最近の「医師の転職事情」とは?―1から学ぶ医師採用マニュアル【概要編vol.1:事前リサーチ】

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「医師採用を任されたばかりで、どうやって戦略を考えたらいいのか」「なかなか問い合わせにつながらないが改善策がつかめない」など、医師採用の悩みは尽きません。しかし、意外と情報が少なく周囲にもいまさら聞けない…と苦労されている採用ご担当者も多いのではないでしょうか。

医師採用にあたって“最低限おさえておきたい”ポイントや最近の傾向を解説していく本シリーズ。第1回は、医師の転職市場やトレンドについてご紹介します。

通年で医師を採用できている医療機関はわずか15%

図1

医師の有効求人倍率(※)はおよそ6.15倍(推計)で、圧倒的な売り手市場。1人の医師を6~7病院が奪い合う状況です。大規模な総合病院が、1年間で5~6人を採用しているというデータもあることを踏まえると、1年間で医師を採用できている施設は全体の15%程度(約9~10施設に1件の割合)ということになります。特に中小規模の医療機関では、給与などの主要条件以外で医師に訴求できるよう、なんらかの差別化をはかる必要があると言えるでしょう。
※有効求職者数に対する有効求人数の比率。倍率が1を上回れば人を探している医療機関が多く、下回れば仕事を探している医師が多いことを示します。

また、地域や科目によっても採用の難易度は変わってきます。

まず基本的に、大学の医師派遣が難しい地域は求人が多い。どちらかというと、東日本では医局以外にも多様なキャリア選択をする傾向が強く、医師の動きは流動的です。特に関東圏では施設数が多いため、転職先の選択肢が豊富であることも一因でしょう。一方で、西日本は医局のカラーが強く、求人は東日本に比べると少なめ。特に都市部を離れると選択肢が限定的になることもあり、大学に人材が集中しがちです。

その他、たとえば求職者からの人気が高い関東圏では採用難易度が高い、東北地方では医師数が少ないが求人数も少ないので採用難易度は全国平均と変わらない、など地方によってそれぞれの傾向がみられます。日医総研のワーキングペーパー(2017年度版)では、二次医療圏や市区町村ごとの医療機関・医師数の充足度といったデータがまとめられているので、こうしたデータも参考に、自院の地域の採用難易度をつかんでおくといいでしょう

また、科目による医師の偏在もあります(参考:専門医の現在数※2013年8月時点)。たとえば人数の多い総合内科専門医を求めるのか、全国に約650人しかいない救急科指導医を求めるのかでは、採用戦略も全く異なります。二次医療圏やもっと狭い範囲にある施設を競合とみなすのか、三次医療圏(都道府県)もしくは全国規模で探す必要があるのか──。このように、地域や科目によってはかなり激しい競争を勝ち抜かなればなりません。

図2

こうした、転職市場での自院の立ち位置を調べるには、周辺医療機関の求人情報をリサーチする、あるいは紹介会社に地域相場を問い合わせるなどの方法も有効です。全ての条件を平均に合わせる必要はありませんが、たとえば求人情報の年収が相場より低いと、そもそも求職者の検討対象に入らなくなってしまう可能性が高くなります。また、近隣施設の相場感がつかめれば、勤務日数や勤務時間で差別化をはかるなど、より採用戦略を考えやすくなるでしょう。

次に、医師の転職の背景や最近の傾向を見ていきます。

「週5日勤務」で出会いのチャンスがほぼ半減?

図3

全体に共通する特徴としては、働き方改革の影響もあり、医師にもいわゆるホワイトカラーの考え方が浸透してきているという点が挙げられます。

たとえばエムスリーキャリア登録医師のデータによると、全体の43%が「週4.5日以下」の勤務を希望すると回答。つまり、求人票の勤務日数を「週5日」としてしまうと、それだけで4割強の医師の希望条件に当てはまらなくなるということです。これでは採用のチャンスも大幅に減ってしまいます。

また、以前なら「当直はやって当たり前」という感覚が一般的でしたが、近年は「当直の回数が多すぎる」という理由で転職する医師も少なくないようです。エムスリーキャリア登録医師においても、約40%が「当直なし」を希望しています。特に「週2回以上の当直が入ると厳しい」という声が多く、常勤医には長期勤務をしやすい環境を整えるために当直を免除し、非常勤医で対応するなどの工夫をしている医療機関もあるそうです。

その他、女性医師の増加に伴い、出産・育児など家庭との両立を重視しながらも、「復帰後はしっかり働きたい」「実績をあげて評価してほしい」というキャリア志向の方も多くなってきています。今後は、単純に時短勤務の体制を整えるだけでなく、本人のキャリアプランを反映した働き方を実現できるような仕組みづくりも必要になってくるでしょう。このように、社会の変化に伴い医師が転職先に求めるものも変化してきているのです。

なお、年代別では下記のような傾向が見られます。

医師の年代別の傾向

●30代:プライベート < 医師としてのキャリア
成長意欲が高く、体力的にも余裕がある時期。
「民間で特定の手技の症例を積みたい」「医局で資格取得後に手技を積める職場にいきたい」など、経験やスキルを重視して転職を選ぶ傾向があります。また、実績に対する評価を給与にしっかり反映してほしいと考える医師が多いです。

●40代:プライベート = 医師としてのキャリア
医師として最も脂ののっている時期。
一方で、自身のライフイベントをきっかけに働き方を見直す医師も少なくありません。たとえば「子どもの受験や進学に備え、収入を増やしたい」「30代は仕事ばかりだったが子どもの教育のためにも家族と過ごす時間を増やしたい」と転職を考えるケースも。徐々に体力の低下を感じワークライフバランスを重視する傾向が強まっていきます。

●50代:プライベート > 医師としてのキャリア
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を意識して自身の働き方を考える時期。
体力の低下やスキルの打ち止め、医局内での立場への不満、マネジメント疲れなど様々な悩みを抱えています。ワークライフバランスを重視する傾向が強く、特に「当直なし」を希望する声多数。

今後は若手医師の転職が減る可能性も

ここまで医師採用の現状や傾向を見てきましたが、今後はどのような変化が予測されるでしょうか。医師の働き方改革はまだあまり進んでいませんが、上述した通り勤務日数や当直に関しては、既に医師の意識は変わってきています。一般的に当直は勤務時間としてカウントしていない医療機関が多いようですが、今後は扱いがより難しくなることが予想されます。

関連して、固定残業代の問題もあります。
2017年、“医師に対する残業代込みの定額年俸が有効か否か”を争う訴訟の上告審で、「残業代と基本給を区別できない場合は残業代が支払われたとは言えない」という判決が出たことは記憶に新しいと思います。これまで、医療機関の求人では残業代を含んだ年収=定額年俸を記載するのが一般的でしたが、今後は基本給と残業代をしっかり分けて明記し、超過分については追加で残業代を支払う義務が生じます。こうした変化も鑑みて、求人票の作成や医師との折衝を行うことが求められるでしょう。

また、新専門医制度により若手医師の転職は減る可能性があります。
新制度では、専門医研修にあたる基幹施設になるための要件が厳しく、大学病院が中心となって連携する医療機関へ研修医を循環させます。これにより、大学病院などの大病院に指導医や専攻医が集中すると予想されているのです。結果として医局の力が強まり、若手医師の民間病院への転職が減少。もしそうなれば、今後は30代よりもセカンドキャリアを求める40・50代医師の転職ニーズが高まっていくかもしれません。

目的に応じた採用手法を選びましょう

最後に、医師の採用手法について触れたいと思います。
図3にあるように、現在も医師の転職の約40%は医局人事によるもので、もっともメジャーな採用ルートとなっています。続いて、知人紹介による採用が約21%と、医師同士の縦や横のつながりが採用においても大きな影響を有していると言えるでしょう。こういった傾向自体は従来とあまり変化がありません。一方で、転職する医師の増加に伴い、最近では採用手法も多様化してきました。

図4

現在、比較的利用されやすいものとしては、人材紹介会社が挙げられます。一方で、コストをかけてでも採用成功率を高めたい法人は、採用ノウハウを持っている担当者へ業務を委託(アウトソーシング)する採用支援や、ヘッドハントなどを利用することが増えてきています。今後、若いドクターに対してはSNSを利用した認知活動なども効果的でしょう。その他には、広告費を支払って医師向けのメディアなどを通じ発信していくという手もありますが、メディアによって女性向け、若手医師向け、など利用者層は様々なので、活用する際はターゲット像にあわせて媒体を選びましょう。

採用において最も大切なこととは?

このように、医師採用の市場拡大に伴い、医師の転職の背景やニーズ、手法も多様化しています。医師の転職は売り手市場ということもあり、つい「きてくれるならどんな医師でも…」「とりあえず門を狭めないように、条件は幅を持たせておこう」と考えがちですが、対象範囲が広すぎる求人はどの医師にも響かず、かえって採用の可能性を狭めてしまう恐れがあります。人材を確保するためにまず必要なステップは、「どんな医師にきてほしいのか」を明確化することなのです。

次回は「ターゲット像の定め方」や、ターゲットとなる医師にどうやって選んでもらうかといった採用戦略について考えたいと思います。

<協力:浅見祐樹 / 取材・文:角田歩樹>

浅見祐樹(あさみ・ゆうき)
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
法政大学卒業後、事業系NPO法人にて地域活性化や災害救援に従事。「現場が第一」をモットーに、地域ニーズに合わせた事業開発を行う。その後、エムスリーキャリアに入社し、医師採用のコンサルタントとして全国の医療機関を支援。現在は約130社の医師向け紹介会社と連携しながら、医療機関向けの採用支援サービスの開発・推進を担当している。※所属は取材当時
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