高崎健康福祉大学 健康福祉学部 医療情報学科 4年 木村研究室
花輪雪乃
松本静流
上編
・はじめに
・高齢化率と当期純利益の関
・人口当たり病床数と黒字病院の割合における相関
・人口当たり医師数と黒字病院の割合における相関
中編
・超高齢社会がもたらす経営難への打開策を探る
・認知症治療病棟入院料1への転換シミュレーション
下編
・地域包括ケア病棟への転換シミュレーション
・終わりに
はじめに
現在、日本は世界でも類を見ない超高齢社会となっている。そして2025年には、1947~1949年生まれのいわゆる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護の需要が急速に高まるとされている。また、厚生労働省は認知症患者が2025年までに約700万人を超えると推計しており、65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症を患うことになる。同時に高齢者世帯の増加も著しく、高齢者が高齢者を介護する、いわゆる老老介護が増えつつある。
そこで我々は、今後さらに高まるであろう高齢化率に着目して病院経営分析を行った。 現在、高齢化率の全国平均は26.8%であり、2025年には30.3%にまで達すると予想されている。高齢化率が全国で最も高い秋田県が33.1%であることから、秋田県内の病院の経営状況を2025年のモデルケースとしつつ、現在の全国平均と同水準である群馬県と比較することで、日本の将来の経営像が分かるのではないかと考えた。
本研究では、秋田県及び群馬県の医療法人立の病院、公立病院を対象とした。両県より財務諸表、東北厚生局及び関東信越厚生局より加算の届出状況を取得し、財務データと高齢化率の関係性を調べた。
そして高齢化率と利益の関係、入院基本料や加算の届出状況を分析し、高齢化に伴ってニーズが強まると考えられる認知症治療病棟入院料1及び地域包括ケア病棟における病棟転換シミュレーションを行った。本研究では、高齢化が病院経営に与える影響と、高齢化が進む日本社会で病院が生き残るための方策、そして2025年の病院経営の在り方を明らかにする。
高齢化率と当期純利益の関係
高齢化率が経営に与える影響度を明らかにするために、2011年度から2014年度までの高齢化率と当期純利益額の関係を、秋田県と群馬県で比較した。
秋田県では有意確率1%で相関係数マイナス0.278となり、低い相関がみられた。群馬県では、有意確率5%で相関係数マイナス0.117となり、ほとんど相関がみられなかった。相関は、高齢化率の高い秋田県の方が強いため、高齢化率が高くなると当期純利益額は低くなる傾向があり、経営に影響を与えると考えられる。
人口当たり病床数と黒字病院の割合における相関
人口当たり病床数に着目し、秋田県保健医療計画及び群馬県保健医療計画に掲載されている病床数より、二次医療圏別に、人口当たり一般病床数、65歳以上人口当たり一般病床数、65歳以上人口当たり療養病床数を出し、表3および表4にまとめた。
医療圏 | 高齢化率 | 人口10万人当たり一般病床数 | 65歳以上人口10万人当たり一般病床数 | 65歳以上人口10万人当たり療養病床数 |
由利本荘・にかほ | 33.6% | 134.6 | 402.1 | 14.2 |
大館・鹿角 | 48.2% | 121.7 | 252.5 | 108.4 |
横手 | 35.3% | 99.4 | 281.4 | 15.4 |
能代・山本 | 38.7% | 95.1 | 246.3 | 71.5 |
秋田周辺 | 28.2% | 92.4 | 328.4 | 95.6 |
湯沢・雄勝 | 35.6% | 76.2 | 213.9 | 23.4 |
大仙・先北 | 35.9% | 72.9 | 202.9 | 51.4 |
北秋田市 | 41.1% | 67.7 | 164.9 | 35.3 |
秋田県全域 | 33.1% | 83.3 | 247.3 | 55.1 |
医療圏 | 高齢化率 | 人口10万人当たり 一般病床数 | 65歳以上人口10万人 当たり一般病床数 | 65歳以上人口10万人 当たり療養病床数 |
吾妻 | 34.6% | 69.0 | 199.4 | 247.9 |
沼田 | 33.9% | 206.7 | 610.0 | 239.3 |
富岡 | 29.8% | 110.3 | 372.0 | 219.7 |
桐生 | 32.6% | 100.2 | 308.0 | 147.6 |
太田・館林 | 24.3% | 78.6 | 325.0 | 118.4 |
藤岡 | 29.1% | 106.9 | 387.8 | 109.8 |
伊勢崎 | 23.1% | 71.0 | 308.7 | 92.1 |
高崎・安中 | 26.6% | 58.4 | 221.8 | 85.0 |
渋川 | 30.3% | 124.2 | 411.6 | 47.8 |
前橋 | 26.6% | 95.3 | 360.0 | 46.7 |
群馬県全域 | 26.8% | 71.1 | 266.8 | 88.1 |
さらに、秋田県と群馬県の医療圏において、(1)高齢化率と65歳以上人口当たり療養病床数の相関、(2)65歳以上人口当たり療養病床数と二次医療圏別の黒字割合の相関を調査。
秋田県では、(1)に相関係数マイナス0.364の相関、人口(2)には相関係数マイナス0.642の相関があった。 群馬県においては、(1)に相関係数0.599の相関があったが、(2)人口には相関がみられなかった。
これらのことから、高齢化率の高い医療圏では65歳以上人口当たり療養病床が多く、65歳以上人口当たり療養病床が多くなるにしたがって黒字割合も増加する傾向があると考えられる。また、秋田県も群馬県も同様に療養病床が少ない医療圏では赤字になるのではないかと考えられる。
人口当たり医師数と黒字病院の割合における相関
続いて、高齢化率と医療従事者数の関係に着目し、平成27年度の秋田県病床機能報告より、二次医療圏別の人口人当たり医師数を算出した。同様に、二次医療圏別に人口人当たり看護師数も割り出した。
高齢化率と人口当たり医師数の間には、相関係数マイナス0.69の相関があり、医師は高齢化率のより低い医療圏に多く存在することが分かる。そのため、高齢化率が高くなるにしたがって、人口あたりの医師数は少なくなる傾向が伺える。
また、二次医療圏単位での高齢化率と黒字割合の間には相関係数マイナス0.66の相関もみられた。
これらのことから、高齢化率が低い医療圏では医師数が多くなるほか、黒字割合も高くなる。しかし、高齢化率が高くなるにしたがって医師数が減少することに加え、経営状態の良好な病院も減ってくると考えられる。
また、高齢化率と師数の間には相関人口がなく、看護師数は高齢化率に左右されないと考えられる。
これまでは看護師の確保が経営課題の一つに数えられていたが、今後は高齢化率の上昇にともなって、医師確保の方が経営課題としての存在感が相対的に増してくるのではないだろうか。
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