常勤医師の大量離職、病棟閉鎖…研修医確保の危機を覆した、利根中央病院のリクルート術とは―病院マーケティング新時代(25)

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本連載について
人口減少や医療費抑制政策により、病院は統廃合の時代を迎えています。生き残りをかけた病院経営において、マーケティングはますます重要なものに。本連載では、病院マーケティングサミットJAPANの中核メンバー陣が、集患・採用・地域連携に活用できるマーケティングや広報の取り組みを取材します。

著者:小山晃英(こやま・てるひで)/病院マーケティングサミットJAPAN Academic Director
京都府立医科大学 地域保健医療疫学
京都府立医科大学附属脳・血管系老化研究センター 社会医学・人文科学部門

目次

2020年度の臨床研修マッチングに参加している病院は900弱あり、大学病院を含めると1000件近くにのぼります。臨床研修マッチングは、学生にとって最初の研修先を選ぶための大きなイベントです。一方で、病院にとっても医師を確保するための重要な機会となっています。医師に選ばれる病院となるためには、院内で働く医師だけでなく、彼らを支える専属事務の存在が不可欠です。今回は、病院マーケティングサミットJAPAN2020の「医師採用戦国時代〜人財確保のNewNormal〜」セッションに登壇された利根中央病院(253床、群馬県沼田市)の医局事務課、臨床研修担当の丸山和希さんに、独自の医師採用ノウハウについてお話しを伺いました。

丸山和希さん(一番左)

常勤医師の大量離職、病棟閉鎖…逆境からスタートした事務職としての仕事

──12月1~5日に開催された「病院マーケティングサミットJAPAN2020」へのご登壇ありがとうございました!丸山さんはもともと調理師として勤務されていたと伺いました。どのような経緯で、現在の医局事務課へ異動されたのですか?

2011年の部署新設に伴い、栄養課から医局事務課へ異動の打診があり、引き受けました。まずは医学生担当として、医学生の見学窓口やマッチングに向けたリクルート業務を5年ほど行い、2016年10月からは臨床研修担当として、初期研修医のマネジメントや後期研修医のリクルートなどを行っています。

──医療従事者から事務職への転身、ご苦労もあったのではないでしょうか。

事務職の業務に慣れることはもちろん大変でしたが、それ以上に病院としての危機に直面する中で自分の役割を作っていく大変さがありました。というのも、私が異動する前年の2010年に常勤医師の大量離職という一大事が起きていたのです。指導医の減少、病棟閉鎖などネガティブなイベントが続く中、研修医確保が急務となるも、病院見学にもなかなか来てもらえない…という逆風の中でのスタートです。

リクルートしようにも対象者がいないという状況に対し、自分の役割を理解して何をしていけばいいのか業務設計することから始めなければなりませんでした。

──パイオニアですね。コミュニケーション能力が必須のポジションなので、丸山さんのキャラクターがあってこそ選ばれたのだと思います。具体的にどんなことから始めたのですか?

「何とかして多くの医学生に利根中央病院をアピールしよう」と、取り組んだのがFacebookページの立ち上げと、地域の観光資源とタイアップした実習企画です。

Facebookページでは、主に研修医の日常の様子を発信しています。また実習では、たとえば夏ならBLSやアウトドアにおける外傷対応のレクチャーを行った後、ラフティングに出かけたり、冬はスキー場のパトロール隊から病院前救護のレクチャーを行っていただく一方でスキーやスノーボードを楽しんだりと、研修内容だけでなくレジャーを通してエリアの魅力が伝わるような企画を開催しました。

最近では外部から有名講師を招いた温泉宿でのセミナーを年2回開催し、参加者に当医療圏の魅力や地域性を楽しんでもらっています。

事務として臨床研修に携わる中で、医学生や医師に対する理解を深める必要や、広報のスキルアップに課題を感じ、関連書籍やセミナーなどを通じでの学習も行ってきました。病院マーケティングサミットJAPAN2019に参加したのも、そういった背景からでした。

──人と人をつなぐ仕事は、自分のペースだけで仕事が進められない難しさがあると思います。どのような時に研修担当事務のメリットを感じますか。

規模の大きな病院であれば、医師がリクルートや広報を対応するケースもあるでしょう。しかし病院の規模が小さくなるにつれ、診療業務で忙しくそこまで手が回らないのが実情かと思われます。そこに研修担当の事務が入れば、大病院よりも迅速かつ細やかな対応が可能になります。

ただし、医師が少なく小規模な病院ほど、事務職の役割・業務量も増加傾向にあるので、業務負荷とのバランスには皆さん悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。

「とにかく病院を知ってもらう」ための施策とは

──貴院での取り組みについて、もっと詳しく教えてください。

当院は総合診療科を筆頭に、群馬県内では一定のネームバリューがありますが、全国規模ではまだまだ認知度が低いです。リクルートのためには、全国の医学生を対象に当院を知ってもらうことを最重要視しています。

たとえば合同説明会で「はじめまして」の場合、次のステップは見学に来てもらうことです。夏の説明会に来てくれた学生がその夏休み中に来てくれれば話は早いですが、実際には次の長期休みに期待する、という状況だと思います。そうなると、夏休みから次の春休みまで、いかに病院名を認知してもらい、つなぎとめるかがポイントになります。

当院では、地域住民や地域の開業医向けに発行している機関紙を、説明会に来てくれた学生にも毎月郵送しています。あくまで病院名の認知とつなぎとめが目的なので、内容より継続性を重視しています。

──意識の高い学生は、学年が上がるごとに長期休みを利用して、旅行がてら気になる病院へ見学に行っているイメージですね。高学年で突然見学に来ることもありますか?

ありますね。医学生は忙しいので、5年生以降で見学に来る学生はマッチングまでの間に1回きり、というのがほとんどだと思います。つまり1回の見学を通じて、スタッフの関係性や働きやすさがどうかなど、研修先の候補としてふるいにかけられるということです。

しかし、1回の見学の中で伝えられる情報量には限度があります。伝えきれなかった研修環境の魅力・情報を提供する機会をいかにつくっていくか、が重要です。

そこで当院では、見学・実習に来た医学生に名刺を渡し、Facebookをやっているようであれば積極的に友達申請とページのアピールを行っています。

ホームページは閲覧者に目的がないとアクセスしてもらえませんが、Facebookは1度ページに「いいね!」をしてもらえれば情報を届けることができます。さらに拡散性があるので、多くの人に病院を知ってもらうためには効果の高いツールです。

またイベント案内においては、当院のページに投稿するだけでなく、より多くの人に拡散するために、医師・医学生が集まるグループにも記事をシェアしています。

利根中央病院のFacebookの投稿の一部

──ほとんどの学生が、情報取得ツールとしてSNSも利用していますからね。SNS利用による効果は感じますか?

Facebook開設後、合同説明会などで当院のブースめがけて来てくれる学生が増えた印象を受けます。また実習・見学件数では、大学のカリキュラムとして最長4週間という単位で来てくれる学生や、事前の面識なく見学を申し込んでくれる学生が増加しました。幸いマッチングでも、2017年からはフルマッチが続いています。

今の医学生は、FacebookよりもTwitter・Instagramをメインで利用しているので、今後はFacebook以外の媒体での広報が課題と感じています。

自ら多くの先生とつながり拡散力強化!コミュ力を生かした採用戦略とは

──成果が素晴らしいですね。SNSを運営する上で注意すべきことはありますか。

病院のページだけを運営していても知名度がないと注目を集めることはできませんし、SNSの運用を医師だけに任せてしまうと、タスクの優先度からどうしても更新頻度が下がりやすくなってしまうので、事務の介入が不可欠です。

私は情報をより広げるために、自分自身が多くの先生方とSNSでつながり、さらにその先へ拡散していくことも意識しています。

──まずは、丸山さん個人がどんどん人とつながることで拡散力を高めているのですね。どんなことを意識し行動されていますか?

著名な先生方とつながるために、積極的に病院の外に出ることはとても意識しています。医師が集まるイベントでは『情報交換会』がつきものです。事務がそういった場に参加するだけで印象を残すことができますし、名刺交換だけよりも強い関係性を作ることができていると思います。

これまでに参加したイベントの例

──後期研修(専門医研修)に向けたアプローチは、どのようにされているのでしょうか。

後期研修になると、ターゲット層の間口は一気に狭くなります。当院の基幹プログラムは内科、総合診療科です。当院の総合診療科は群馬大学からの派遣ではなく、プライマリ・ケアを中心とした『家庭医療』に救急・重症管理をプラスした医療活動を独自に展開しています。今では医学生を中心に、全国各地から当院の総合診療科に興味を持ち見学に来てくれるようになりました。

また、総合診療の領域において著名な先生方にもお越しいただき、医学生・研修医対象にレクチャーをしていただくことで、参加者から『群馬にいながらハイレベルな研修を受けられる』という評価をいただいています。講師の先生から研修先として当院を勧めていただき、採用につながったケースもありました。

研修医・医学生教育の領域で著名な講師を招き、セミナーを開催

外部講師を招聘し外からの風を入れることは研修医にはもちろん、指導医にとっても有益だと感じています。特に医師の入れ替わりが少ない病院では、院内のやり方やルールに捉われてしまい、実は他所とのスタンダードからズレていた、なんてことも起こりえます。外部講師が入ることで、自院の研修を見直すきっかけにもなるのではないでしょうか。

「スノボ代補助します」地域性を武器にした研修コンセプト

──働き方のアピール方法も工夫されているそうですね。

研修環境のアピールにおいて、指導体制や症例数などの紹介はどこもやっているので、それだけだと競合との差別化になりません。群馬県内の他の研修病院との圧倒的な差別化を考えたときに着目したのが、豊富な自然を活かした観光資源でした。

群馬の研修病院はほとんどが県南部にあります。当院は県内で最も北の基幹型病院となっており、医療圏内には温泉やスキー場といった観光資源が多く存在します。ここだけは他の病院には絶対マネできません。観光資源を息抜きの機会に使ってもらい、無事に2年間の研修を修了してほしいという思いを込めて、「ON-OFF両立」という研修コンセプトと、『アクティビティ補助』という制度をつくりました。

利根中央病院が押し出すonとoffの両立

具体的には、医療圏内でアウトドアアクティビティを使用した際の費用を病院が補助するという内容になっています。病院のことは多少知っていても、地域のことはほぼ知らないという研修医がほとんどなので、この制度を通じて楽しみながら地域のことも知ってもらえればと思っています。実際に就職してからも、こういったアクティビティを通じて同期内、研修医内の親睦を深めるなど、有効に活用してもらっています。

豊富な自然を活用した観光資源をアピール
研修医を対象とした独自のアクティビティ補助制度

──これまでは医学生~研修医のリクルートについてのお話でしたが、最後に研修医以外の採用について、考えを教えていただけますか。

当院も紹介会社を利用していますが、なかなか厳しいのが実情です。

あくまで私見ですが、ピンポイントで行きたい病院がある方は紹介会社を利用しないので、多くの求職者は①どこのエリアで②どんな働き方がしたいのか、という大きく2点から病院を探しているのではないかと思います。

ということは、病院側は「自院ではどんな働き方ができるのか」「現場の雰囲気はどんな感じか」といった部分をアピールできれば、転職希望者とのマッチングにつながるのではないでしょうか。特にコロナ禍でのリクルートにおいて、多くの病院が『問い合わせ待ち』の姿勢になってしまうと思うので、情報提示の仕方や見せ方での差別化がポイントになると考えています。

<取材をしてみて>

丸山さんが「現状では医師のリクルートに携わる事務の育成システムがないため、個々人の意識と努力次第、といった側面が強いように感じます。自己流で経験とノウハウを積むしかないのが実情です」と仰っていたのが印象的でした。今回の事例は、丸山さんのコミュニケーション能力とフットワークの軽さが、あったからこそでしょう。研修内容の整備・標準化が進む中で、他院との違いを生み出すポイントは、担当事務の“伸びしろ”にあるのかもしれません。

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