと続けることに陥ります。

では、「面白そうな会だな」とか、「いい時間を過ごせた」と参加者に言われるようにするためにはどうすればいいか?それはご当地ネタの活用です。開催場所の健診受診率や特定疾患の有病者数から考える地域の健康特性をコメントしたり、その地域の人なら理解できるご当地ネタを講演の最後に入れたりすることでウケます。もちろん最初にも入れられるネタがあれば、その日の講演の掴みはよりいいです。また開催情報や演題タイトルにも地域ネタがあれば、興味を持つ人も出てきます。

講師の都合により、講演中にご当地ネタを入れるのが難しい場合は、前振りや最後の質疑応答などの司会者側でコントロールできる時間に入れ込むこともできます。この辺り、企画担当者が司会者になる必要もあり、負担かもしれませんが、フットワークの軽さがモノを言うところです。大事なポイントは、最後に聴講者側に寄り添うことです。一気に距離が縮まりますので、参加された方の満足度が高いまま帰路につけます。

テレビ番組でも県民性を扱う長寿番組や、地方番組でも一定の視聴者を維持し、長続きしているものが各地にあります。結局、好きであろうと嫌いであろうと、住んでいる地域のことに多くの人が興味を持っています。様々な人の興味を惹くには、ご当地ネタが最強です。

2)新入患者数の38%成長を支えた市民公開講座と出張講座とは

著者:松本卓/病院マーケティングサミットJAPAN Executive Director
小倉記念病院 経営企画部 企画広報課

小倉記念病院では、最大キャパ500名の市民公開講座を当院の講堂で毎月1回のほか、地域の市民センターなどに出向いて行う少人数規模の出張講座を年60回程度行なっています。参加者を合計すると年間約7,000名と講座を通じてコミュニケーションが取れています。今回は、その狙いや運用方法など1つの事例としてご紹介します。

<市民公開講座>

クラッシャー松本が来たぞ!?

私が市民公開講座をディレクションする前から、当院では市民公開講座を年4回ほど開催していました。どんな講座だったか? シンプルに言うと「開催することが目的になってしまっている」講座でした。なぜ講座を開催するのか、参加者にどう感じてどう行動してほしいのか狙いがなく、業務の一環で行うあの感じです。なんとなく皆さんもわかるのではないでしょうか。

企画広報課が立ち上がってから首をつっこむようになったんですが、最初はもう「松本が私たちの平穏な暮らしを荒らしに来た!!」みたいな扱いですよ(笑)。そんなつもり全くないのですが…まぁ少しはありますけど(笑)、今では前任者とも親子みたいに良好な関係で市民公開講座に取り組んでいます。そこに至るまでのお話をこれからさせていただきます。

参加者は多いに越したことはない!!

まずは参加者数を増やすこと。増やし方は「講座の回数を増やす」「1回の参加者数を増やす」、この2つを同時に行いました。

講座回数を増やすためにルールとして毎月1回開催する。そして1回あたりの参加者数を増やすためにやっていることは、広告です。何を当たり前のことを言っているのかと思われている方もいるかもしれませんが、あなたは日頃、広告を注意深く見ていますか??間違いなく見ていないでしょう。ゴールデンタイムに流しているCMは何千万円単位の製作費がかかっていると言われたりしますが、あなたが昨日の20時台に見たCMはなんですか??おそらく覚えていないと思います。つまり広告はちゃんと見られるものではないのです。でも広告をしないと認知されない。矛盾しているようですが、簡単な話、見られる広告を作るしかないのです。当院ではデザイン会社を活用し、エッジの効いたデザインで注目させてから、肝心の「いつ・どこで・誰が・何を行う」などの情報を届けるようにしています。

作った広告は地元のフリーペーパーに掲載したり、チラシにして配布していたりしますが、どこに配布するのかも重要です。院内の正面玄関付近などは“あるある”だと思います。もちろん当院も設置しています。ただ院内の患者さんやご家族はすでに当院のファンである可能性が高いです。できれば小倉記念病院に受診したことのない生活者もファンにしたい。
そこで当院では出来上がったチラシをマーケット範囲内すべての市民センター・老人クラブへ郵送して、施設内での掲示をお願いしています。市民センター・老人クラブはググればすぐに出てきますから、リスト化しておけばいいと思います。

講座内容にルールあり!!

講座内容にはルールがあります。それは「患者さんが来院してもきちんと対応できる疾患にする」こと。やはり参加してくれる方々の中には、先生の話を聞いて「この先生に診てもらいたい」という方が必ずいます。その時に、「うちはそういった簡単な症例はやらないよ」とか、「これ以上、患者が増えると忙しくなって困る」とか言い出す診療科だと、参加者に対して失礼です。ですから、当院では自信を持ってお話しできる講座しか開催していません。幸運なことにモチベーションの高い先生方が多いので、喜んで引き受けてもらえています。

医師の話だけじゃつまらない!!

これまでは日時と場所と集客だけ事務で調整して、「あとは先生にお任せ〜」みたいな感じでしたが、参加者は2時間も講演だけ聞かされると苦痛ですよね。先生方も2時間分のスライド作成と講演をするのは大変です。まぁこれは他の病院でもよくやっていると思いますが、当院では半分近くの時間を違う企画で使うようにしています。例えば参加者から心エコーを受けてみたい人を壇上に上げて心臓の弁に逆流がないかをみんなで見てみたり、最新のデバイスを紹介したり、患者さんの体験談を話してもらったりなどなど、参加者が帰り際に「ハァ〜面白かった」と言ってもらえるように工夫しています。

高齢者は朝が早い。開演までの2時間を有効活用。

当院の市民公開講座は10時スタートで、9時に開場します。スタッフ集合時間の8時に私が病院に着くと、すでに1階フロアで参加者が数名待っているんですね。私の両親もそうですが家で待ちきれないんですね(笑)。となると、9時の開場直後から早めに客席が埋まってきます。数年前までは「みなさん、早くからお集まりいただきありがとうございます。10時にスタートしますので、それまでしばらくお待ちください。」と言っていたのですが、その時間がすごくもったいないと感じていました。そこで開始までたっぷりある時間を有効活用するために、当院の最新治療PR動画を作成し、放映するようにしました。

例えば循環器内科の主任部長が「みなさん、遅い不整脈に対する新しい治療が誕生したのを知っていますか?? 『リードレスペースメーカ』という医療機器が登場しました。この治療法は…」と医師自らが病気や治療内容を説明している動画を流しています。診察室に座っている医師が淡々と説明する動画にならないように、医療機器メーカーが制作するアニメーション動画に医師がアテレコを入れて、よりわかりやすい動画にしています。

これだと当日に講演する医師以外の顔も売れますし、「やっぱり小倉記念病院はすごい医療が揃っている」と印象付けることもできます。リードレスペースメーカ以外にも、MICS・ステントグラフト・クライオアブレーション・MitraClip・脳血栓回収術・パイプラインなどいろいろな医師を登場させることで、総合力もPRできます。

参加者の皆さんも食い入るように見ていますので、市民公開講座の中で一番成功したなと思う施策ですね。

市民公開講座はプチインフルエンサー養成所!?

さて、市民公開講座のディレクションを担当した当初は「参加してくれた人たちが病気で困った時に、小倉記念病院を頼ってくれたらいいな」と思っていました。

でもマーケット全体を見ると1回500名って大きな数字じゃないんです。もちろん恵まれているとは思いますが、そこそこ費用もかけているのでもう少し大きな施策に育てたい。その時に考えたのは「そもそも参加者をファンにするためだけに市民公開講座を開催していていいのか!?」ということ。つまり参加者をプチインフルエンサーに育てて、当院のメディアとして地域で情報を拡散してもらえれば、参加者の何倍も当院の情報に触れてもらうことが可能なはずだと。そこで市民公開講座のアンケートで「講座の内容を家族・友人へ伝えたことがありますか?」と聞いてみると94%が家族や友人に伝えていることがわかりました。

しかしこの数字はどこの病院も同程度のはずです。それでは他病院と差別化できない。では、どうするか。当院の情報を月1回の講座だけではなく、複数回触れてもらって差別化しようと考えました。市民公開講座に足を運ぶわけでもなく、ホームページのように来てもらわないと伝えられない施策でもなく、半強制的に情報に触れさせることができるツール。それが『LINE@』 です。LINE@の詳しい運用方法は連載企画のSNS編でお伝えしますね。

家族を犠牲にするというのは、こういうことだ!!

ここでは市民公開講座でLINE@をフォローしてもらうための施策を1つ伝授します。みなさん、高齢者の方々が共通して好きなものはなんだと思いますか?? 健康?? 旅行?? では「小さな子供」はどうでしょうか?? 好きですよね。高齢者になればなるほど。

たまたまですが、小さな子供が私の近くにいまして。5歳と2歳の私の娘たちです(笑)。子供たちを使ってどうLINE@フォロワーを増やすのか!? 私は毎回の講座で前説をするのですが、LINE@のお知らせもします。そこで「小倉記念病院でLINE@始めました。フォロワー数が増えないと私は平社員のままです。そうなると私の娘たちにご飯を食べさせることができません!!」このタイミングで子供達の写真を出すと間違いなくウケます(笑)。続けて娘たちの動画に切り替えて「みなさん、よろしくおねがいします」と頭を深々と下げてお願いする娘たちを出すと、2時間の講座の中で一番の歓声がいただけます。毎回拍手喝采ですよ(笑)。

よく仕事の忙しさにかまけて家族を犠牲にすると聞きますが、これこそ家族を犠牲にすることではないかと思います(笑)。

アンケートでも「毎回楽しい前説ありがとう」「かわいい娘さんたちを見るのが楽しみです」などご記入いただいて、1つのコンテンツになりつつあります。

<出張講座>

年2回が60回に!! イメージアップで雪だるま式に増える依頼

企画広報課が設立されて出張講座を始めるようになりました。始めると言っても、呼んでもらえないと出向くことができません。当初は小倉南区の老人クラブの総会(各地域の会長さんが集まって行う会議)で、出張講座の告知をさせていただいて、年2回の出張講座をやっていました。今振り返ると、ホームページに情報を掲載するとかいろいろ方法があると思うのですが…
大きく成長できたのは、無料出張講座のチラシをマーケット範囲内すべての市民センター・老人クラブへ郵送したこと。それだけです。

年2回だった講座は現在、年間60回程度、地域に出向いてお話しさせてもらっていますが、やればやるほど問い合わせが増えてくる。

当初の地域の人たちの反応は「あの敷居の高い小倉記念病院の医者が本当に来てくれるんか!?」という反応なんです。それで本当に行くと、そこの担当者が他地域の担当者に「本当に来てくれるんよ!!」と伝えているようです。なんか雪だるま方式で増えていった感覚ですね。

「敷居が高い」は小倉記念病院の代名詞になっていました。ここでも私が5分程度お話しさせてもらうのですが「みなさん、小倉記念病院は敷居が高いと思っていませんか!?」と聞くと、90%以上の方は首を縦に振っていますね。考えてみてください、小倉記念病院だけ入院料が高いとかなら分かりますが、そういった訳でもない。紹介状がないと受診させないとかでもない。門前払いみたいなこともしていませんし、どこの病院でもなるべく紹介状を持参してもらうことは一緒のはずです。でも敷居が高いと思われている。このイメージはメリット・デメリットあるとは思いますが、講座を重ねることで「あれっ!? 意外とフランク。先生も優しそうで面白い!!」と感じてもらえる方々が増えてきています。

出張エリアで医師を決める!! 診療圏拡大で新入患数が大幅増!!
誰をどこに連れて行く!?

出張講座の依頼が増えて来た当初は「とりあえず捕まった先生を連れて行けばいいか」と思っていましたが、ここも考えるようにしまして。

当院のマーケ戦略は「コアブランドで診療圏を拡大する」ことを1つの軸としています。小倉だと心臓血管系のシェアはとても高いです。しかし、そうでもない診療科もあります。なので、小倉地区ではシェアが高くない診療科を、小倉地区から少しでも離れればコアブランドの診療科を派遣するように調整しています。

特に脳神経外科の主任部長は「マーケット範囲すべての市民センターを制覇する!!」と気合十分でこの取り組みを始めて3年間で2,500名とコミュニケーションを取りました。その甲斐もあり新入院患者成長率38%と、とんでもない数値を叩き出しています。その他の要因ももちろんありますが、特に開催回数の多かった地域からの新入院患者が増えていることを考えると、地道ではありますがボディブローのようにジワジワ効いてくる施策だと言えます。

医師の講演が面白いのは絶対条件!!

これは必須です。こちらがどれだけ準備を整えようとも本番の講演がつまらなかったら、おしまいです。講演の面白さって天性のものがあると思います。ここで私に起きた奇跡は「コアブランドの診療部長たちの講演が面白い」ということでした。

こんな講演ありませんか??「この○○という薬は○○で、○○という薬は最近の論文では(素人にはわからないグラフをスライドに出して)○○でして、つまり…」みたいな、70歳前後の参加者がポカーンとしてしまう話をする先生が。私は心の中で「あっーもう、そんなん話したってついてこれるわけないやん!!」と叫びながらも、講演が終わると「先生、お疲れ様でしたー!!」と明るく対応するわけですが(笑)。

なので、講演が上手な先生を見つけておくといいですね。無理に部長クラスじゃなくて若手でもいいです。関西弁を話している若手医師に講演させたことがありますが、やっぱり上手(笑)。彼は私の中ではクリーンナップの一人です。

話は上手だし面白いけれども、スライドがいまひとつという先生もいます。これは簡単です。私が全部スライドを作り直して渡します。怒られるかなと思いましたが、「いーじゃーん」と喜んでいます。コツは「ワンビジュアル・ワンメッセージ」にすること。シンプルで文字は大きく。細かいことは口で説明すればいい。口で話すことを全部スライドに入れようとする人がいますが、それではダメですね。読みづらいし、参加者が話を聞く意味がなくなります。スライドを印刷して配ればいいんですから。

講座で気にかけていることなど書いたつもりですが、他のツールでも共通することは担当者が「もっと、もっと」と前のめりの姿勢でいられるかどうかだと思います。ここまでやったから後は継続して行くだけでいいやと思った時が、マーケ担当者として終わったときかなと。もっと面白く、もっと感動させるために考え続けましょう。

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