「地域医療構想」とは ~いまさら聞けない医療・介護業界用語Vol.1

いまさら聞けない医療・介護業界用語

ニュースや資料でたびたび見かける医療・介護業界ならではの用語。ぼんやりと理解しているけど、部下や同僚に説明できる自信はない…。当シリーズではそんな方々に向けて、医療制度や介護制度、病院経営に関する用語を解説します。第1回は「地域医療構想」です。

地域医療構想とは?策定の経緯と目的

地域医療構想は、将来の人口構造の変化に対応し、質の高い医療を効率的に提供できる体制を地域ごと(構想区域ごと)に築くためのビジョンです。

構想が目指す2025年の医療提供体制

地域医療構想が目指すのは、2025年時点での医療需要と、それに見合った医療提供体制を地域ごとに明確化し、実現することです。具体的には、各地域で将来どれくらいの「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の医療ニーズが発生するかを推計し、その受け皿となる病床数を確保することを目指します。 これにより、各医療機関が地域のニーズに応じて自院の役割を最適化し、医療機関同士が連携することで、地域全体で切れ目のない医療・介護サービスを提供できる体制を構築します。

策定の背景にある人口構造の変化

この構想がつくられた背景には、急速な高齢化と生産年齢人口の減少があります。特に団塊の世代が75歳以上となる2025年以降、医療・介護の需要はピークを迎えます。 一方で、医療を支える労働力は減少していくため、従来通りの医療提供体制では、必要なサービスを維持できなくなる恐れがあります。限られた医療資源(人材・施設・財源)を最大限有効活用し、将来にわたって持続可能な医療提供体制を確保するために、地域医療構想が策定されました。

地域医療構想の全体像を3つの要素で理解する

地域医療構想は、主に「構想区域」「4つの医療機能」「地域医療構想調整会議」という3つの要素で構成されています。それぞれの役割を理解し、全体像を掴みましょう。

①構想の基本単位「構想区域」

構想区域とは、地域医療構想を策定・推進するための地理的な単位です。原則として、患者の受療動向などを踏まえた二次医療圏を基本単位として、各都道府県が設定します。 この構想区域ごとに、2025年の医療需要の推計と、それに応じた病床の必要量が算出されます。病院経営においては、自院が属する構想区域内の医療ニーズや、他の医療機関の動向を把握することが極めて重要になります。

②病床の役割を明確化する「4つの医療機能」

地域医療構想では、病床の役割を以下の4つの機能に分類し、各構想区域でそれぞれの機能がどれだけ必要かを推計しています。各医療機関は、毎年、自院の病棟がどの機能に該当するかを都道府県に報告(病床機能報告制度)し、そのデータが構想実現に向けた議論の基礎となります

  • 高度急性期機能: 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて診療密度が特に高い医療を提供する機能(救命救急センター、ICUなど)。
  • 急性期機能: 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて医療を提供する機能。
  • 回復期機能: 急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能(回復期リハビリテーション病棟など)。
  • 慢性期機能: 長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能(療養病床など)

③構想実現のための「地域医療構想調整会議」

地域医療構想調整会議は、構想区域内の関係者が集まり、地域の医療提供体制について協議する場です。地域の医師会、病院団体、保険者、市町村などが参加し、主に以下の事項について議論します。

  • 各医療機関が担うべき病床機能の方向性
  • 病床の転換や医療機関同士の連携・再編
  • 在宅医療や介護サービスとの連携強化策

この会議での議論が、地域の医療提供体制の将来像を具体的に形作っていきます。会議は原則公開されており、議事録も公表されるため、病院経営者はその動向を注視する必要があります。

地域医療構想の現状と直面する課題

地域医療構想は、2025年を一つの区切りとしながらも、その後も継続的に推進されていく重要な政策です。特に、第8次医療計画や医師の働き方改革といった他の制度とも密接に関連しており、病院経営者はこれらの動向を統合的に捉える必要があります。

病床機能の再編は道半ば

厚生労働省のデータによると、全国的に回復期病床への転換は進んでいる一方で、急性期病床から回復期や慢性期への転換は想定よりも進んでいないのが現状です。特に、高齢化が進む地域でも急性期病床が多く残っており、医療需要と供給のミスマッチが課題となっています。 国は、病床再編を促すための補助金制度や、再編統合に関する税制優遇措置などを設けていますが、各病院の経営判断や地域の実情もあり、必ずしも計画通りに進んでいない側面があります。

第8次医療計画との一体的な推進

2024年度から始まった第8次医療計画では、地域医療構想が計画の一部として位置づけられ、より一体的に推進されることになります。新興感染症への対応や在宅医療の強化といった新たな視点も盛り込まれており、地域医療構想の目指す方向性がより具体的かつ多角的になっています。 病院経営者は自院が地域でどのような役割を担うべきか、第8次医療計画の内容も踏まえて再検討することが求められます。

医師の働き方改革との関連性

2024年4月から本格的に適用された医師の働き方改革も、地域医療構想と無関係ではありません。医師の労働時間短縮を実現するためには、一人の医師や一つの病院に業務が集中しないよう、地域の医療機関全体で役割分担と連携を進める必要があります。 これは、まさに地域医療構想が目指す「医療機能の分化と連携」の考え方と一致します。働き方改革への対応という観点からも、地域連携の強化は重要な経営課題と言えます。

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