
DPC係数に関する概要
DPC/PDPSについておさらい
DPC/PDPS(診断群分類に基づく支払い方式)は、急性期一般入院基本料及び特定機能病院入院基本料(7対1入院基本料、10対1入院基本料)の入院を対象とした急性期医療の診療報酬支払制度です。DPC/PDPS(以下DPC)による請求は、診断群分類コーディングに導かれる包括点数(包括評価部分)と手術・麻酔料などの実施した手技などの出来高点数(出来高評価部分)等からなります。包括点数は「診断群分類毎の1日あたりの点数×医療機関別係数×在院日数×10円」により計算します。この医療機関別係数は、医療機関の機能や患者構成の違い等を考慮した個別係数からなり、5つの係数「機能評価係数Ⅰ・機能評価係数Ⅱ・救急補正係数・基礎係数・激変緩和係数」で構成されます。
医療機関別係数
医療機関別係数にはそれぞれの意味と評価される視点があります。
- 基礎係数…医療機関群ごとに設定する包括点数に対する出来高実績点数相当の係数
- 機能評価係数Ⅰ…入院基本料の差額や入院基本料等加算相当の係数
- 機能評価係数Ⅱ…医療機関が担う役割や機能等を評価した係数
- 救急補正係数…救急医療入院における入院初期の医療資源投入の乖離を補正した係数 激変緩和係数…診療報酬改定時の点数変化(激変)を緩和した係数(該当医療機関のみ設定)
また、各係数は、更新されるタイミングが異なります。
- 基礎係数:2年ごとの診療報酬改定時(6月)
- 機能評価係数Ⅰ:個々の施設基準を届出して算定を始める時
- 機能評価係数Ⅱ:毎年(6月)
- 救急補正係数:毎年(6月) 激変緩和係数:診療報酬改定のタイミングで一年間限り
基礎係数の3つの病院群と診療密度
医療機関別係数の基礎係数には3つの病院群が設定されています。最も基礎係数を高く評価したのが「大学病院本院群」になります。大学病院本院以外で特に機能性が高い医療機関(大学病院本院に準じた診療密度とその他の機能を有する)を「DPC特定病院群」として指定し、残りの大多数の医療機関を「標準病院群」に括っています(図1)。
DPC特定病院群の要件にある「診療密度」とは、入院診療に対する資源投入レベルを見る指標として用いられており、例えば「当該医療機関が全DPC対象病院の平均的な患者構成と同様な患者群に対して診療を行ったと仮定した場合」という指数計算上の意味は、全医療機関の入院基本料をA100急性期一般入院基本料6に補正し、DPC対象病院間で比較が可能となるように調整しています。
参考)3つの病院群
<令和6年度改定>
DPC標準病院群…1.0451(データ90未満 1.0063)
大学病院本院群…1.1182
DPC特定病院群…1.0718
図1 DPC特定病院群の要件(図2)※1から4をすべて満たす
診療密度 1日当たり包括範囲出来高平均点数 (全病院患者構成、後発医薬品補正;外的要因補正) 診療密度 = [1日当たり包括範囲出来高平均点数(全病院患者構成で補正;外的要因補正)] 当該医療機関において症例数が一定以上の(1 症例/月)診断群分類に該当する患者について、当該医療機関が全DPC対象病院の平均的な患者構成と同様な患者群に対して診療を行ったと仮定した場合の1日当たり包括範囲出来高実績点数 医師研修医の実施 許可病床1床あたりの臨床研修医師数 (基幹型臨床研修病院における免許取得後2年目まで) 医療技術の実施 医療技術の実施(6 項目のうち 5 項目以上) <外保連試案> (3a):手術実施症例1件当たりの外保連手術指数(3b):DPC算定病床当たりの同指数(3c):手術実施症例件数 <特定内科診療> (3A):症例割合(3B):DPC 算定病床当たりの症例件数(3C):対象症例件数 補正複雑性指数 全DPC対象病院データの平均在院日数より長い平均在院日数の診断群分類の中で、1日当たり包括範囲出来高実績点数が平均値より高いDPCを抽出し、これらで複雑性指数を算出
DPC係数に関する2024年度改定
月当たりデータ数が90未満の病院は、DPCから退出へ
令和6年度の改定において機能評価係数Ⅱの中の「効率性係数」がこれまでの指数とは異なる係数評価へと見直されました。そしてDPC対象病院の基準の中に新たな条件として「調査期間1カ月当たりのデータ数が90以上である」という患者数の最低ラインが引かれました。
この背景には、データ数が90未満 /月の医療機関は、診療密度が低いにもかかわらず複雑性係数が高くなる傾向がみられたことがあります。中医協での検討の中で、そうした医療機関はDPC制度に馴染まないという見解に至り、次回改定においてDPC制度から退出(図2)することになりました(今次改定では基礎係数も別建てにされました)。
図2 DPC制度からの退出(DPC制度への参加等の手続きについて)一部抜粋
診療報酬改定時の前々年度の10月から前年度の9月までのデータにより判定し、基準を満たしていない病院に対して結果を通知するものとする。当該基準を満たしていない病院(特定機能病院を除く)は、判定後の直近6月1日にDPC制度から退出するものとする(判定後の直近の4月1日以降新たに入院する患者から医科点数表により算定を行うものとする)
「救急医療係数」から「救急補正係数」への変更
先述したDPC対象病院の条件の厳格化に加え、救急医療係数は機能評価係数Ⅱの枠組みから外されました。名称も「救急補正係数」と変わり医療機関別係数の1項目に追加されました。これにより、機能評価係数Ⅱは地域医療係数、効率性係数、複雑性係数、カバー率係数の4つの評価(図3)となりました。
図3 機能評価係数と評価内容
係数 評価の考え方 評価内容 地域医療係数 体制評価指数と定量評価指数(行かシェアは7:5) 体制評価指数:5疾病6事業等を含む医療提供体制における役割や実績を評価。
定量評価指数:[当該医療機関の所属地域における担当患者数]/[当該医療機関の所属地域における発生患者数]
小児(15歳未満)とそれ以外(15歳以上)に分けて評価
DPC標準病院群は二次医療圏、大工病院本院群及びDPC特定病院群は三次医療圏のDPC対象病院に入院した患者を対象とする。効率性係数 各医療機関における在院日数短縮の努力を評価 [全DPC/PDPS対象病院の患者構成が、当該医療機関と同じと仮定した場合の平均在院日数]/[当該医療機関の平均在院日数]
※当該医療機関において、12症例(1症例/月)以上ある診療群分類のみを計算対象とする
※包括評価の対象となっている診療群分類のみを計算対象とする複雑性係数 1入院当たり医療資源投入の観点から見た患者構成への評価 [当該医療機関の包括範囲出来高点数(1入院当たり)を、包括対象の診療群分類ごとに全病院の平均包括範囲出来高点数に置き換えた点数]/[全病院の平均1入院当たり包括点数]
※当該医療機関において、12症例(1症例/月)以上ある診療群分類のみを計算対象とする
※包括評価の対象となっている診療群分類のみを計算対象とするカバー率係数 様々な疾患に対応できる総合的な体制について評価 [当該医療機関で一定症例数以上算定しているDPC数]/[全DPC数]
※当該医療機関において、12症例(1症例/月)以上ある診療群分類のみを計算対象とする
※包括評価の対象となっている診療群分類のみを計算対象とする
この中で地域医療係数は、体制評価指数と定量評価指数で構成(評価シェアは7:5)とし、体制評価指数は、次の項目が改定によって追加されています。
<体制評価指数>
従前の10項目に3項目追加。
- 臓器提供の実施
- 医療の質向上に向けた取組
- 医師少数地域への医師派遣機能(大学病院本院群のみ)
<感染症>新興感染症に係る協定締結(令和7年度~)
<実績評価>50%tile値を上限値として評価(DPC標準病院群を除く)
また、効率性係数は、平均在院日数の短縮を評価したものですが、効率性指数の算出の計算式が代わり、指数を求める分母が「当該医療機関の平均在院日数」に置き換わったことにより、ますます入院期間Ⅱを意識した在院日数の調整と平均在院日数短縮が重要視されるようになりました(図4)。

DPC関連の改定内容のポイント
医療機関別係数の改定部分をみると救急補正係数が独立したことにより、救急医療に着目した様々な評価へと広げることができるため、次回以降の改定見直しに備える必要があります。この救急補正係数は、救急入院となる患者を対象に入院2日目までの資源投入量を評価したものですが、係数評価の対象となる救急医療管理加算の保険請求に対し、査定・返戻対策をしっかりと強化すべきではないかと思います。実際、救命救急入院料や救急医療管理加算の審査は年々厳しくなっています。
一方、DPC関連の最重要事項としては、次期改定でDPC対象病院の枠組みが見直されることを踏まえると医療機関別係数の影響分析や患者構成の変化を捉えたマネジメント力の向上が必要です。そのポイントは、医師との調整力やDPCデータに基づいた情報提供や医療者への周知をいかに日常的に行って行くのかが鍵です。例えば前述の効率性係数では、自院(当該医療機関の平均在院日数)を分母に自院の診断群分類ごとの平均在院日数を全DPC対象病院の日数(入院期間Ⅱ)に置き換えて平均在院日数を算出することに指数計算方法が変更されました。これが何を意味するのか、対策を検討し、課題を医師や看護師等と共有する必要があります。実際、新たな効率性係数は、自院の症例数の多い診断群分類に対して入院期間Ⅱを基準に適切に短縮させることが効果的であることがわかります。ここで重要なことは、継続性を持たせるために院内の組織的な活動と結びつけることです。効率性係数の場合にはDPCデータ(診断群分類別分析)からターゲットを決め、クリニカルパスの見直しを改定時に速やかに適用させることなどが挙げられます。