経営企画室編:理事長肝入りの新設室長のはずが…“舵取り役”とは程遠い業務に不満~事例でまなぶ病院経営 病院事務管理職のすゝめ~vol.4

病院事務管理職の業務に必要なスキルは、体系的に学べないものがほとんどです。経理や医事、労務管理の知識であれば書籍などで習得できますが、理事長・院長をはじめとする経営幹部が病院事務管理職に求めるスキルはそれらにとどまりません。

本連載では、病院事務管理職が経験しがちな“あるある”課題を事例として紹介します。事例を通して、より円滑に効率よく仕事するためのノウハウを学んでいきましょう。

解説者:加藤隆之氏 株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員/中小企業診断士/経営学修士(MBA) 


本連載4回目のテーマは経営企画室です。

目次

経営企画系部署の役割と業務の特徴とは?

病院運営や経営戦略の企画・推進などの役割を担う経営企画系部署。
医事課や総務課と比べると、役割・業務内容が曖昧になりやすく、病院によっても異なります。事務長候補の職員が配置されるポジションになっていることも多いでしょう。

まず経営企画系部署の役割について理解を深めるために、各部署の業務の違いを整理しました。縦軸は、業務が定型か非定型か。横軸は、長期的か短期的かを示しています。

オンライン病院事務長塾 メンバーの意見を参考に作成

経営企画課も経営企画室も、事務長や理事長のように非定型業務が多いことがわかると思います。
ちなみに、事務長や理事長の業務を非定型に分類しているのは、有事の際に対応・解決にあたれるよう、定型業務は少ない状態が理想だからです(実態は病院によって様々でしょうが…)。

図では、経営企画課と経営企画室を分けて記載しました。課と室では、組織図上は役割が大きく異なります。

「経営企画課」は、一般的に事務部の配下となります。そのため、事務長の御用聞きのような役割になってしまいがちです。
「経営企画室」は、理事長や法人本部付けになることが多く、事務部門の組織ラインにのりません。各部門と横断的に連携して、企画を推進することが期待されます。一方で、業務内容や指揮命令系統が明確でないために、周囲から「何をしているのかわからない」と捉えられることもあるでしょう。

今回は理事長の肝入りで新設された経営企画室長のお悩みを事例にしました。室長の立場になって、どのようにこの課題を解決すればいいか考えてみてください。

【事例紹介】

「経営企画室の役割が、設立当初の構想と乖離している」悩む室長

(E経営企画室・室長:43歳男性、部下なし)

X病院(急性期・81床)の経営企画室・室長として、院内での立ち位置に悩んでいる。悩みの種はB事務長。このX病院に35年勤務している、生き字引のような人だ。

最近、新しいプロジェクトが立ち上がる度に、その大半を事務長から丸投げされる。先日も事務長から突然連絡があり、「オンライン診療を導入するから進めてほしい」と言われた。プロジェクトの推進自体が嫌なわけではないが、事務長から言われるがままという現状に、釈然としない思いがある。

当院の院長は大学病院での勤務が長く、退官後に就任したいわゆる“雇われ院長“で、病院経営にはあまり興味がないようである。

理事長は経営への思いはあるものの、高齢のためあまり病院を訪れない。事務長のことはある程度評価しているが、
・病院事務に関することは、事務長以外からは発信できない雰囲気がある
・「病院の経営を継続していく為に、病床の在り方や地域との連携の仕方、運営のあり方について改革をしていきたい」という方針に、事務長が寄与していない
という点にやきもきしていたようだ。

そのような経緯で、私に白羽の矢が立ち、経営企画室・室長を任されたのが2年前である。
私は元々地方銀行の行員だったが、理事長に声をかけられて当院に入職。経理課長として働いていたが、事務長の指示のもと仕事をする日々に、少し憂鬱になりかけていた。理事長から「経営企画室を立ち上げるから、室長になってほしい。事務の枠を超えて、当院は今後どう舵取りをしていくべきか考えてもらいたい」と言われたときは、新たなチャレンジに気持ちが高揚したものだった。

しかし室長に就任しても、経理課長時代と働き方が大きく変わったわけではない。非定型業務が増えてはいるが、基本的には事務長からの指示で仕事をしているのが実情だ。

就任時は、理事長から「何かあったら個別に相談して」と言われていたが、最初に数回打合せをしたのみ。経営会議へも参加できていない。
そもそも、私は理事長からどのような役割を期待されて、室長に就いたのだろうか。「実は何の期待もされていないのかもしれない」と感じ、最近は理事長を無意識に避けてしまう自分が情けない。

経理課長時代の憂鬱な気持ちがまた戻ってきて、出勤の足取りが重くなっていく。

【解説】

経営企画室に求められる役割を自ら考え、行動しているか?

新設された経営企画室の室長に就任したにも関わらず、事務長からは相変わらず部下扱いされ、任命した理事長からのフォローもない。E室長が、憂鬱な気持ちになるのもわかりますね。

理事長は「病院の舵取り役となる部署があれば」という思い付きで、経営企画室をつくったのかもしれません。「部署を新しく作れば、院内は変わる」と思って進めたものの、役割・業務内容が曖昧だったためにうまく機能しなかった典型的な例です。

事務長も、X病院での勤務歴や理事長との付き合いが長いだけに、経営企画室について「理事長の単なる思いつきで作られた部署」だと考えているのでしょう。「室長は仕事がなさそうだ」と業務をふっているのかもしれません。指示している業務内容も企画系ですし、事務長経験のある私には、むしろ室長に配慮しているようにも見えます。

病院で企画系の部署が新設されるとき、上記のような状況になることは珍しくありません。E室長は不満を抱いていますが、その状況に甘んじているのは室長自身です。経営企画室に求められるものは何か、その役割を自ら考え、行動しているでしょうか。私としては、室長の努力不足が現状を招いていると思ってしまいます。

例えば、病院経営の舵取り役として、事業計画書やその収支計画書を作成することもできるでしょう。そのための知識・ノウハウがないなら、事務長の許可の下で取引銀行と一緒に作成すればいいのです。最近、医療担当チームを持つ銀行は増えており、病院も経営について相談しやすい環境になっています。

経営企画室は、院内にとどまらず、院外とのつながりを生かしてこそ、活躍できる部署だと思います。病院経営に関する外部セミナーを積極的に受講したり、院外に病院経営について相談できる人脈を作ったりと、室長としてできることは多いはずです。誰かの指示を待つのではなく、主体的に病院の課題を整理し、改善策を企画することが求められているのです。

「周りがなにもしてくれない」と思っているうちは何も変わりません。「自分は何ができるか」という視点で、自らを奮い立たせてみましょう。

【筆者プロフィール】

株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 上席研究員 加藤隆之
中小企業診断士 経営学修士(MBA)
「事例でまなぶ病院経営 中小病院事務長塾」 著者
病院専門コンサルティング会社にて全国の急性期病院での経営改善に従事。その後、専門病院の立上げを行う医療法人に事務長として参画。院内運営体制の確立、病院ブランドの育成に貢献。現在は日本M&Aセンターで医療機関向けの事業企画・コンサルティング業務等に従事する傍ら、アクティブに活躍する病院事務職の育成を目指して、各種勉強会の企画や講演・執筆活動を行っている。

病院経営に関するご相談、事業承継に関するご相談は、
株式会社日本M&Aセンター(https://www.nihon-ma.co.jp/)まで(代表:0120-03-4150)

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