その医療材料・機器、ほかの病院より高い値段で買っていませんか?~事例でまなぶ病院経営 赤字体質からの脱却~vol.4

多くの医療機関が赤字に陥っている昨今。病院経営はかじ取りが難しい時代となっています。健全経営を続けるためにはどのような点に留意していく必要があるのでしょうか。医療機関の経営コンサルティングに携わる専門家が、事例とともに医療機関の赤字経営になりやすいポイントと、解決策について解説します。

解説者:加藤隆之氏 株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員/中小企業診断士/経営学修士(MBA) 

第4回目の事例は医療材料費の価格に悩む病院です。
病院の利益を増やすには、収入を増やすかコストを抑えるかの2択しかありません。しかし収入を短期的に上げるのは簡単ではないため、経営者は日々「コストをどう抑えるか」ということに頭を抱えています。
コストの中で一番比率が大きい人件費は、医療業界では収入を生み出すための原資ですので容易に手は出せません。このため、多くの医療機関は、その次に比率が大きい「医材・薬剤費」を削減できないかと考えるのです。今回は、その中でも医療材料費にフォーカスを当て、販売元・代理店・病院・実際に使う人(医師、看護師)の関係性(利害関係)を整理した上で、コスト削減がなかなか進まない理由とその対処法を考えていきたいと思います。

目次

D病院(149床の急性期病院)の事例

【基本情報】

  • 東京都内にあり、病床数は149床(一般病床149床)
  • 二次救急

【補足メモ】

  • 整形外科の病院として、地域に密着した病院運営をしてきた

D病院で起きている経営課題

用度課の購買・物流管理業務担当は1名だが、人材がなかなか定着しない。特にここ10年間は、2年ごとに担当者が代わっていて、業務のノウハウが十分に引き継がれていないのが課題だ。過去には、担当者が1か月程度不在で、総務課長が兼任している時期もあった。

とはいえ、SPD(院内物流管理システム)を導入しており、週に3回の納品と、営業担当者の定期的な訪問があるため、日々の基本的な物品には困っていない。B社のSPDを導入してから8年になるが、手術材料・医療機器はほとんどB社から購入している。営業担当者はとても人柄がよく、院内の多くの職員と関係性を築いているし、医師には新製品を積極的に紹介してくれているようだ。

D病院には購買に関する検討委員会はない。医療機器などを購入する際は稟議書を作成し、経営会議での審議を経て決定している。現場から購入したい製品について声が挙がると、購買担当がB社に「競合はどんな製品があるのか」とヒアリングし、医師に確認した上で2製品の見積もりをとっている。そして、念のためほかの代理店にも同じ2社の製品について相見積もりを取っている。

ある時、相見積もりを依頼中の医療機器について、購買担当者が販売元から直接製品の説明を聞く機会があった。そのやり取りの中で、B社の見積もりの販売金額には、かなり高額な手数料が上乗せされていることが発覚したのだ。驚いて販売元に「どうしてこのような状況になっているのか?なんとかならないか?」と尋ねると、「D病院様へは、B社様を通じて製品を卸させていただくことになっているので……」と濁した答えが返ってきた。いろいろ探ってみたところ、どうも当院は医療機器販売元の間で“B社病院”と揶揄されているようだ。

今後も、B社分の高額な手数料が上乗せされた割高な価格で製品を購入し続けるのは避けたい。だが、これまで相見積もりでほかの代理店がB社よりも安い価格を示してきたことは一度もなかった。「ほかの代理店を使ったとしても、価格は結局下がらないかもしれない」「適正な価格で製品を購入するにはどうすればいいのだろうか」――。購買・物流管理業務担当者は頭を抱えてしまった。

D病院の経営を改善するヒント

  • 一般的に、医療材料・医療機器の価格はどのように決まっているかを理解する
  • 自院の医療材料・医療機器の価格に、大きな影響を与えている関係者を把握する

【解説】

貴院が購入している医療材料・医療機器は本当に「適正な価格」ですか?

医療機器は、販売元(メーカー)から代理店を通じて病院に納品されます。多くの医療機関での購入プロセスは、以下のような流れでしょう。

  • 実際にその製品を使う現場の医師・看護師の意見もふまえて、製品・予算を検討
  • 製品が決まったら、各代理店に相見積もりをとる
  • 病院の経営会議や購買委員会での審議
  • 購入

コスト削減には製品選びも重要です。類似の機能を持つ複数の製品がある場合、まずどの製品を購入するかを選ぶ必要がありますが、第一関門となるのは、その製品の使用者です。医師や看護師が高価格の製品を選ぶか、低価格の製品を選ぶかで、コストは大きく変わってきます。

購買担当者は「医師や看護師はコスト削減に表面的には協力してくれているが、強く進めてはくれない」と感じることが多いのではないでしょうか? 使用者の立場では「値段を優先すると、使用できるものが限られてしまう」「好きな製品・慣れた製品の方がいい」と考えがちです。製品選定の際に現場に意見を尋ねると、事務方が想定していた価格帯以上の製品を推してくることもあります。

コスト削減に院内の人間をどう巻き込んでいくかはとても重要で、うまくできれば効果も大きいのですが、その点については病院事務管理職のすゝめ~vol.3でお伝えしています。本稿では皆さんがつい忘れがちな、院外で起きていることについて考えていきたいと思います。

さて、製品の選定は確かに一苦労です。しかし、製品が決まって、相見積もりをとり、経営会議や購買委員会で承認を得られさえすれば、本当に「適正な価格」で製品を購入できるのでしょうか?院内で進めていると思いがちな「製品の選択」や「価格の決定」ですが、実は院外でもさまざまな利害関係が働いているのです。

販売元や代理店が製品選定や価格決定に持つ影響力とは?

代理店の影響力が大きいケース

D病院では、代理店が医療機器の価格決定に大きく影響力を持っているようです。

SPDから手術関係、医療機器まで、購買・物流管理の代理店を1社に絞ってしまうと、代理店同士の競争原理が働かないため、製品価格が高騰していくのは当然のことです。

購買担当者は「別の代理店に相見積もりを取って、B社以上に安くなることは一度もなかった」と話していましたね。販売元はB社に配慮して、ほかの代理店にB社よりも低い価格を提示していないのでしょう。それは、販売元が「D病院の購買を一手に担っているB社と良好な関係を築かないと、この病院で販路を継続していくことは難しい」とわかっているからです。

では、競争原理が働くようにするには、どうすればよいのか? 病院の購買・物流管理をB社に独占させないことです。

例えばSPDを他社のシステムに入れ替える、手術材料は他代理店から購入する、医療機器は他代理店から購入する……など、さまざまなやり方があります。SPDについても、「他社への入れ替えを検討することもなく長年惰性で継続しているうちに、少しずつ利用料が高くなっていた」というのはよくある話です。他社へ切り替えた直後はB社が幅を利かせていた後遺症により、製品価格が現状より高くなる可能性もありますが、勇気をもって進めるしかありません。2~3社から均等に納品されるようになってくると、競争原理が働き始めます。見積もりをとる場合も、ある製品はB社でとったとしても他社製品は他の代理店のみで見積もりをとるなどの工夫も必要でしょう。

また、D病院の場合、購買担当が定着しないため、院内に購買のアンテナを張っている人がいないことも問題です。「競争原理が働いていない」という危機感が院内になかった、大きな要因だと思います。これまでの歴代担当者間で業務やノウハウの引継ぎ、危機意識の共有がされていれば、もっと早い段階でこの問題に気づき、対応できていたかもしれません。一方で、購買担当と業者との癒着に発展するのを防ぐため、1人があまりに長く購買担当者を続けることも控えた方がいいでしょう。

「業者との良好な関係性を保ちつつ、常に競争原理を働かせるにはどうすればいいのか」を常に考えられる組織でなければいけません。

販売元の影響力が大きいケース

製品の販売元が、貴院の医療材料費に大きな影響を与えている可能性もあります。

冒頭でお話したように、製品選びにおいて「使用者」の意見は院内で重視される傾向にあります。だから販売元は、現場の医師に自社の製品を選んでもらえるよう直接アプローチしているのです。わかりやすい接待や金銭の譲受はできない時代になりましたが、それに代わる手法で医師との関係性を構築しようしています。

例えば、学会や地域勉強会での講師依頼です。医療機器の販売元が企画するランチョンセミナーや勉強会に医師を講師として招く場合、10万円単位の講師料が支払われることは珍しくありません。学会等なら販売元が会場までのアテンドもしますので、交通費や宿泊費も販売元が支払います。また、学会など大規模なものだと、全国にチラシが配布されるため、医師にとっては知名度向上にもつながります。

医師が製品を選ぶ際、「この製品は使い勝手がよい」「この製品の臨床論文はよい成績だ」など、事務方にはわかりにくい理由を挙げて、その製品以外には選択の余地がないかのように話を進めようとする場合、ひょっとするとこのような事情が隠れているかもしれません。経営者は、自院の医師が発表する学会や勉強会のスポンサーにも目を光らせておきましょう。

病院経営者が「無駄なコストはないか」「適切な製品を適正な価格で購入しているか」と考えるとき、取引先、ときには職員さえも疑わなければなりません。孤独でつらい立場ですが、それが病院の経営を支え、職員の雇用を維持し、地域の医療を守っていくことにつながります。胸を張って、製品の見直しやコスト削減に取り組んでいただきたいです。

最後に……。医療材料の購買について怪しいと感じるケースが見つかった場合は、外部に調査を依頼するのも一つの手です。院内だけで抱えることが難しい場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

【筆者プロフィール】

株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員 加藤隆之
中小企業診断士 経営学修士(MBA)
「事例でまなぶ病院経営 中小病院事務長塾」 著者
病院専門コンサルティング会社にて全国の急性期病院での経営改善に従事。その後、専門病院の立上げを行う医療法人に事務長として参画。院内運営体制の確立、病院ブランドの育成に貢献。現在は日本M&Aセンターで医療機関向けの事業企画・コンサルティング業務等に従事する傍ら、アクティブに活躍する病院事務職の育成を目指して、各種勉強会の企画や講演・執筆活動を行っている。

病院経営に関するご相談、事業承継に関するご相談は、
株式会社日本M&Aセンター(https://www.nihon-ma.co.jp/)まで(代表:0120-03-4150)

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